給湯室の扉を開けたら

夏の匂いが仁王立ちでこっちを見ていた。

 

 





一瞬「うおっ」とひるんだ。

もう来たの。

もうそんな季節かと。

 

 




 

おしゃべりな夏は

聞いてもいないことまで詳細に話し出す。

 

去年のこと。

 

5年前のこと。

 

17年前のこと。

 

 

 

 

匂いを伴った記憶が一瞬で駆け巡る。

 

当時の感情まで引きずり出されて、

なんだかノスタルジックな気分になる。

 

ここ給湯室なのに。

 

 

 






 

 

夏よ。

わかっているよ。

 

戻れないし、戻らなくていい。

あの頃のあの人たちの中には

きっともう会えない人もいる。

 

思い出は綺麗にしまっておきましょうね。

 

 

 

 

だから不意打ちで来るのは勘弁して。

びっくりするから。

 

 

 

 

 




 

 

 

6月上旬。

フライングでやって来た夏は、

次の日にはいなくなっていた。

 

 

また近いうちに

扉の向こうで出会うんだろう。

不敵に笑いながら仁王立ちしているんだろう。

 

 



そしたら、まあ、

ちょっとは付き合ってあげてもいいですよ。

 

 

 

大切だったことに、

変わりはないのでね。