東方不死死 第七章 「古の妖怪」
風見幽香との一戦とその後の顛末を上白沢慧音に伝えた藤原妹紅は、早々に今日の授業を切り上げた慧音と夕刻まで話し込み、孤児院を兼ねた寺子屋で面倒を見ている子供たちが仕度した夕飯を共に済ませた後、帰宅の途についた。
雨もすっかり止んで、来るときはぬかるんでいた道もだいぶ水がはけ歩きやすくなっていた。
幽香と分かれたのは正午を過ぎた頃だったろうか?そうなると、あれから五時間以上経過している。向こうで何かあるには十分な時間だろう。紫の来訪があったにしろ、なかったにしろ、今夜は幽香と話さなければならないだろう。長い夜になりそうである。
季節は初夏。陽は落ちたが、まだまだ空は明るい。
藤原邸の敷地に入る小さな門をくぐり、正面の封鎖された玄関を左折して南側の縁側に直接向かう。
幽香は妹紅と別れた時と同じ場所に同じ姿勢で瞑想するように目を閉じ静かに座っていた。
「ただいま。」
「おかえり。」
まるでずっとここで一緒に過ごしていたような家族間で行われるような、ありふれた普通の挨拶だった。
妹紅から見て縁側の左端にいた幽香から一番遠い右側から上がる妹紅を幽香は目だけでそれを追う。そして、その時妹紅のとった行動に驚いて思わず首を押さえた。
妹紅は家に上がると、まっすぐ博麗の護符の貼られた2つの8帖部屋を仕切る中央の梁の方へ向かい、それに手を伸ばした。
「ちょっと、待って!何もしてないでしょ!」
数時間前にひどいめにあったあの護符を忘れていない幽香は、またしてもそれをやろうとする妹紅に抗議する。そんな幽香を澄ました顔で一瞥だけ入れた妹紅は、その抗議を無視して無造作に護符を取った。
「くっ・・・。」
衝撃に備え首を押さえた幽香であったが何も起こらない。
恐る恐るゆっくりと目を開け妹紅を見ると、あの時取って見せた護符とは明らかに大きさが違う紙切れのようなものを持ってあざ笑うように、その紙切れをヒラヒラと振って見せた。
「どうやら、ほんとに家捜しはしてなかったようね・・・。」
「当たり前でしょ・・・それより、それは?」
それ、とは妹紅の持っている紙切れの事である。
「さぁ、なんでしょう?」
幽香の質問をはぐらかすようにおどけて見せ、そのまま幽香から一番遠い座敷の端に座り込むと、手に持っている紙切れの端っこを少しちぎり取った。
幽香は何をしているのかさっぱりわからず、固唾を飲んで妹紅の行動を見守った。
ちぎり取った紙片は、右手の親指と人差し指で縒るように擦り合わせ小さな固まりに変えた。
妹紅はそれを親指と人差し指でつまんだまま、右耳へ転がすとそのまま人差し指で蓋をするように添える。
妹紅は左の膝を曲げ、そこにあごを乗せ、目を閉じて耳に集中していた。
幽香は、最初何をしているのかさっぱりわからなかったが、だんだんとその意味が理解できた。
「まさか・・・私と紫の会話を・・・?」
妹紅はその幽香の問いに右目だけを開けて応えると、先程ちぎりとった紙片の元になっている紙切れを左手の人差し指と中指に挟んで、手首の回転だけで幽香に向かって投げた。どう見ても紙にしかみえないその紙は、空気の抵抗を受けた様子もなく、真っ直ぐ幽香の目の前に飛んで来る。
幽香は反射的にそれを手で受け止めようとしたが、妹紅が投げた左手の二本の指が折れるのと同時に、その紙は空気抵抗を受けヒラヒラと舞って幽香の正座している膝元に落ちた。呪符などを正しく正確に投げる技は、妖術使いの基本である。
幽香はその紙が何を意味するのかすぐに理解できた。
理解はできるものの半信半疑で幽香は妹紅がしたように、紙をちぎり小さな紙片にすると、それを縒って小さな固まりにし耳に入れる。何か聞こえると思ったが何も聞こえない。幽香は妹紅を見た。それに応じるように妹紅が口を開いた。
「ちゃんと、塞がないとだめよ。」
幽香は紙を耳にいれたものの、耳の穴付近に指を添えていただけで、ちゃんと塞いではいなかった。幽香は言われたとおり右の人差し指で耳を完全に塞いだ。
「聞こえずらかったら、反対の耳も塞ぐといいわ。」
妹紅にそういわれた幽香であったが、右耳を塞いだだけで十分な音量を得られた。
信じられない事だが、数時間前に交わした幽香と紫の会話が鮮明に聞こえてきた。妹紅の実力を認め、何をされても驚かないと思っていた幽香であったが、これにはさすがに驚いた。
盗聴札の存在は知っている。しかし、これらは博麗神社の神主クラスしか出来ない術である。
盗聴に関しては特にめずらしくないことなのだが、問題はそれを気づかれずに仕込むことが出来るかどうかである。
