黒猫:だいぶ久しぶりになります、活字ラジオです。皆さんこんばんは。黒猫シリーズでおなじみ、黒猫です。

作者:久しぶりだねえ。1年半ぶり? くらいだよね。 

黒猫:そもそも、最後の時に、しばらくお休みしますとか何もそういう挨拶がなかった。これは君が悪い。事情をきちんと説明してくれないと。

作者:まあ、あれですよ、バンドだって長く続けてるといろいろあるじゃない?

黒猫:僕と君はべつにバンドじゃないけどね。

作者:早い話がルーティンになっちゃうとつまらないなって思っちゃったわけだ。

黒猫:マンネリってことかな?

作者:そうそう。毎月やって、新刊が近いとその宣伝をして……っていうね、そのサイクルがまあ何というか、向いてなかった。

黒猫:君は基本的に生活全般が向いてないようなところあるもんね。デスクの前で今日の仕事を思い出すのに2時間かかったり、買い物に行ったのに頼まれたのと違うもの買って来たり。

作者:そうそう、朝起きたら歯ブラシで髭を剃ろうとして…って誰がだ!

黒猫:誰もそこまでのボケをしろとは言ってない。

作者:まあでも大体そういう人間だけどさ、それは俺がマンネリを嫌ったのと全然関係ないじゃん?

黒猫:僕も2年ぶりだからね。少しは君をディスりたい。

作者:黒猫シリーズの発売のときに活字ラジオを復活させようかなってのは前から思ってたんだよ。だけど早川書房さんで新シリーズの『探偵は絵にならない』が先行したりしたから、黒猫シリーズの新刊が思いのほか延びてしまって、この時期になってしまったわけ。

黒猫:まあいいよ。それで、新刊が出たわけだね。宣伝をどうぞ。

作者:『黒猫と歩む白日のラビリンス』(ハヤカワ文庫JA)が9月17日に発売となりました。文庫書下ろしですので、間違っても単行本の新刊の棚を探して「ないなぁ」と思わないでくださいね。

 

 

黒猫:今回も丹地陽子先生のイラストが素晴らしいね。

作者:毎回丹地先生はラフ画の段階ですでに「これラフ画なんですか? 完成版じゃないんですか?」って驚くくらいの感性度の高いものを上げてくださるので、もうラフの段階から絶叫しちゃったよね。

黒猫:毎度、作品のモチーフもちりばめてくださるし、発売時期の季節感もさりげなく…ね。表紙で僕は眠ってるけど、実際、今回は作中でも僕はラクをさせてもらえた気がするなぁ。

作者:付き人が成長したからね。今作は付き人の成長譚という形をとっている。

黒猫:そのぶん事件はいつもより派手だったね。

作者:付き人が成長してきたからこそ、周りに頼られたり、彼女自身が成果を出すべき義務みたいなのも出てきて、巻き込まれ感が増しているかもしれない。

黒猫:女性私立探偵のハードボイルドっぽさも、ちょっとある?

作者:そうだね。サラ・パレッキーのウォーショースキーシリーズとか、日本だと若竹七海先生の葉村晶シリーズとか、そういう系譜にあるものとしても読めるように、というのは、まあ多少はなくはない。

黒猫:第四話は、がっつり灰島さんが出てきていたね。

作者:うん。当初は君も区長の部屋に招かれていて、そこで灰島と黒猫がご対面、というシーンもあったんだけどね。

黒猫:あ、そうなの? 

作者:でもT嬢がこれは灰島と付き人の事件だから黒猫は最後に出てくればいい、と。

黒猫:な……そ、それで僕は最後にちょこっと……。

作者:おかげで二人をぞんぶんにイチャコラさせられた。

黒猫:あれはイチャコラではない。

作者:イチャコラに定義が?

黒猫:定義はあるだろう。

作者:たのしい掛け合いがあって、スイーツを食べていて、美学談義もあって……あ、これは君たちのふだんやってることだよね。ふだんの君たちがイチャコラなんだからこれもイチャコラだろ。

黒猫:その考えが間違っている。まず、はっきりさせておくけど、僕たちはふだんからイチャコラなんかしていないから。

作者:だからそれならイチャコラの定義を言いたまえ。

黒猫:……かつてロシアのイチャコラ・ゴンチャロフという学者が発見したもので、その定義は、二者の関係の時間経過を超過した近距離性、またはまったく不要な馴れ馴れしさを伴う行為、とある。

作者:そこまで即席で嘘がつければ立派だよ。誰だよゴンチャロフって。

黒猫:とにかく、そういうわけだからイチャコラの定義には当てはまらない。

作者:1年半のあいだに逃げ切り方があざとくなったの? そのうち「その指摘は当たらない」とか言い出すんじゃないだろうな?

