再現 刑訴  再現率70

第1 設問1

1 1について

(1)下線部①の本件業務上横領の被疑事実についての逮捕は、別件逮捕・勾留にあたり、令状主義(憲法33条、刑事訴訟法(以下法令名省略)199条1項)に反し、違法か。

 捜査官の主観を判断するのは困難なので、別件逮捕・勾留の違法性は、別件逮捕・勾留の理由及び必要性があるかにより判断する。もっとも、別件逮捕・勾留の理由及び必要性を検討する中で、専ら本件捜査目的があったといえるかを考慮する。

(2)まず、通常逮捕の要件は、①逮捕の理由(199条1項)、②逮捕の必要性(199条2項、刑事訴訟法規則1433)である。

本件で、X社社長から、甲が3万円を着服したという供述が得られていること、自宅に集金に来た甲に3万円を渡したというAの供述調書があること、Aから集金した3万円がX社に入金されたことを裏付ける帳簿額は見当たらなかったという捜査報告書があることから、甲の本件業務上横領罪についての嫌疑は濃厚であり、①「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(1991項)、すなわち逮捕の理由があるといえる。また、業務上横領罪は重大犯罪なので、罪証隠滅、逃亡のおそれもあり、②逮捕の必要性もある。

 よって、下線部①の通常逮捕の要件を満たす。

(3)次に、勾留の要件は、①勾留の理由(207条1項、60条1項)、②勾留の必要性(207条1項、87条1項)、③逮捕前置主義(207条1項)、④時間制限(203条以下)である。

ア 本件で、前述どおり、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(207条1項、60条1項柱書)がある。また、甲はアパートで単身生活をしており、同居の家族がいないこと、X社を退職した後は無職だったことから、逃亡のおそれがあったといえ、3号にあたる。また、業務上横領罪は重大犯罪であるから、2号にもあたる。よって、①勾留の理由の要件を満たす。

イ また、勾留の必要性については、前述どおり、専ら本件捜査目的があったかについても考慮する。確かに、平成3011月2日、3日、5日に、本件である強盗致死事件についての取り調べを受けていて、その後も甲が繰り返し否認し続けても、本件についての取り調べを継続している。また、別件である業務上横領事件についての取り調べは20時間なのに、本件である強盗致死事件は、その倍の40時間もの取り調べ時間である。これらのことから、専ら本件捜査目的があったと思える。しかし、別件と本件を同時並行で取り調べており、本件だけを取り調べているわけではないこと、平成3011月2日からの取り調べはあくまで任意取り調べとして行われており、その後の本件についての取り調べも強い態様でなされたような事情はないこと、別件についての取り調べ時間は、20時間と本件の半分だが、H店及びI店への裏付け捜査や、パソコンデータの精査などの取り調べ以外の捜査が数日にかけて行われていること、Yの取り調べも別件についてなされている。これらのことから、別件についての捜査目的も十分にあったといえ、専ら本件捜査目的とはいえない。

 よって、②勾留の必要性の要件を満たす。

 ウ 前述どおり、逮捕の要件を満たすので、③逮捕前置主義の要件をみたし、平成31年2月28日に、甲を通常逮捕してから、同年3月1日に勾留されているので、④の203条以下の時間制限の要件もみたす。

(4)以上より、逮捕勾留の要件をみたし、下線部①の逮捕勾留及びこれに引き続く身体拘束は適法である。

2 2について

(1)異なる理論構成

 別件逮捕勾留の違法性は、本件についての逮捕勾留の理由及び必要性があるかにより判断する。具体的には、別件についての逮捕勾留の必要性、別件と本件との関連性などを考慮して、本件捜査目的が主目的かにより判断する。

 本件で、確かに別件である業務上横領罪は重大犯罪なので、別件についての逮捕勾留の必要性はある。しかし、本件と別件は被害者も目的物も共通しておらず、両者に関連性はない。それにもかかわらず、前述通り本件について別件の倍である40時間もの取り調べを行い、平成31年3月2日から20日まで継続的に取り調べをしている。したがって、本件捜査目的が主目的といえ、別件逮捕勾留は違法であるといえる。

(2)援用しない理由

 本件捜査目的かという捜査官の主観を判断するのは困難であり、あくまで本件ではなく別件の逮捕・勾留についての理由及び必要性を基準に判断すべきなので援用しない。

第2 設問2

1 公判前整理手続後の訴因変更請求(312条1項)は許されるか。

 公判前整理手続の目的は、充実した公判審理を継続的、計画的かつ迅速に行えるよう、十分な準備をし、早期に終結させることにある(316条の3)。すなわち、充実した争点整理をすることにある。そして、公判前整理手続後の訴因変更は、争点整理をした後に訴因変更をするものなので、上記趣旨に反するおそれがあり、身長に行うべきである。そこで、公判整理手続後の訴因変更は、上記趣旨に反せず、追加的な証拠調べを要しない場合に認められると考える。

 本件で、公判前整理手続では、量刑のみが争点にされ、弁護人から甲の集金権限に関する主張はなかった。そのため、集金権限がないという訴因変更がされたとしても、公判前整理手続で集金権限については争っていないので、充実した争点整理を害することにはならなず、上記趣旨に反しない。また、集金権限については、社長から、甲が集金権限がなかったことについての証言があり、甲自身も認めているので、追加的な証拠調べを要しない。したがって、公判前整理手続き後の訴因変更は認められ得る。

2 では、訴因変更請求は「公訴事実の同一性」(312条1項)を害せず、許されるか。

 「公訴事実の同一性」は訴因の限界を画する機能概念であるので、新旧両訴因に基本的事実関係の同一性があれば認められる。具体的には、共通性基準と、補完的に非両立性基準を用いて判断する。

 本件で、平成301120日という同一日時に、Aからの集金として受け取った現金3万円という同一客体について、業務上横領罪と詐欺罪が成立することは事実上ありえない。そのため、新旧両訴因は事実上非両立といえ、「公訴事実の同一性」が認められる。

 よって、訴因変更請求は認められ、裁判所はこれを許可すべきである。

                                      以上