実は幽香にも花を使った盗聴は出来るのだが、草原など屋外はともかく、屋内でそのための花を仕込むのは容易ではない。妹紅の優れている点は、その術を使えるという事よりも、その仕込みの段階で、それを気づかせないところだろう。
あの時、わざと博麗のお札を外して幽香を虐めたのは、この呪符を仕込む為のカモフラージュだったのだ。危険なものとして過剰に意識を集中させることで、本命の僅かな呪符の気配を隠していたのだ。
またしてもしてやられた幽香。
「あなた、何者なの?」
「あんたらの予想通りさ。」
「・・・妖の狩人・・・。」
幽香がその言葉を口にした時、藤原邸の空気がピンと張り詰めたものに変わった。これは幽香によって発せられたというより、妹紅から発せられたものだった。
妹紅の目は、先の戦いの時のように挑発的な狩人の目になっていた。しかし幽香はそれに惑わされる事なく、自分でも驚く程頭の中は冷静で肉体的にも平静を保っていた。戦っても勝ち目がないのはわかっているし、そもそも戦える状態でもない。しかし、それは弱い立場による諦めの境地からくる冷静さでもなかった。
幽香はただ知りたかった。妖の狩人が生きているということは、藍が死んだ後、妖怪狩りを何らかの理由で辞めたことになる。何故追撃を辞め妖怪狩りをしなくなったのか、その理由と経緯。そしてそこには、妹紅と藍の二人の間に何かがあったはずである。幽香はそれをただ知りたかっただけである。
妹紅は何故幽香が怒らないのかわからなかった。
罵られ、罵倒され、軽蔑してもらってもかまわない。いや、むしろそうしてもらったほうがいい。自らの犯した罪に見合う罰など、死をもって以外あるだろうか?しかし、死ねない。死にたくても死ねない。死ねないなら、せめてその罪を責めて欲しい。
2人はそれぞれの思いを心の中で叫びながら、口では一言も語らずただ睨み合っていた。
陽も落ち、夕暮れから闇夜へと移り、明かりのない藤原邸は闇に包まれていたが、見えない火花が2人に闇を感じさせることはなかった。
そんな張り詰めた空気の中、最初に口を開いたのは風見幽香だった。
「私たちの仲間の多くが、妖の狩人によって倒されたわ。それ以前からも仏教の勢力が拡大し武装した僧兵らによって、多くの妖怪が狩られていたけど、私達に近い上位の妖怪はそれまでほぼ無傷だった。」
「・・・」
幽香は急に語りだしたので、何事かと思った妹紅だったが、すぐにその意図は理解できた。知りたいことがあったら、まず、こちらから先に話すということだろう。妹紅が何を知りたいかは教えていないが、何から教えればいいかを自分なりに考えてのことだろう。
「あなたの登場ですべてのバランスは崩れたわ。でもそれは必ずしも悪い事ばかりではなかった。人間と対決姿勢を崩さない妖怪の武闘派勢力は、八雲藍を擁立して人間に対抗しようとしていた。最初にあなたが狩ったのはそうした武闘派勢力で、私はどちらかというと八雲紫を要する博麗派だった。博麗派というのは、人間・妖怪融和派ってことね。幻想郷計画派と言ったほうがよかったかしら・・・幻想郷計画を遂行する側からみたらあなたの存在はまさに救世主のようなものよね。」
「・・・」
風見幽香が妹紅の知らない当時の妖怪側の情勢の詳細を説明しだしたが、この内容は上白沢慧音が推察していたものとほぼ同じような内容だった。
「元々幻想郷計画は博麗神社の発案で、紫はそれまでの博麗一族との交流と、自分自身の実力を試すといった理由でそれに荷担し、いつでも実行できる段階にきていたの。でも、それは生きとし生けるものにとって抗う事の出来ない最強の妖怪、紫の妹、八雲藍の存在がその計画のネックになっていた・・・。なぜなら彼女一人いれば、人間を滅ぼすことも可能だったからよ。」
「・・・」
「藍自身は、姉の紫を慕い紫の計画には賛成して、その事業に参加していた。でも、それを良しとしない武闘派連中にも担がれて身動きができない状態だったの。彼女が居なければ、博麗派と武闘派は戦闘になっていたかもしれないわね。いいえ、きっとそうなっていたでしょう。」
「・・・」
「そこへ来てあなたの登場。バランスが大きく崩れた。それでも多くの妖怪達は最後の希望を藍に託した。藍としてもこれ以上妖怪に被害を出さないためにも妖の狩人と一戦交え、何らかの結果を出さなければならなかった。でも、あなたが不死身だなんて当時は誰もしらなかったし、不死身な存在がいるなんてそもそも誰も考えてもいなかった。だからこそ、藍なら出来る、藍しか妖の狩人に対抗できないと皆思っていたの。」
「・・・」
幽香はそこでいったん口を休めた。妹紅は依然として同じ表情のまま幽香を睨んでいた。幽香は妹紅のリアクションを待つために話を止めたのではない。妹紅が自ら語り出すまで話を続けるつもりだった。
