平日の朝、5時30分。

 

出勤前にリビングで朝食をとっていると、テーブルの上に一冊のノートが置いてあることに気が付きました。手に取ると、それは4歳の長男が幼稚園で使用している連絡帳でした。連絡帳には、幼稚園の先生からの手紙と、妻からの返事の手紙が挟まっていました。

 

 

 

 

我が家の長男は、幼稚園の冬休みが明ける2日前から体調を崩しました。コロナではなかったのですが、熱が中々下がりませんでした。冬休み後も2週間ほど幼稚園に行くことができませんでした。冬休みの始まりから数えると、3~4週間は幼稚園に行っていなかったことになります。その後、登校ができる体調には戻りましたが、心の準備ができず、気持ちよく幼稚園に行くことができませんでした。毎朝、妻は長男と格闘し、半ば強引に幼稚園に連れて行っていました。妻の苦労には頭が下がります。

 

 

強引に連れて行っていたことには理由がありました。

2月の上旬に、幼稚園の発表会があります。保護者が参観している中で、衣装を着て、踊ったり歌ったりする特別な日です。日常では感じることができない気持ちを味わうことができる貴重な場です。長男にもぜひ参加してほしいと思っていました。練習をする必要もあるので、体調がよいなら、幼稚園に行ってほしいと考えていました。冒頭で紹介した手紙は、発表会に向けての活動に関することでした。

 

 

「リハーサルのための衣装の準備、ありがとうございました。〇〇君と相談をして、今日のリハーサルはお客さんの役をしてもらいました。お客さんの席に座って、一緒に踊っていました。リハーサルを見たことで、本番はみんなの中に入って踊れるようにしたいと思っています。よろしくお願いします。」

 

 

私はこの手紙を読み、先生が参加できない長男の思いを否定せずに受け止めてくれたことを有難く感じました。また、長男ができなかったことにも、「お客さん役」という役割を与え、価値付してくれたことに、子どもへの愛情を感じ、感謝の気持ちが湧き上がってきました。

 

 

 

 

 

 

 

同じ日の8時30分。

私は、担任をしている教室にいました。私の机の上には、一冊の連絡帳が置いてありました。中を開くと、「来週の〇時間目に早退をします。〇時ごろに迎えに行きますので、よろしくお願いします。」と書かれていました。

 

 

文章をパッと見て、「分かりました。ご連絡ありがとうございます。」と書き、連絡帳を閉じました。この間やく30秒。いつもならこの後連絡帳を本人に返却して次の仕事に移ります。しかしこの日は違い、今朝見た手紙を思い出しました。連絡帳をもう一度開き「音楽会に向けて練習を一生懸命頑張っています。」と書き足しました。

 

 

私が連絡帳に最低限のことだけ書いて返却をしそうになった理由は、学校の先生の仕事の特徴が考えられます。学校の先生は、30人~40人の子どもの様子や行動を把握しながら、限られた時間の使い方を考えながら、学習活動を展開し、成果を出し続けることが求められる仕事です。ですから、私が連絡帳を読んでいる時間にも、クラスの子どもたちは止まっていてはくれません。そして、連絡帳を書くために5分かけるとすると、その5分の間は、クラスの子どもたちの様子を見ることはできません。それくらい、1分、1秒、子どものために今自分が何をするべきかを考え、判断し、行動し続けることが大切です。ですから、連絡帳を読むときにも、常に30人~40人の子どもの様子が気になり、刻一刻と過ぎていく時間を意識しています。つまり、「落ち着かない状態」で連絡帳を読んだり、返事を書いたりしています。このような状況の中で連絡帳を読むと、どうしても最低限のやり取りになってしまいがちなのです。30人~40人の中の一人として考えてしまいがちなのです。(余談ですが、30人~40人の一人としての意識が低い先生のクラスは、クラス全体がうまくいかなくなる傾向があります。つまり、一人の子に関わっているときに、他の子のことを考えることができないと、だんだんと他の子たちが退屈になり、話を聞かなくなっていきます。ですから、30人~40人の中の一人として捉えることは、学校の仕組みの中では仕方がないことなのかもしれません。)

 

 

しかしながら、各家庭にとっての先生は、1対1の関係です。30人~40人の中の一人ではありません。たった一人の先生です。先生の言葉によって、どれだけ励まされるか。先生の対応ひとつでどれだけ傷付くか。私たち教師は、一人一人の子どもを成長させるためにいます。ですから、一人一人の気持ちを本気で大切にしなければいけません。我が子の幼稚園の先生からの手紙を見て、改めて、教師は一人一人の思いや願いを大切にしなければいけないことを感じました。連絡帳のやりとり一つとっても、「子どもや家庭にとっての担任は、私だけなんだ」という気持ちをもち続けたいと思いました。

 

 

そして、保護者の方には、教師という仕事の「大人数を限られた時間で同時に動かしているという特殊性」を理解していただき、一人一人に寄り添うことができる家庭のよさと、たくさんの子どもと交わる学校のよさを互いに活かしあう教育を、子どものために力を合わせて取り組んでいきたいと思っています。家庭と先生が力を合わせることが、一人一人の子どもの成長につながります。すべては子どもの成長のために。

 

 

読みにくい文章になってしまったかもしれませんが、長文を読んでいただき有難うございました。教師や保護者、学校や家庭などの枠に捉われることなく、目の前の大切な子どもの成長のために、大人に何ができるかを考え、子どもに返していきたいと思っています。できないことや弱点に目を向けたり、誰かのせいにするのではなく、自分にできることを前向きに取り組むことが大切だと思っています。感じたことなどを教えていただけると幸いです。