トカノがフロアを任された日、金曜日ということもあり多くの客が店にやって来た。彼は表を用意しタレント達が何時何分にどの席に付いたかを記入し、これを元にテーブルチェンジを行った。ちなみに、店長は一切このような表に頼らず経験と感性でテーブルチェンジを行っていたのだが、彼はテーブルチェンジを任されるのはこれが始めてだったし、表に記入してあればミスは無くなる。しかし、客はタレントの人数よりも多く店にいるし、新規で店内指名をする客もいる、必ずしもその表にばかり頼ってもいられない。
ケースバイケースで客達の様子を見ながら臨機応変にテーブルチェンジをする必要があり、これは常に客や女達の様子をチェックし瞬時の判断が要求される。だが、彼はそつなくこれをこなし、これといって客からのクレームも無かった。そして何より、彼は女達の意見に耳を傾けてくれた「2番テーブルのお客さんは酔っぱらって寝てるだから、先に7番にしてください」「5番の新しいお客さんミルキーに来て欲しいだって」主にベテラン達がこのようなことを言ったのだが、必要だと判断すればそれを聞き入れてくれた。
12月の週末、忘年会の2次会なのか団体客が多く、いつもの常連客相手というわけにはいかない。客を喜ばせるようにふざけたり、騒いだり、踊ったり、じゃんけんなどのゲームをやったり、テンションを上げ盛り上げなければいけない。それに、団体客の中には新規の客も多い、この時に頑張り、アピールすれば新たな指名客も出来るのだ。これは他の女達も一緒だ、ここで新規の指名客を掴むことが出来るか、出来ないかで、この後、指名数で差が出てくる。
この間、格差などと言ったが、指名数の差は努力や頑張りで幾らでも埋めることが可能で、運や神様から授かった器量だけで決まってしまうものではなく、この日ような時にどれだけ自分のチャンスをものに出来るかどうかだと思う。そして「エリーは2番テーブルで3人の客の相手を上手やれ」「レモンは5番の団体客を頼む」トカノはいつもと別人のようだった。この人ならフロアを安心して任せられる、指示に従うことも出来る、タレント達の全員がそう思ったはずだ。
結局、この日は滅多に無いというくらい客がやって来て、忙しい一日だった。そして前日までが嘘のようにフロアも機能しタレント達も動き、働き、充実していたと思う。そして何より、彼、トカノが予想以上にフロアを取り仕切ったことが嬉しかった。店が終わり、全ての仕事が終わった後、さすがに彼も疲れたのか、椅子に座り一人タバコを吸っていた。わたしは何気なく彼の横に座った、会話があったわけじゃない、ただ、安堵と心地よいひと時だった。