「八雲紫に組みする妖怪は、妖怪の中でもかなり強い部類の連中で少数派。九尾、鬼といった最上級の連中ばかりだった。彼らに共通するのは紫が覚醒する以前から付き合いがあるということ。覚醒後にその力に群がった勢力は出来たけどそれは月面戦争でほぼ壊滅・解散している・・・。」
「・・・覚醒?」
幽香はここで、いくつかの重要なキーワードを出したつもりだったが、この中で、覚醒という言葉に妹紅は反応した。これも慧音が言っていた事だが、慧音というより稗田一族の伝承として慧音が伝え聞いた話として妹紅が知ったことで、慧音にとっても確かな情報ではなかった。しかし、当時を知る幽香の発言によって事実であることが判明したことになる。
「あなたが知っている紫は、本来の紫ではないのよ。」
幽香は妹紅の目をしっかり見据えながらそう言った。
「藍を知れば、おのずと分かるわ。」
幽香は今の紫が本来の姿ではないというポイントを妹紅の心に対する強烈な口撃の手段と思っていたが、それはあっさりかわされてしまった。しかし、そのことで、妹紅は藍という存在がどんなものかをかなり正確に把握しているという事の裏返しであると判断できた。自分がそうであったように、妹紅もまた藍に魅せられたのは確実である。
「昔の本来の紫について話すには、私のことも少し話さなければならないわね・・・。」
妹紅はそれを要求していなかったが、どうやら幽香は全て話してくれるようだ。
「私が生まれた時代は正確には分からない。でも、私が子供のように小さかった時の記憶がある。1000年とか2000年とかそんなものではない。少なくとも3000年以上前ね。人間という存在を特に意識することもないし、自分自身のことすらどうでもよく、ただ花を追いかけて世界中を漂っていた。」
そう語りだした幽香は目を外に向け、縁側から見える闇夜の幻想郷に目を細めた。
縁側から見えるはずの竹林は闇夜で見ることはできなかったが、妖精か幽霊かは分からないが、色とりどりの光の粒が糸をひくように不規則に漂っているのが見えた。夜空に星はなくても幻想郷の夜に光が絶えることはない。
里から南東にある太陽の畑から竹林あたりは、妖怪達、たまに人間もだが、スペルカード戦による弾幕のメッカとして知られ、それを遠目に見ることが出来る。
「そうした放浪の中で出会う他者、妖怪なのか人間なのか幽霊なのかはわからないけど、そうした者と会話するすべを当時は持っていなかった。言葉が通じないというのではなく、言葉という意志疎通の手段が無かった。というより誰かと交流する必要がそもそもなかった。」
幽香は右手を上げて、その指先から何かを落とすと、そこから何かが生えてくるのが妹紅から見えた。暗くてよくわからなかったが、それはすぐに夜光草だと分かった。その植物のようなものは急成長し花を咲かせ、それが淡く光りだしたからだ。夜光草の光によって幽香が淡い緑の光に照らされた。
「ほとんど無意識だったから、当時の記憶も本来なら覚えて無くても仕方がないのだけれど、どうしても忘れられないものがあったの。」
「八雲紫・・・」
「そう、もちろん当時からそんな名前だったわけじゃないけど、その存在の印象がものすごくて今でもそれだけは覚えている。というより、その存在にまつわるものとして記憶が後から付いてくる感じね。子供の頃といえば気味の悪い紫とソレに関わるエピソードとしてじゃないと思い出せない。もしかしたら親がいて育ててくれていたのかもしれないけど、そんなことまったく覚えていないのよ。」
妹紅も同じだと感じた。人間であったころの10歳くらいまでの思い出は全て蓬莱山輝夜にまつわる、いわゆる竹取物語の場面しか記憶にない。
「紫は見るからに陰気で、見ただけで不快になる、どす黒く禍々しい存在だった・・・ちょっと言い過ぎかしらね。でも、最初に出会った時は、怖くて一目散に逃げだしたものよ。」
クスっと笑う幽香。
「藍が繋ぐ力なら、紫は裂く力ね。今はそれがスキマとよばれる境界を操る力の源になっているけど、その力を自由に扱えない時代は、紫という存在そのものが周囲に悪影響を及ぼし、繋がっているものを引き離してしまう存在だったの。」
「・・・」
「今でこそ私達は自由に力を使えるけど、昔は漠然としていて、力を使うということにまったく無頓着だったの。それを何故意図的に目的を持って使うようになったかというと、人間との接触からなのよ。」
