日本のソニー・ミュージックと韓国のJYPによる合同オーディション、虹プロジェクト。応募総数1万人から誕生した日本人9人組のガールズグループ「NiziU(ニジュー)」が、デジタルミニアルバム『Make you happy』(日本6月30日、全世界7月1日リリース)でプレデビューをしました。 

NiziU「Make you happy」Sony Music Labels

 iTunes、Apple Musicなどで軒並み1位を獲得し、MVは公開約1週間で再生回数3500万回を超えています(7月6日時点)。 

◆世界的な韓国人プロデューサーのメソッド 

 彼女たちをプロデュースするのが、韓国の音楽プロデューサー、J.Y.パーク。日本でも人気のTWICEや2PM、Stray KidsなどのK-POPグループを数多く手掛けたヒットメーカーです。




 <恒久的に良質なアイドル・アーティストを輩出するスキーム構築を目指します。>というプロジェクトのコンセプトの通り、世界を席巻するK-POPのメソッドがうかがえる、興味深い試みになっています。 

 ミニアルバムからのリード曲「Make you happy」を見て気づくのは、ファッション、メイク、ダンス、これらがすべて韓国化されていることです。紫ベースのごった煮の色彩感覚に、脚のタテ線を強調した衣装。振り付けは、舞いというより、体操とか集団行動の規律に似た厳しさを感じます。 
ギトギトした舞台設定だからこそ、シンクロする細やかな団体芸が際立つ。そういった刺激的なアトラクションになっている点こそ、徹底的に“脱J-POP”なのです。 

 たとえば、乃木坂46の「Sing Out!」あたりと見比べると、違いがよく分かるのではないでしょうか。カラーリングをシンプルに統一し、スカートのドレイプが活きる柔らかな動き。こちらは、大勢の人間が同じことをしている中で、少しずつ生じるズレに心地よい揺らぎを覚えるといった具合でしょうか。


いずれにせよ、目指している方向が全く異なるわけですね。 

◆日本語ネイティブでないパーク氏ならではの歌詞 

 楽曲にも注目すべき点があります。このプロジェクトに臨むにあたり、いちから日本語を勉強したというパーク氏の歌詞(Yuka Matsumotoとの共作)には、独特な訛(なま)りがあるのです。日本語を母国語とする人ならば思いつかない音節の処理がメロディに乗っている。 

 特に、サビの、<笑ってほしい>というフレーズ。ほとんどの日本人なら一息で読むでしょうが、パーク氏にかかると、“わらってほし・い~”となる。そのうえ、“し”と“い”に音程差もつけているので、キッチュな響きが耳に残るのです。 
 だけど、すぐに意味が理解できないからこそ、意味にとらわれないという強みになっているのは面白い。音符と言葉の音節を数学的に合わせることに集中できることで、日本語表現の可能性が広がっているようにさえ感じるからです。


 これは、バックストリート・ボーイズやエイス・オブ・ベイスなどの大ヒット曲を手掛けたスウェーデンのソングライター達と似た感覚なのではないでしょうか。彼らも母国語ではない英語を、良い意味で適当に扱えたおかげで、用法や文法にしばられず、言葉を音楽にはめ込むことができた。そのおかげで、キャッチーなヒット曲が生まれたわけですね。 

 「Make you happy」の日本語にも、少しずつ意味が外れていくような異国情緒が漂っている。そこが、4つしか和音を使っていない曲へのスパイスになっているのだと感じました。 

◆K-POPの論法を知ることで、J-POPの閉塞感に風穴? 

 しかし、NiziUの価値は、そうしたディテール以上のものがあるように思います。それは、日本の側が、K-POPの方法や価値観を全部受け入れてみせたということです。


もちろん、受け入れてやった日本がエラいとかではなく、よそ様の文化に合わせることで、客観的に自分たちを見られるチャンスが得られた。ほぼ内需で回せてきたJ-POPは、演者もリスナーも日本人という状況で、いわば、身内しかいないわけです。 
 しかし、照らし合わせる他者がないところには、自らの姿を映すこともできません。“ガラパゴス”と揶揄される裏には、そうした八方塞がりがあったはずなのです。欧米という強大な他者を相手に成功を収めてきたK-POPの論法を学ぶことは、ひとつ風穴を開けるきっかけになるのではないでしょうか。 

 異様な色調のMVの中でぬるぬるとした日本語を歌いながら、キレキレのダンスを決めるNiziU。 
 実に不思議な音楽だからこそ、「Make you happy」は色々と論点を投げかけてくれるのです。