2週間ほど前に書いたものの続き。
今回は、現代の「ハイノーズマシン」の先駆けとなったマシンの話。

 #あ、基本的に私の記憶だけを頼りに書いていますので、
 #所々に間違いがあるかもしれません。
 #気が付いたら訂正します。

まず、ハイノーズと言われて思い出すのは、やはり1990年に登場したティレル019。
が、その前年から1990年第2戦までを走っていたティレル018も、
若干ではありますが鼻先が持ち上がっていました。
このマシンを操ったJ・アレジが1990年の開幕戦アメリカGPで、非力なコスワースエンジンながら
マクラーレン・ホンダのA・セナと壮絶な抜き合いをやったのは、今でも目に焼きついています。

そんなティレルの新マシン019は、世界中のF1ファン、専門家の目を釘付けにしました。
なにしろ、今まで見たことも無いようなデザインだったのです。

そのフロントノーズは高く持ち上がり、フロントウィングはカモメの翼を逆にしたような形。
これが本当の意味でのハイノーズの始まりです。
これはハーベイ・ポストレスウェイト博士によるデザインでした。

話題は逸れますが、ハーベイ・ポストレスウェイト博士はティレル以後いくつかのチームを渡り歩き、
本来であればホンダが自社製マシンを携えてのF1復帰を果たすためのデザインをするはずでした。
が、1999年、その夢半ばにお亡くなりになってしまいました。
これによって、ホンダの自社開発が頓挫したのは言うまでもありません。

閑話休題。
このハイノーズマシンは、J・アレジ、中島悟の活躍もあり、
瞬く間にF1の世界の主流になりました。
他のチームもこぞって真似をし始めたのです。

ところで何故、鼻を持ち上げると良いのでしょうか。
F1マシンは、いかに車体下部に空気を取り込むか、でダウンフォースが大きく違ってきます。
ダウンフォースとは、車体を地面に押さえつける力。
これが大きければ、カーブでも安定した走行が可能になります。
車体前面から取り込まれ、地面から数cmという狭い空間を通った空気は後方ウィング辺りで一気に広い世界に吐き出されます。
この時、当然空気は薄い状態になり、そこに多くの空気が集まろうとすることで、リアウィングに押さえつける力が働くのです。

問題は、どうやって空気を多く取り込むか、です。
当然、フロントウィングを大きく持ち上げれば、それだけ前面に大きな開放空間ができるので、より多くの空気を取り込むことは可能です。
しかしフロントウィングを持ち上げればそれだけマシン前面のダウンフォースが減ってしまいます。
さらに当時のF1にはフラットボトム規制というものがあり、ホイールベース間、つまり前輪の中央部から後輪の中央部にかけての底面は
真っ平らでなければならない、というルールが存在していました。

そこでポストレスウェイト博士は、まず車体底面を前輪中央部まで舌のようにフロントノーズと同じ幅だけ迫り出させました。
これによってフラットボトム規制はクリアできます。
そして、高い位置にあるノーズと、低い位置にあるウィングを結ぶために、斜めの部分が出来、カモメの翼のようになったのです。
さらに舌のように迫り出したことで、それ自体がウィングのような役割もしました。

ティレル019がフロントウィングをフロントノーズから逆ガルウィング形状にしたのは、そういう狙いがありました。
これがずばり的中したのです。

しかし1991年。レギュレーションが一部改正になり、フロントウィングの長さ自体が数cm短くなりました。
わずか数cmでも失われるダウンフォースは膨大です。
これにより、逆ガル型のウィングはダウンフォースを失うとともに、流行も廃れはじめました。

そこで台頭してきたのが、吊り下げ方のフロントウィングです。
1990年に他チームが真似をしたのは、殆どがティレルと同じ逆ガル型でした。
しかしスクーデリア・イタリアという中堅チームは、唯一といっていい吊り下げ式を採用していました。
ただ、残念なことにやっつけ作業でテストが足らなかったのでしょう。うまくタイムを伸ばすことは出来ませんでした。
また、一部には接合部の強度不足も指摘されていたようです。

そんな中、ベネトンチームを初め、多くのチームが吊り下げ式を採用してきました。
これは逆ガル型に比べて、フロントノーズ下にもウィングを付けられ、ダウンフォースを確保できるという利点があります。
そしてそれが、現在にまで繋がるフロントウィング周りのデザインとなりました。

ティレルの(ポストレスウェイト博士の)発想が生んだ、F1における20世紀最大の発見かもしれません。