「時代が進むと、人間も文化的に高い水準になっていくけど、そうして驚く程進歩を遂げる人間との接触によって、相対的に自分が何者であるかを知ることになるの。花を咲かせる能力は、他の妖怪の類に行使してもほとんど意味はなかった。花を与えても、それは食べ物だと思って食べて、まずいと言ってはき出す。おいしいというヤツもいたけどね。まーそんなアホみたいなやりとりしか妖怪の間では起きない。でも、人間は違った。花が綺麗で、それを贈り物にしたり、お墓に供えるといった行動を垣間見た時、自分がどんな存在なのかということが理解できたの。」
幽香は視線を妹紅に戻した。
「八雲紫とか博麗に近い妖怪は基本的に人間が好きなのよ。自分の能力が人間の中でこそ、その善し悪しを評価されるから。褒められて嬉しいと思う私のような妖怪もいれば、神隠しをして困らせて面白がる妖怪もいる。妖怪をどこかに連れ去っても、妖怪ってタフだからそこで普通に生活し出すから神隠しの意味がない。いなくなった存在を心配し家族が探すから、そこが面白いということになる。人間に近い妖怪は人間から好かれているか嫌われているかの評価は別にして、人間の起こす行動に妖怪自身の存在意義を見い出していたの。」
「・・・」
妹紅が幽香の話しに真剣に耳を傾けているのがわかる。話を途切ると目がムッとする。
「紫とは旅先で時々会うようになったの。こちらを追いかけているというより、向こうは向こうで勝手に彷徨っている感じで、偶然出会う感じかしらね。もちろん頻繁に会うわけではないわ。100年に1度とかそんな周期かしら。そうしているうちに私も慣れてくる。こっちはともかく、紫の方はなんとかお近づきになりたいらしく、人間を捕まえてきて私にプレゼントしてくれるようになったの。当時は、食欲旺盛で人間だろうが獣だろうがなんでも食べたわね。」
「・・・」
「紫の陰鬱さは、存在の本質的なものではなく、体質的なもので自分の意思とは関係なくそうなってしまうらしく、敵意があるわけではないということが分かってからは、お互いの距離は近付いたわ。彼女は花が綺麗だと言ってくれた。そういえばいつごろから会話しはじめたのか分からないけど、人間の生活圏に近付いてから、言葉を発するようになったり、衣服を着用するようになったわ。」
「・・・」
「そして恐らく1000年以上前かしら。月面戦争よりだいぶ前、突然、紫が今の紫になって私の前に現れたの。どういった経緯でそうなったかは、それ以前に博麗となにやら一悶着あったようで、そこから彼らと一緒に行動するようになって・・・。詳しくは本人に直接聞くしかないでしょうけど・・・。」
「・・・」
「その後、私は紫に呼ばれて、日本に定住するようになったわ。その当時から魅魔もいたし、萃香もいたわ。魅魔は、前に言った一悶着の原因らしいけど、魅魔の話では、魅魔は外国の悪霊で、紫が博麗の神主とケンカをしたとき、何をやっても敵わない神主を倒すために、無理矢理呼び寄せたようなの。でも、逆に神主らにその怨念を沈めてもらい、お祀りまでされて、ようするに怨霊から御霊になったというわけね。そして魅魔は幻想郷に定住する事になったというわけね。魅魔の服従、それがきっかけで紫は博麗の神主に全面降伏して以後真面目に修業をするようになったらしいの。そしてそれが覚醒に繋がったというわけね。」
「どんな修業をすれば覚醒なんて出来るのかしらね・・・。」
妹紅は誰に言うわけでもなくつぶやいた。
「その辺は私よりあなたのほうが推理しやすいのではないの?私は具体的なことはまったく知らないわ。」
「一つ聞いていい?博麗の里は日本のどこにあったの?」
幽香の了承を得る前に妹紅のプロファイリングが始まる。
「近畿地方のどこかね。」
素直に答える幽香。
「妖怪の山は八ヶ岳をベースにしているらしいけど、だとしたら方角がおかしくない?」
「幻想郷は、ある特定の土地をすっぽり隔離したのではないわ。色々な霊的要素の強い場所を継ぎ接ぎして出来た世界よ。魔法の森は外国のものだしね。」
「なるほど・・・里に妖怪やらなにやらが住み着いて、住民やその周辺住民はどう思っていたのかしら?」
「里はある意味人間の社会からも隔離されていたわね。罪人の流刑地ではなかったみたいだけど、周辺住民との交流はほとんど無くて、神主が周辺で何か荒事が起こって必要な時に出張って行って解決していたわね。」
「幽香とか妖怪の主食は?」
「肉。大昔は人間も食べていたけど、里周辺で暮らすようになってからは、人間達が獣の肉を提供してくれたわ。」
「人間も肉食べてた?」
「ええ、もちろん・・・それがなんなの?」
「やっぱり・・・。」
妹紅は幽香の返答で個人的に思っていた疑問が一つ解決した。
「何?」
「いや、なんでもない。」
