長らく放置していたこのブログを再開しようなどと大それた思惑がある訳ではないが、矢庭に寂寥の襲撃に遭って一言書こうと思う。

このブログに自分の思考や感情、日常の些細な出来事を書き殴っていた頃から、かなりの時間が経った。

あれからかなりの変化があった。

まず一番大きな変化は、身長が5mmくらい伸びた。

それから結婚と離婚を経験した。
これについては書くと長くなるから、敢えてその事実の報告のみに留めたい。

今は就職して5年目になる。
要領は悪い方じゃないから、それなりにやれていると思う。
定年まで今の仕事を続けるつもりはない。
人生の流れをフォレスト・ガンプで例えると、まだベトナム戦争あたりだと思っている。

住んでいるところは当時住んでいた町の隣町。
よく遊びにも行くし、街並みも大して変わっていない。
行きつけの飲食店も同じ。
乗ってる車も同じだし、頭の中も変わらない。
物事に対して斜に構える姿勢も、メンタルの弱さも変わっていない。
依存できるものには全て依存して、日々をやり過ごしている。

こう書き連ねてみると、変わったことより変わっていないことの方が多い。
人はある程度成熟したら、5年やそこらで大きな変化はないのだろうか。

世界情勢や仕事の辛さに頭を悩ませて芯が折れかけていた今、原点回帰の意味を込めて、ここに雑記することとした。

これだけ月日を経ておきながら変わっていないことが多くてがっかりした部分もあるが、変わっていないことが多くて安心した。

明日も朝から仕事だ。
一度きりの人生、経験した者勝ち。
有意義な1日になりますように。

それでは、おやすみなさい。z z z


 大学の友人とルームシェアを始めて早くも10ヶ月。ついに恐れていた事態が起こってしまった。僕がレポートを提出するために大学へ行っていたほんの1時間の間に、友人が玄関の鍵をかけたままバイトへ行ってしまったのだ。うっかりしていた。僕の鍵は部屋の中にある。友人に電話をかけたが出る気配はない。12回目のコールで諦めた。友人のバイトが終わるのは7時間後だ。どこかで時間を潰さなければならなくなった。途方に暮れた午後の4時。幸いなことに車の鍵は持っていたから遠出することができる。更に幸いなことに、5年前に謎の契約を交わしたことから、毎月定期的に口座に入金されるようになった魔法のお金も今日振り込まれていた。
 僕は愛車のベリーサ(愛称・アポロ100号)に乗り込んだ。(愛車とは言ったものの、全額ローンで購入してまだ100分の1くらいしか支払いが済んでいないし、所有者はディーラーだ。)彼女と一緒ならどこへでも行ける。先日の大雪でつるつるテカテカガッチガチの道路を走り、とりあえずブックオフを目指した。
 ここなら体感時速3時間くらいで時間が進む。そんな風に思っていた。でも違った。すみません、私が間違っていました。当然、時速1時間で時間は進んだ。立ち読みが苦手なのだ。それからお金のことを考えるのも。だから店内をぐるりと一周したあと欲しいと思った本を全部買った。結構な出費だ。同居人に請求しよう。僕はブックオフを後にした。
 地元で幅を利かせている大型スーパーで買い物をした後、ガソリンを入れた。155円/Lだった。ガソリンもずいぶん高くなった。僕が車に乗り始めた頃はまだ120円/Lだったと思う。アラブ首長国連邦に思いを馳せた。サウジアラビアにも思いを馳せた。そういえば前に従弟がこんなことを言っていた。
「眠すぎて“どげんかせんといかん”がサウジアラビア語に聞こえる」
 どうでもいいかもしれないが、サウジアラビアの公用語はアラビア語だ。
 雪かき用のスコップが欲しかった。アポロ100号はフライパンを使ってなんとか救出したものの、駐車場には未だに膝の高さまで雪が積もっている。凍ってしまう前になんとかしたかった。僕はホームセンターへ向かった。結論から言ってしまうと、スコップは売ってなかった。その後、ドン・キホーテやイオンにも行ったけど売っていなかった。僕達庶民が雪を処理できず苦しむ姿を見て楽しむために、どこかの大富豪が買い占めたに違いない。全く嫌な世の中になったものだ。
 マクドナルドで何か食べることにした。喫煙席でJPSを吸いながらブックオフで買った本を読もう。かなり時間を潰せるだろう。心を踊らせながらチキンナゲットとマックダブル、それからプレミアムローストコーヒーSを注文し、席を探した。愕然とした。喫煙席がなかったのだ。全席禁煙だった。この時の僕の顔は初音ミクの髪の毛みたいな色をしていたと思う。もそもそっと食べてそそくさと店を出た。
 この時点でようやく午後8時半。同居人からメールが来ていた。今休憩中なんだってさ。彼のバイト先に赴いて鍵を受け取った。助かった。帰って来れた。我が家だ。そう、ここが我が家なのだ。