黒猫:言わないよ。僕が好きなのはパフェだしね。ところで、本作は最初から連作を予定していたのかな?

作者:話を露骨に逸らすのは前からだからまあいいか。ええとね、そうそう、文庫書下ろしでって言われたからね。それじゃあ連作かなぁって何となくね。まだ文庫化してない「ディストピア」を読んでない人もいるだろうし、あまり先に行き過ぎるとまずいでしょ。そうなると、でかい事件で一冊書くよりは、「ディストピア」の少し前から始まって、間に「ディストピア」あったんだなって匂わせて、その後の事件をちょっと書く、くらいがちょうどいいかな、と。

黒猫:まあそれはそうかもね。で、最初の一話目が「本が降る」。

作者:これは、丹地先生が2年前の「ミステリーの日」に描いてらした、本が降るなかで黒猫が佇んでいる絵にインスピレーションを受けて、そのときすぐにメモで「本が降る」って書いたんだよね。いつか短編集やるときにこのイメージは何かつながりそうだってね。

黒猫:で、実際に本が降る話を書いてしまったわけだ。丹地先生のイラストを見てなかったら生まれない話だね。

作者:まったくその通り。1話目にふさわしい話になったと思う。毎回、1話目にほしい話って、謎解きとしての明解さとかよりも、まず謎として魅力的であること、そしてできるだけ絵としてイメージしやすい謎であることっていうのを何となく僕は心がけている。

黒猫:その点、「本が降る」の場合は丹地先生の絵からインスパイアされているから、まさしく「絵になる」謎なわけだ。

作者:そういうことだね。まあ『探偵は絵にならない』の後だし、その流れを受けて今度は「絵になる…」と。

黒猫:とってつけたようなことは言わなくていい。

作者:あ、そう。まあとにかく、今作は、T嬢こと高塚さんとのタッグでやった最後の作品で、O氏こと小野寺さんとのタッグでの最初の作品という意味でもいろいろと意義深いところはある。

黒猫:今回は、世相を反映したような話が多いのも特徴だね。

作者:まあ、そう言われるし、俺もそう思って書いたんだけど、よく考えると、「回帰」でもAIの音楽が出てきたり、他芸術をまたにかけるお笑い芸人が出てきたり、中東の芸術を扱ったりと、その当時の世相をそれなりに反映させてるんだよ。「ディストピア」だって、よく読むと随所にそういうところはあるんだ。

黒猫:今回がとくべつではないわけか。

作者:ただ今回はとくにいつも二人の恋愛部分だけ楽しんで美学部分は流し読みって人たちにも「ぜったい流し読みさせない」っていう気持ちで書いたからね。いつもとスタンスはたしかに違ったかも知れない。美学が実学であるというところをきちんと提示していくには、けっきょくこのやり方が最適だったんだよね。

黒猫:たしかにね。もともと学問というのは社会からの必要性から誕生しているのであり、「なんか浮世離れしたよくわからないもの」なんかではないんだよね。

作者:そうそう。たとえば「うつくしい国」って言葉があるけど、民族的なイデオロギーという不純物を混ぜないかぎり出てこない言葉であり、そうであるなら「美とは美以外の一切の関心抜きに成立するもの」という美の定義から外れてくる。

黒猫:そうだね。純粋理性による美とは、宗教的なものや民族的なもの、伝統とか、倫理的なものやそういうもろもろの関心抜きに、美そのものを捉えることだから、「うつくしい国」というのは大いなる矛盾だね。

作者:でも「うつくしい」という言葉が独り歩きしだした世紀では、都合のいいように美が使われ、そのものの正統性の根拠を証明するのに利用されたりもする。そういうなかで、俺は今までちょっと黒猫シリーズをちょっと衒学的にしすぎて、反対に美学というものの「実学」としての側面を語らな過ぎたんじゃないかという気がしたんだよね。

黒猫:そういう自己反省の意味もあっての、この短編集なわけだね。

作者:そうそう。

黒猫:おっと、すっかり喋り過ぎてしまったけど、追加特典のお知らせがあるんだろ?