妹紅は、里から竹林へ向かう道の途中で西に側に川があり、その向こうに関が見えるそんな地形にいくつか見覚えがあったが、これは、穢多(エタ)の村の特徴であった。
穢れが多いと書いて穢多。西日本では、肉や皮を作る仕事をする人たちをそう呼んで差別していたのだが、当時西日本では、ほとんど獣などの肉食の習慣がなく、あったとして解体業務はそれらを職業とする人達に完全に委託していたのである。東日本では特にそういった習慣はなく、大和民族が入植するまでは、狩猟採取が主である。
血生臭い事を極端に嫌う当時の人々は、そうした血や死を穢れとして忌み嫌い、それらを行う人々を差別し川向こうに隔離したのである。穢れは禊といって清らかな流水によって洗い清められるといわれていたため、川を挟む事で穢れが拡大しないとされていた。
その為、食肉皮革業者の集団を川向こうに住まわせ、こちら側に来ないように監視していたのである。こういった村は西日本に幾つか分布していたが、いずれも非常に貧しく、米など一生口にできないのが一般的である。
しかし、博麗の里はそうした穢多の里とは少し違う。恐らく博麗の一族によって、どの村よりも当時としても近代的な生活を送っていた感じである。
食肉が生活に馴染む一方で、米も作っていたということは、稲作などの技術を誰かがここに持ち込んだに違いない。それは恐らく博麗という強力な指導者的集団が村に入植したからだろうと容易に想像できる。しかし、こんな穢多の村に住み着くというには何か理由があるはずである。
中央との確執、例えば神社に関する組合のようなものから脱退したとか、何か禁忌を犯し追放になったなど。
妹紅の予想では、博麗の一族は大陸に派遣された、もしくは個別に大陸にわたり仏教や道教を持ち帰った人達の一部、そうでなければ渡来人の帰化人ではないだろうかと推測する。霊夢を見ても分かるが、古来の日本神道というより、そのスタイルは陰陽道などの混合スタイルである。陰陽道とは道教を元に日本で独自に発展したものである。
里の慧音から幻想郷の資料を幾つか見せてもらったことがあるが、里にはお寺はないものの、死体は全て火葬し、親戚縁者、神主が念仏を唱えて葬っていたのだ。里の住人の識字率はほぼ100%で、大人ならお経も唱えられる。里の貧富の差は大きいものの、字を読める、お経を唱えられる。この2つは博麗の里の住人の最低限備わっているものである。慧音が寺子屋をする以前は、そうした勉学は神社の管轄であったそうであるが、その寺子屋を始めた当初から基本的な「いろは」は教えなくてもどの子も知っていたそうである。
初期の仏教は、どちらかというと学問・哲学的意味合いが強く、東大寺の大仏などお金をかけたわりにご利益がなく、逆に天武天皇系の血筋が途絶え、奈良の平城京から山城の平安京への遷都とつながったわけだが、つまり、護国という目的を達成できなかったわけである。
天智天皇の系統が復活したことで、奈良仏教などとも呼ばれた旧仏教は平城京と大仏などと共に捨てられ、京都へ遷都と同時に、当時の一線から退いた。
その後、長岡へ一旦都を移したものの、ここでも災害やまず、神道、風水、仏教と良いとされるものはすべて取り入れた平安京が1000年の都として栄えることになり、仏教は、当時、大陸に派遣された最澄や空海らの持ち帰った新仏教・密教が主流となっていく。
博麗神社の現在のスタイルは奈良時代より、平安時代初期に確立されたと思われる。
それらの変遷は西暦700~800年あたり、当然ながらその下地となる博麗神社はそれより以前から続いており、八雲紫は旧仏教時代に覚醒したものと思われる。旧仏教は、天皇にしろ一般市民にしろ、実生活においてほとんど役に立たない哲学的な意味合いが強いが、実践でしか感覚を見出せない妖怪、つまり紫に境界という概念を教えるのにはむしろ好都合だろう。
妹紅の誕生年が702年。ちなみにこの年は西行寺有子(幽々子)の死亡した年でもある。西行寺人麻呂と柿本猿(?)の時代、650年前後が八雲紫の覚醒時期になるだろうか。覚醒後、安定期に入ってから生前の幽々子、有子に出会い死別を経験。それだと、妹紅の知る西行寺家の顛末に一致する。
博麗神社が新しい大陸の概念を取り入れ、それが紫に反映される事になるわけだが、新仏教、特に密教は既にあるものをなぞる教えではなく、実践、実感、つまり体験が重要という教えだ。一旦覚醒した紫にとって、旧仏教は無用の長物であり、成長を促す役目を担うのは新仏教、特に密教といえた。
