「僕がいちばん
好きな時刻は
夜明け前の
数時間だ」
小澤征爾さんのご冥福を祈ります。
2024/02/11
征爾さんを偲ぶ村上春樹さんの言葉が朝日新聞に出ていました。春樹さんは征爾さんを「夜明け前の同僚」と呼びます。征爾さんも春樹さんも夜明け前が大好きです。私も夜明け前の自分のやりたいことに没頭できる時間が大好きです。夜明け前を好きな人がいっぱいいるんだ思うとうれしくなります。征爾さんのご冥福をお祈りいたします。
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「夜明け前の同僚」をなくし、
心から哀しく思う。
「僕がいちばん好きな時刻は夜明け前の数時間だ」と征爾さんは言っていた。「みんながまだ寝静まっているときに、一人で譜面を読み込むんだ。集中して、他のどんなことにも気を逸らせることなく、ずっと深いところまで」
そんなときの彼の頭には音楽だけが鳴り響いていたのだろう。おそらくは無音のうちに。総譜を開けば、そこには純粋な音楽世界が展開した。それは哲学の理念と同じように、どこまでも純粋な、それ自体で完結したものだったかもしれない。それは夜明け前の暗闇を必要とするものだったかもしれない。
並べて語るのもおこがましいのだが、実を言えば僕も小説を書くとき、いつも夜明け前に起きて机に向かうようにしている。そして静けさの中で原稿をこつこつと書き進めながら「今頃は征爾さんももう目覚めて、集中して譜面を読み込んでいるかな」とよく考えた。そして「僕もがんばらなくては」と気持ちを引き締めたものだ。
そんな貴重な「夜明け前の同僚」が今はもうこの世にいないことを、心から哀しく思う。