作者:うん。その前に、今回の文庫の帯にも特典がついてますってことを先に一言ね。今回の帯袖バーコード特典は、「黒猫がまたいない夜の魔法」。灰島が出てくるから、まあ本編を読んでからのほうがなお楽しめるかもね。

黒猫:そんな短篇もついているのに、さらに追加特典が?

作者:そう。じつは、T嬢とのやりとりで、第二話をまるごとボツにしてしまったんだ。

黒猫:それで代わりに書いたのが「鋏と皮膚」?

作者:うん。あまり時間ない中で書いたわりにいちばん評判よくて戸惑ってるんだけどね。

黒猫:そういうのは、まあ時間じゃないからね。それでボツになったのはどうして? 面白くないの?

作者:いや、そうじゃないよ。そのへんの話はね、先日のリモートトークイベントで詳しく話しているのでそれを見てください。

黒猫:追加特典についてもその動画を見ればわかるのかな?

作者:そういうこと。小野寺氏の黒猫コスにもご注目。

 

 

黒猫:ということで、応募締め切りが10月15日か、近いね。

作者:動画のなかでも話してるけど、読み終えられそうになければ「おもしろかった!」の一言でもけっこうです。

黒猫:すでにぞくぞくと感想が集まってるとか。

作者:うんそうなんだよ。ありがたいね。

黒猫:僕もアカウント作って感想書こうかな。

作者:すぐバレるよ。

黒猫:え、なんで?

作者:どうせあれだろ? 灰島のシーンが長い、とかそういう感想だろ?

黒猫:そんなこと誰が書くか!

作者:ちょっとあの話の最後のほうで本当は何があったんですか、とか。

黒猫:書きません。

作者:でも絶対気にしてるよね? あの時、どんなことがあったんだろうって。

黒猫:君は完全に僕という人間を誤解してるな。

作者:まあいいや、そういうことにしておこう。ではでは皆さん今夜はこのへんで。たくさんのご応募お待ちしておりまーす。おっと、最後に追記です。来月、新刊が出ます。構想5年。これまでのキャリアのすべてが詰まった過去最長の作品です。そして……詳しくは言えませんが、黒猫シリーズを読んでいる皆さんにもぜひ読んでいただきたい、そういう作品です。まずはあと十日ほどで発売になる「小説現代」に第一部が載りますので、そちらを読んで飼い主になろうかご検討くださいませ。

黒猫:き、気になる情報を最後に……。では皆さん、おやすみなさい。

 

こんにちは。

 

最近まったく動かしていないブログですが、

 

なんだか細かくチェックしてくださっている方が

 

相変わらずいらっしゃるようなので、

 

こちらにも宣伝しておきたいと思います。

 

現在、noteで『詩学探偵フロマージュ、事件以外』を

 

ほぼ毎日連載しています。

 

以下のURLから飛べますので、

https://note.com/millionmaro/m/m4230a17210aa

ぜひ遊びにいらしてください。

 

基本的には、「●日目」と書いてありますが、

 

(前編、後編)をセットで読んでいただければ、

 

何日目から読んでも問題ないようには書いてあります。

 

寒くなりましたね。

 

ご自愛ください。

 

2019年もあと少しですね。

 

年末にはあともう一回くらい、久々に更新してみたいです。

 

 

黒猫:また二日遅れでの活字ラジオだね。こんばんは。

作者:そうだね。不思議だ。でも、百年後の世界から見たら、この二日の違いなんてちっぽけな……。

黒猫:遅刻を正当化するな。

作者:二日の遅刻というのは、これは統計的にみて遅れとは申しません。むしろ、いわばですね、公式に23日が更新日なのでありまして、あたかも私が遅れたかのような……。

黒猫:どこぞの政治家の真似をしたってダメだから。よけいにダメだから。

作者:あそう。残念だ。

黒猫:それで、今日は何の話をしようか。

作者:君が断篇を四篇も書いたびっくりニュースから。

黒猫:いやもうその話題には触れないで。

作者:いやいや、拝読しましたよ。なかなか、エンタメでは全然ない感じで。

黒猫:はっきりつまらないと言ったらどうだ。僕は他人のために小説を書いた経験がないからね。

作者:いやいや、まあでもあれだ、みんなは「面白さ」以外に何かが足りないぞって思ってると思うなぁ。それが何かわかるかなぁ……?

黒猫:え、知らん。わからん。

作者:それはね、、、、付き人だぁ! 

黒猫:え?

作者:なんで君の小説には付き人が出て来ないんだ?