当時の国教ともいえる神道の最大の問題、死=穢れという概念があったために、天皇の死は最大の穢れを生むとされ、天皇が逝去するごとに都を変える遷都を行っていたが、天皇の在任期間の短い当時は、非常に無駄が多く、都という都市国家が大きく成長しなかった。そんな中、歴代天皇の中に仏教式の火葬で弔われる者も出はじめ、次第にそれが当たり前となった。今でもそうだが、結婚式は神社、葬式はお寺であるが、一見して系統の違う2つの宗教が用いられている様に見えるが、この国の仏教はあくまで神道の一部なのである。
しかし、今でこそそれが当たり前になっているが、時代の流れにより変革が迫られ、実際そこにいたる間に血生臭い荒事に迫られることが多い。
当時、そうした時代の節目、天下の分け目でいえば、壬申の乱がそれにあたるかもしれない。結果としては権力中枢が天智系から天武系へと移るが、それ以降奈良時代に入ってから、すさまじい権力闘争劇が繰り広げられることになる。
妹紅の所属していた岩老郷妖術一族は、妹紅自身が入郷するのが914年。妹紅が212歳の時で、この時期は平安中期である。当時のゴタゴタに関しては、妹紅はまだ無関だったので体験としての記憶はないのだが、元々岩老郷は、天智天皇系列の皇族に仕えており、天下が天武天皇に移行してからは、その裏で権力回復の為に様々な裏毎に携わっていた。天武天皇側に組するそうした裏事専門の一族も確認されており、彼らとの抗争もあったという記述を妹紅も知っているが、もしかしたらそこに博麗の一族があったかもしれない。
穢多の村に移住せざる終えない理由があるとすれば、天武系の滅亡により、その後ろ盾を失い、追っ手から逃れるというのは、ありえない話ではない。もちろんこれはあくまで妹紅の予測である。
天智系に再び権力が戻り、岩老郷も裏の世界のトップに返り咲くことになる。
妹紅は914年(212歳)に入郷後、1162年(460歳)までは、時間を無駄に過ごしてきたが、1162年、西行との出会いから一転妖術使いとしての修行が始まるわけである。
妹紅は入郷してから250年程、下っ端仕事や家事手伝いをしながらも、岩老郷の歴史についても学ばされていたので、彼らの活躍が始まった飛鳥、奈良、平安初期の裏事情はほぼ完璧に精通している。西行寺に関しての事もそこで学んでいた。
妹紅は1300年という長い年月のほとんどを人間と接して過ごしてきたが、その時代毎に常識は異なり、今でこそあの世この世は常識になっているが、その概念が生まれる前は、つまり仏教や道教などが輸入される以前は、人は死んだらそれで終わりだった。
八雲紫の覚醒は、概念の改新であり、今まで物理的な境界しか操れなかった紫が、仏教や道教など大陸から伝播された世界概念を博麗神社から教わった事によって、目に見える手で触れる現実の世界と、目に見えない触れることの出来ない概念、感覚的な世界の境界を取り払うことに成功した。これが覚醒の正体であると考える。
現実世界はそのまま目に映る光景を利用できる。しかし概念は現実とは対等ではない。個人の想像力の差で大きく変わる。墨一色モノクロな世界と、現実に即した極彩色世界、そして、現実を超えた人智の及ばない世界、いずれも個々の脳内だけの世界である。しかし、ただ考えただけの世界ではダメである。例えそれが想像上の世界であっても、そこに自然の法則が備わっていなければ創られても維持できない。自然の法則は膨大な知識の量とその知識を下支える圧倒的な体験が不可欠である。さらに現実の世界にある仕組みから飛び出し、まったく新しい秩序仕組みを構築することも可能である。
イメージの中の静止映像が動き出した時、絶妙なバランスで自然と生命の生き死にが再現されなければならない。それが出来る段階ではじめて現実の世界と概念の世界の境界を取り払えるのである。
「紫の覚醒というのは具体的にいうと、完全な妖怪と未完成の人間との境界を取り払ったことね。私達のような古い妖怪というのは強いけど、その強さはある程度決まっていて、訓練で爆発的に力が上昇するなんてことはない完成された生き物なの。逆に人間は、個体差が大きく修業で驚く程大きな力を持てたりする。特に内面的強化によって、格段に強くなる性質があって、あなたも不死身ではあるけど、恐らく強くなるきっかけが何かあったのでしょう?」
妖怪は年齢によって妖力が上昇するものの、基本的な能力は生まれた時から決まっていて、一定の成長ラインを持っているが、人間は平均的に能力が低いものの、内面的成長によって別次元の強さを持つ個体が稀に現れる。妹紅自身は、博麗の神主や巫女といった血統的な先天性の素質と、修行による後天的能力を併せ持つ連中とは違い、基礎能力は著しく弱く、不死身であるだけで特にこれといった先天的な素質はない。長時間生きられるという特性によって、勉強し習得した技能を不死身の特性と巧く組み合わせる事で尋常ではない力を発揮出来るだけである。何はともあれ、不死身というのは反則ではあると妹紅も自覚している。
