再現率70%
第1 設問1
1 所有者は誰か
請負の目的物の所有者は、246条本文の加工の法理により、材料の所有者に帰属する。本件で、請負人のBは、必要な材料をすべて自ら調達して完成させており、同条ただし書きにあたる事情もないので、同条本文により所有者は請負人のBである。
2 所有者としての責任
CはAに対して、717条に基づく損害賠償請求をすると考える。
(1)本件で、引渡日は平成30年6月11日であり、本件事故は同月7日に発生しているので、事故発生時の占有者はBである。そこで、前提として、Bに対して717条1項に基づく責任が認められるかを検討する。
ア「土地の工作物」とは、土地工作物としての機能を有するものをいう。本件で、建物は土地工作物としての機能を有するものなので、「土地の工作物」にあたる。
イ「瑕疵」とは、工作物が通常有すべき安全性を欠くことをいう。本件で、甲建物に用いられた建築資材が欠陥していたことにより、甲建物が一部損傷していたので、甲建物が通常有する安全性を欠いていたといえ、「瑕疵」にあたる。
ウ上記瑕疵に「よって」、Cに治療費相当額の「損害」が発生している。
エ「占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をした」(717条1項ただし書)にあたるか。
本件で、甲建物に用いられていた建築資材は、多くの新築建物に用いられていたが、本件事故を契機とした調査を通じて、製造業者において検査漏れがあり、必要な強度を有しない欠陥品が出荷され、たまたま用いられたものである。そうだとすると、請負人が本件建築資材を用いたことにについて、調査義務懈怠などの過失があったとはいえない。したがって、「占有者が損害の発生を防止するために必要な注意をした」といえ、占有者は責任を負わない。
(2)よって、717条1項ただし書により、所有者であるAが無過失責任を負う。以上より、Cの上記請求は認められる。
(3)なお、716条は注文者の責任を認めていないが、本件では前述通り請負人が責任を負わないので、717条により所有者Aが責任を負う。
第2 設問2
1 ㋐についての主張
(1)本件で、DはEに乙建物を引き渡しているので、借地借家法31条に基づく対抗要件を備えている。では、対抗力を備えた賃借権がある場合、乙建物の所有権を移転することで、当然にDからEに対して賃貸人の地位も移転するか。
賃貸人の債務は、所有者であればだれでも履行できるものであるので、賃貸借関係は、所有権と密接に関連した一種の状態債務関係にある。そこで、賃借権が対抗力を備えている場合には、所有権の移転に伴い賃貸人の地位も当然に移転すると考える。
本件で、乙建物の所有権の移転に伴い、賃貸人の地位もDからHに当然に移転する。
(2) では、賃貸人の地位の移転について、Eの承諾は必要か。
賃貸人の債務は所有者であればだれでも履行できる没個性的なものであるので、賃貸人の地位の移転に賃借人の承諾は不要である。
よって、本件でEの承諾は不要である。
(3)さらに、Eの賃料の支払いをするには登記が必要か。
賃借人の二重払いの危険を防止するために、新賃貸人は登記を備える必要がある。賃貸人の地位の移転は177条の本来の適用場面ではないが、前述通り所有権の移転と密接に関係するので、177条の登記が必要である。
(4)以上より、Hは賃貸人の地位が移転し、登記も備えているので、賃貸借契約に基づき賃料の支払いを請求することができると主張すると考えられる。
2 ㋑について
本件で、DはEに平成28年8月3日に内容証明郵便で通知しているので、第三者対抗要件(467条2項)を備えている。したがって、FはHに対して、本件譲渡契約により、賃料債権を譲り受けたことを対抗できると主張すると考えられる。
3 いずれが正当か
上記の通り、Hは賃貸人の地位の移転により賃料債権を譲り受けており、Fは本件譲渡契約により、賃料債権を譲り受けているので、HとFは対抗関係にある。そして、Hが登記を備えたのは平成30年2月20日であり、Fはそれよりも早い平成28年8月3日に第三者対抗要件を備えているので、FがHよりも優先する。
以上より、Fの㋑の主張が正当である。
第3 設問3
Hは、本件債務引受契約が、錯誤により無効(95条本文)であると主張すると考える。
1 「錯誤」とは、内心的効果意思と表示の不一致をいい、表意者がそれを認識していないことをいう。
本件では、Hは乙建物から賃料収入を見込めると考えて、本件債務引受契約を締結しているので、動機に錯誤があるにすぎない。では、動機の錯誤は「錯誤」にあたるか。
動機は意思の形成過程にすぎず、動機の錯誤は「錯誤」に当たらないのが原則である。しかし、同条の趣旨は、表意者保護にあり、広く無効主張を認めるべきである。他方、動機を知りえない相手方の取引の安全を図る必要がある。そこで、動機が明示又は黙示に相手方に表示され、法律行為の内容になった場合には、「錯誤」にあたるといえる。
本件で、D、G、Hの3者で協議がなされ、Gは乙建物を売りに出せば、買主は長期の安定した賃料収入を見込めと述べている。そして、HはGの発言を聞いて、乙建物から賃料収入が見込めると考え、乙建物の売却代金として、本件債務引受契約を締結し、DのGに対する債務を引き受けている。したがって、乙建物の賃料収入を見込めるという動機は、黙示的に表示されており、法律行為の内容になったといえる。よって、「錯誤」にあたる。
2「要素の錯誤」とは、錯誤がなければ、表意者だけでなく一般人も意思表示をしなかったと考えられるほど重要な部分をいう。
本件で、GH間で締結された本件免責的債務引受契約と、DH間で締結された乙建物の本件売買契約は、当事者も目的物も異なる別個の契約である。したがって、乙建物の賃料収入を見込めなければ、表意者だけでなく一般人も本件債務引受契約を締結をしなかったと考えられるほど重要な部分とはいえない。
よって、「要素の錯誤」にあたらない。
以上より、Hは本件債務引受契約が錯誤により無効であると主張することができない。
以上