黒猫:出てくるわけないだろ……ばかじゃないのか……。

作者:だって黒猫が小説を書くって言ったら、ねえ? 私小説で、付き人のこと書いてくれると、思うじゃん?

黒猫:いやいやいやいやいや、ぜったい思わない。

作者:思うって。

黒猫:思わないよ。僕は思わなかった。

作者:君は本人だからね。

黒猫:本人が思わないってことは、誰も思わないってことだ。

作者:そんなわけなかろう。

黒猫:だって僕が黒と言ったら黒だ。ほら、このスーツの色は黒だろ? そういうことだよ。

作者:わがままか! みんなは違うんだって。

黒猫:いや、僕は君みたいに商業ベースで書いてるわけじゃないからね。人の望むことなんか書かないよ。だって面倒だから。

作者:あ! はっきり言ったこの男! 

黒猫:面倒くさいじゃん。君はよくやってるね、本当に。尊敬申し上げるよ。

作者:嫌味か、この野郎。

黒猫:いやホントに。わかんないもん、人が何を望むかなんて。それにほんの手すさびだからね。それ以上のものを書く気はないよ。今後も暇なときに、手すさびに、自分が納得できるものを書く。

作者:納得できる、付き人の断篇を、書く?

黒猫:書かない。しつこい。

作者:だって、もう言っちゃったよ。三月に薄い冊子にしますって。その中に付き人を描いた小説もありますって。

黒猫:か、勝手なことを……。

作者:あと、華影忍による、黒猫シリーズの二次創作も出す予定。

黒猫:オイ……いやさで言ったらそっちのほうが数千倍上だからな?

作者:目がこわいです、黒猫さん。

黒猫:当たり前だ!

作者:さて、話は変わりまして……。

黒猫:勝手に話を変えるな!

作者:来週発売予定の新作の話でもしましょう!

黒猫:無視か!

作者:3月1日発売予定『毒よりもなお』(角川書店)、著者初の青春サイコサスペンスとでも言えばいいかな。

黒猫:なんだかすごそうだ。

作者:なんだかアバウトな感想ありがとう。

黒猫:インパクトのあるタイトルだね。

作者:そういうものを選んだからね。

黒猫:アマゾンであらすじ読んだよ。実話がベースなんでしょ?

作者:ベースというか……まあ実話に着想を得ているね。ただ、ではその実際の事件に対して物申したいかというとそういうわけじゃないんだ。それだったら、むしろノンフィクションとして書く。ただその中にある、ある種の特殊な悲しさみたいなものがあって、それだけは現実の事件から切り離してでも伝える意味があるんじゃないかな、とね。まあこれ以上はネタバレにもなるし言えないんだけど。

黒猫:そうか。

作者:あと『黒猫のいない夜のディストピア』とテーマ的に表裏一体な部分もあるかな、と。〈物語〉とは何か、についての小説でもあるというかね。個人的には、「ディストピア」と本作と、あともう一作今後出る予定の作品で〈物語三部作〉かな、とも思ってるんだ。

黒猫:ほう。そう聞くと興味深い。

作者:まあそんなわけで、ぜひぜひ、よろしくお願いします。『羊たちの沈黙』のクラリス・スターリングに憧れる高校生が、首絞めを繰り返す〈ヒロアキ〉に興味をもって近づいていって調査する。異常な者と、それを追跡する者。二者間の奇妙な絆の物語であり、初めから青春が失われた者のためのレクイエムめいたものでもあるかな、と。

黒猫:そういえば、ツイッターでフジファブリックの「若者のすべて」を聴きながら書いたと言っていたね。

作者:そう。あの歌を聴きながら、この小説の〈ヒロアキ〉には、きっとこの歌の〈すべて〉がわからないんじゃないか、と思ったんだよね。そう思ったら、それこそが悲しいことのように思えてね。だから、「若者のすべて」自体、作中にも登場させていますので、フジファブリックファンの方にも読んでほしいな、と。

黒猫:なるほどなるほど。まあ、僕もフジファブリックは好きだからね。読んでみようかな。

作者:お、そんなきっかけで読んでくれるの? ありがとう! でもって付き人が出てくる断篇も書いてくれるの? ありがとう!ありがとう!

黒猫:言ってない!

作者:みなさん、黒猫は、書きます! といったところで活字ラジオはここまで。

黒猫:ちょっと待て! あと、忍先輩にも書くなって言いなさい!

作者:それではさようなら(無視)