「つまり、紫は妖怪としての高いポテンシャルを持ちながら、人間の無限ののびしろを得たと?」
「そういうことね。でも・・・。」
「ああ、人間の心は脆い・・・。」
「そう、紫は精神面が人間に近くなりすぎて、私達のように一貫した揺るがない精神力がなくなり、その時の気分で行動が流されたり、ちょっとしたことで落ち込んだり怒り出したりと、かなり情緒が不安定になったわ。でも、そうした不安定な精神も博麗との修業でだいぶ良くなって、その良くなった状態というのが今の八雲紫ね。当時はきちがいじみて相当やばかったのよ。」
「何故、博麗神社は紫を育てたんだろ?妖怪を育てて何か得する事でもあるの?」
「その辺は私にも良く解らないわね。私は紫達とは仲良かったけど、博麗とは距離をおいてたわ。萃香は博麗神社に住み着いてたけど・・・。ただ、博麗神社には、幻想郷つまり当時の彼らの住む地域を世間から隔離するという大きな目標があったみたい。で、それを紫にやらせようとしていたのね。」
「なるほど、紫をある意味利用しようとしてたのか。」
中央における活動の場をなくした博麗神社が幻想郷という別世界に何を求めたかはわからない。そもそも、これも妹紅の考えだけのことで、実際はどうかはわからない。そして、その辺は幽香に聞いても分からないだろう。
「そういう事になるけど、紫にしてみても別に損な事ではなかったでしょうし、そもそも、昔の自分がとても嫌いで、変身願望があったわけだし、それを叶えてくれた博麗神社に恩を感じ、例え利用されるにせよ協力することに吝かではなかったでしょうね。」
しばしの沈黙。
「でも・・・紫の本質が変わった事で、藍との対極性が無くなった。」
藍と紫の対局する力によって保たれていたバランスが崩壊するということは、双方を無にしてしまいかねない。
「紫がすさまじく強くなったことで紫派と呼ばれる紫個人に従う集団が出始めて、妖怪はある意味この時が全盛期かしらね。紫も持ち上げられて、今までにそんなことが無かったから調子に乗った。で、その流れで月面戦争に突入したの。」
「月面戦争か・・・話には聞いていたけど本当にあったのね。」
「月面戦争は私にとってデビュー戦みたいなものかしら。私は1000年前まで、大した妖怪にみられていなかったのよ。」
「へー・・・にわかに信じられないけど・・・。」
幻想郷界隈では、「長い」という単位は1000年で、長寿な妖怪は2000歳でも3000歳でもそれ以上でもほとんど1000年以上という言い方をする。1000年前というと妖怪の世界では月面戦争という大きな事件があったわけだが、この時に多くの妖怪が命を落としている。その当時の幽香がどの程度の位置にいたかは妹紅も予想できないし、妹紅からすると妖怪は強ければ強いほど倒しやすいので、妖怪の強さの尺度があまりよくわからない。
「風見幽香=花だったから、大した力も持たない妖怪で、紫の幼馴染みってだけの存在としてしかみられなかった。」
「それが月面戦争で覚醒した?」
「覚醒?そんな大したものじゃないわ。負け戦故に、英雄が必要だっただけよ。私は月への進軍の際に文字通り花道を添えるだけの役割として紫に随伴したの。月の力をしらなかった私達は、意気揚々と進軍。敵が現れず皆恐れをなした腰抜けと月面軍を笑い飛ばしていたの。敵地に深く侵入した時点でお約束の待ち伏せ。遮蔽物のなにもない場所で、こちらから視認できない遠方から強力なエネルギー砲を正確に喰らって、たった数分で前衛が壊滅。この部隊は主力だったからもはや紫軍に打撃力なし。みな後退をしたけど、追撃でどんどん死者が増える。私は花道の為に進軍ルートに蒔いておいた種を発芽させ成長させて遮蔽物を作って後退を助けたの。遠距離攻撃ができなくなった月面軍が近接戦に持ち込もうと急接近して逃げる縦長の紫軍の後背に迫った時、向こうも縦長になった陣形に私は切り込んでありったけのパワーで逆撃したの。向こうは完全に油断していて、しかも縦長の陣形だったから、月面軍にとんでもない被害がでたわ。」
「へーすごいのね。」
「そのたった一撃で、私は次の日から英雄扱い。最強の妖怪なんて祭り上げられる始末。でも自分でもそんな力があったなんて思ってもみなかったわ。あの時は無我夢中で・・・。その後、紫は復讐しようと一時期その計画を練っていたようだけど、頭が冷えて冷静になったところでそれも断念。その後はしばらく落ち込んでいたわ。」
「幽香が紫から特別扱い受けている理由がわかったわ。」