とるぅっきー!奇声を上げた。奇声の内容に意味はない。けど、こうしてへんてこりんな声を出すことで目覚めが良くなる。肺から出た空気が声帯を震わすと、マイナスイオンが生じて脳の中にドーパミンが分泌される。このドーパミンという奴がなかなか厄介な存在で、こいつが脳の中に充満すると乳首が勃起してしまう。だから僕は、あまり薄着をしない。僕の黒ずんだ乳首を見て喜ぶ人間は、おそらくとんでもない痴女か共産主義者くらいのものだろう。そんなわけで、ヒートテックを着て、その上から白いシャツと毛玉がいっぱい付いた汚いセーターを着た。講義の補講があったけれど、ちょうど終わるくらいの時間に起きたから、今日の予定はバイトだけだ。
僕はこいつらに縛られている限り自由ではない。つまり、バイトはセーターで、シャツは大学で、ヒートテックは僕自身だ。更に厚手のピーコートを羽織る。僕の自由は完全に奪われた。もはや僕は僕ではなく、僕ではない何かはバイト先へ向かうために自転車のペダルに足をかけた。
 僕のバイトは、地元で幅を利かせている大型スーパーのレジ打ちだ。ここらへんには系列店が4店舗あるけれど、僕のバイト先はその中でも大きいほうで、夕方から夜にかけては最も多い来客数を誇っている。
ここで買い物をする客は、いくつかの種類に分けられる。目が死んでいる主婦と、目がちょっとだけ死んでいる主婦と、目が結構死んでいる主婦と、目が死んでいるようで死んでいない主婦と、目が死んでいるっぽい主婦と、目が死んでいないっぽい主婦、そんな感じで何パターンかある。もちろんサラリーマンや学生も訪れるが、客のほとんどは主婦だ。そびえ立つ山々が灰色の空を見上げ取り囲むこの町で、主婦たちは死んだ目のまま輝いている。普段はどうなのか知らないが、お目当ての食品や生活用品がひしめく緑色のカゴを前に、財布から金を取り出す時の彼女らは間違いなく輝いている。その手から渡された金を受け取ると、なんだか興奮して、勃起してしまうこともあった。勿怪の幸い、僕の性器はechoを3本束ねたほどのサイズで、勃起がバレることはまずない。今日も勃起していたけれど、バレる気配は全くなかった。もちろんバレることも想定していないし、バレるかバレないかというスリルを味わうこともない。100%勝てるゲームをしても面白くないのと同じだ。
「この人、勃起してる!」
 目の前の主婦が叫んだ。色白で中肉中背、セミロングの髪はやや茶色い。30代前半くらいだろうか。どちらかと言えば地味な顔立ちで、美人ではない。叫んだ時に飛んだツバが僕の顔にかかった。臭かった。彼女がなぜ叫んだか僕には分からず、かなり狼狽した。ふと、もしかしたらと思い、股間に目をやるが、膨らみはほとんどない。が、しかし、視界の隅に異様なものを見てしまった。勃起した乳首が、ヒートテックとスーパーから貸与されている制服を破り、真っ黒い顔をした松崎しげると清原が顔を覗かせていたのだ。右乳首の先端に松崎しげる、左乳首の先端に清原がいる。しげるは主婦に話しかけた。
「奥さん、セコムしてますか?」
 僕は頭がグラグラ揺れて気を失いそうだった。なぜ僕の胸に松崎しげると清原がいるのか。なぜ松崎しげるは主婦にセコムを促しているのか。それを考えるだけのメモリは、僕の頭に内蔵されていない。
「私、セコムしていません」
 主婦は赤らんだ顔を軽くそむけながら答えた。痴女には見えないから、主婦はおそらく共産主義者だ。
「セコムせんとあかんで」
 清原が言った。清原がセコムを勧めるのはまだ理解できる。彼は長嶋茂雄に恩があるだろうから。しかし、それが理解できたところで問題は解決しない。慌てた僕はとっさに判断して、自分の両乳首を摘んで捻った。松崎しげると清原は白目を剥いてぐったりしている。どうやら死んだみたいだ。イチコロだった。これで安心して接客に専念することができる。僕は何事もなかったかのように笑顔で主婦に微笑みかけた。主婦も微笑み返してくれた。主婦がいくらか美人に見えた。でも、ツバが臭い女はごめんだ。
 その後、いつもどおり6時間のシフトを終え、自転車で長い坂道を登り、自宅へ帰った。腹ペコだったから、途中のコンビニでおにぎりとカップ麺を買った。帰宅後すぐカップ麺にお湯を注ぎ、蓋の上におにぎりを置く。こうするとおにぎりがほんの少し温かくなるような気がするのだ。カップ麺が出来るのを待つ間にパソコンの電源を入れた。遠距離恋愛中の恋人と通話するためだ。彼女は北海道に住んでいて、2ヶ月に1度ほど僕が会いに行く。旅費を稼ぐためにも僕にとってバイトは欠かせなかった。そういう意味では、彼女は僕から自由を奪う存在の1つで、厚手のピーコートなのかもしれない。
 とっとなのだ!通話を開始するなり、彼女が叫んだ。「とっと」は僕の愛称で、「~なのだ!」は彼女なりに必死に考えたであろう可愛い口調のひとつだ。そうやって通話開始直後に彼女が叫ぶのは、僕らの間で慣例になっていた。彼女はおそらく、叫ぶことでマイナスイオンとドーパミンを生成しているに違いない。僕はおにぎりとカップ麺を食べながら彼女と話した。乳首が松崎しげると清原になったとか、彼らはツバの臭い共産主義者にセコムを薦めていたとか、そういうたわいもない話だ。僕は彼女のことを考える時だけ幸せを感じる。他の幸せは全て偽りと言っても良い。彼女こそ僕が生きる意味の全てなのだ。彼女がいなくなったら、僕は生きていけない。でも、それは本当ではない。僕たちはお互いをかけがえのない存在だと思っているけれど、彼女がいなくても僕はなんやかんや生きていけるし、彼女だって僕がいなくとも生きていけるだろう。しかし、そんなことはどうでもよかった。ワイン好きな男に、自由にワインを飲める環境があったとして、どうして飲まないでいられよう。それだけで十分だ。今夜も僕は、ワイン好きのアル中のように彼女に酔って、夢見心地のまま、その深部へと回帰するだけだ。