九尾、鬼を差し置いて最強の称号を得ている風見幽香の実力は決して最強ではないが、多くの同胞を助けた殿戦の活躍を聞けば、幽香にこそその称号が相応しいと妹紅も思う。
しばらくの沈黙があって、先に幽香が口を開いた。
「さて、そろそろ私と紫の話は終わりね・・・というわけで妹紅。次はあなたの番よ。」
「勝手に話し始めたのはそっちでしょ?私に何を話せというの?」
「藍の事よ・・・あなたと藍の戦闘後、あなたはそれまで続けていた妖怪狩りをやめたでしょ?その理由を聞かせて。」
「・・・私から語る事なんてないわよ・・・。」
「妹紅!」
幽香は妹紅の名前を叫んだ。確かに一方的にこちらがしゃべっただけで、お互いに情報交換しあう約束をしたわけではない。しかし、こちらの誠意を無下に扱う事は許されるものではない。妖怪の尺度でいえば、妹紅は幽香の要求に応える義務がある。
もちろん、人間である妹紅にはそんな義務はない。しかし、義理はあるかもしれない。だが、妹紅は同じセリフを繰り返した。
「私からはしゃべる事なんてない・・・。」
「妹紅、私はあなたを見損なったわ・・・。」
落胆を意を体全体で表す幽香。
「・・・私の口からしゃべる事はない・・・。」
妹紅は沈痛な面持ちで、絞り出すように答えた。3度同じようなセリフを聞いた時、幽香の落胆は消えた。妹紅の真意を理解したのだ。
「あかった。口を開きたくないなら、それでいいわ。」
妹紅は自ら語りたくはないが、説明できる手段があると言っていると幽香は理解した。そして、その発想にいたるものを先程幽香は見せられた、いや聞かされた。
その言葉を聞いた妹紅は頷くと、一枚の呪符を取り出す。先ほどの様にそれを投げると思っていた幽香だったが、妹紅はそれを無造作に上の方へ放り投げた。
その呪符はしっかりと加工され、先ほどの盗聴札のように薄っぺらなものではなかった。
呪符は不規則に回転しながら放物線を描くように幽香の方へ飛んだが、梁の高さまでくると天井付近に押し上げられた妖に触れ、そこで反応して突然無数の札に分裂して、幽香と妹紅の中間あたりにバラバラとまき散らされた。分裂して細かくなったのではなく、同じような札が増殖したと表現したほうがいいだろう。実際には数百枚の呪符を1枚にまとめる術を施していて、その施術の解除を自分ではなく、天上付近の妖にまかせたということである。
「これは?」
「・・・」
妹紅は幽香の問には何も答えなかった。
ばらまかれた無数の札は、程度に差はあったが、先ほどの盗聴札と同じようにちぎられた痕があった。
幽香は暗くてどれが藍のものか分からなかったので明かりを付けることにした。右の手の平を上に向けて、その手の平から小さな虫が空中を漂い始めた。蟲たちは規則正しく光を明滅させながら部屋中を飛び回った。
かなりの光量になり、部屋は字が読める程度にほんのりと明るくなった。
「蟲を操れるのね。」
「蟲を操れる知り合いから丁重に借りているだけよ。」
その蟲をあやつれるヤツとやらに同情する妹紅。
この無数の呪符はおそらく1枚に1人の妖怪のなんらかの記録が封じ込まれているのだろう。それを見つけ、先程の盗聴札のようにすればいのだろう。
幽香がそのお目当ての札を見つけるのにそれほど時間を必要としなかった。
明らかに他とは違う札がある。いや、それはもはや札の形をしていないなかった。
ここにまかれている札の長さは五寸程で、妹紅らの所属していた一族共通の標準的な札である。五寸の札は、五札(ごふだ)、四寸なら四札(しふだ)などと呼び、用途によって使い分けていた。剣札や爆札など、投げて使う札は小さめの三札(みふだ)が多く、高度な術を練り込んだものは五札を使う事が多い。
なお、妖術使い陰陽師などにも各流派がありそれぞれ使う媒体は違い、札の長さ、形、厚さ、重さでどこの札かだいたいわかる。博麗神社は他の神社関係とは別系統の独自の札を使い、特に珍しいのが正方形の札である。
端がちぎり取られた数百枚の札の中に、約半分以上ちぎりとられた札がある。他はせいぜい多くても二割程度しか減っていないのにだ。
幽香はそれが藍の札だと確信した。
恐らく妹紅は藍との戦闘の中で藍に魅せられたと幽香は推測している。それ故、藍の願いを聞き届け、妖怪の追撃を止めた・・・。
これまで数百体の妖怪を葬り去ってきた妹紅が、たった一人の妖怪との出会いによってその正義を替えた。その自らの存在意義すら替えてしまった藍という存在の記録を妹紅はこれまで何度も何度も繰り返し聞き、後悔の念を募らせていたのだろうと予測する。
そんな幽香を尻目に妹紅は膝を抱えながら外に視線を向けていた。
八雲藍を思い出しながら・・・。