Happy Haloween !!

ハロウィンです、ハロウィンなのです。
ハロウィンといえば仮装!仮装といえばマジフォーちゃん!←違う
というノリで書きました。いつもより気持ち長いかな∩‐◇‐∩




「マネージャー~!」


次のイベントの段取りをチェックしていた私は、自分を呼ぶ声に顔をあげた。

(今の声はアトムくん…だよね?)

何かあったのかと頭を捻らせるが、彼らは今ルイくんによるダンスレッスンの休憩中のはず。


「マネージャー~!ちょっと来てくれよ~!!」


(…もしかしたら何か問題が起こったのかもしれないし…。とりあえず行ってみよう)

チェックしていたスケジュールリストを置き立ち上がると、ちょうど張さんが事務所に入ってきた。


「あ、張さん。おはようございます」


張さんは、チラリと私を見ると、小さく溜め息をついた。


「行くのは構いませんが、くれぐれもレッスン場の扉は閉めてから騒いでください。わめき声が聞こえると、他の方々の迷惑になるので」


「………?…は、はい…(?)」


(皆が騒いでしまうような事なのかな…?……まさか、ケンカとか…)

顔からサーッと血の気が引いた。
張さんを見ると、張さんは何があるのか知っているような様子だったが、自分のデスクに戻った寡黙な彼に聞くよりも、行った方が早そうだ。

私は、張さんに一礼すると事務所を飛び出した。








☆★☆★☆★☆


「ふふっ。あー、楽しかったわ」


「社長」


彼女が行ってしまうと、社長が社長室から悪戯が成功した子どもの様に笑って出てきた。

その様子に、張は眉を顰めた。


「怖い顔しないの。良いじゃない、今日くらいは」


「…………昨年の彼らのクリスマスを潰してしまったからですか?」


その問いに、社長は静かに笑って首を振った。


「普段頑張っているからよ。そのご褒美」

「……だって、今日はハロウィンだもの」











☆★☆★☆★☆


「――怒鳴り声は…聞こえない」


レッスン場につくなり、扉の向こうに聞き耳をたててみたが、何も聞こえない。

(……とりあえず、ケンカではなさそう…)

私は、ほっと少し胸を撫で下ろして、扉から体を離した。


「マ、ネー…ジャー……―?」


その時、扉の向こうから微かにエルくんの声が聞こえた、気がした。


「……エルくん…?」


――何か嫌な予感がする。

私は、急いで扉を開け、レッスン場に飛び込んだ。

そこで目にしたのは――


「…………?! エルくん…?!」


――血塗れの姿で一人倒れているエルくんの姿だった。

駆け寄って抱き起こすと、彼はうっすらと瞳を開けた。


「マ…ネー、ジャー……」


「……!! エルくん、どうしたの、何が…。―と、とりあえず救急車を……」


意識があることを確認して、ポケットからスマホを取り出す。

(事情は手当てしてからでも大丈夫だし、とりあえず今は助けることを考えなきゃ――!)

思考が追い付かない自分に、落ち着けと心の中で繰り返し、スマホを操作しようと震える指を伸ばす。
しかし、その指は空中で動きを止めた。

見ると、エルくんが苦しそうな顔で腕を持ち上げ、私の指を掴んでいた。


「マネー…ジャ、ー……よく、聞いて……?」


「エルくん…!話は後でゆっくり聞くから、とりあえず今は救急車を…」


「い、いから。聞いて…?」


その必死な様子に口を噤むと、エルくんはツラそうな表情のまま薄く笑った。


「あ、りが…と。……あのね―。―――っ!!…ぅ、あ……ああ…。く、っそ……マ、ネー……あぁぁああぁ――!!」


途端、彼は苦しそうに私の手を振り払った。


「エ、エルくん…?!」


床の上で悶える彼の姿に、何が起こっているのか分からず、茫然自失としていたのも束の間。

彼の動きがピタリと止まり、静寂が部屋に溢れた。


「……エルくん…?」


床に転がったままの彼に近寄る。
エルくんの瞳は、固く閉ざされていた。


「…寝ちゃった、とか…?」


この短時間でまさか、と思うが、気を失ったと考えれば――。


「ぅ……」

「あ、エルくん…?!大丈夫?やっぱり救急車、を……」


呻き声を漏らした彼に対する言葉は、最後まで言えなかった。なぜなら――


「ふふっ。…ねぇ、アンタってさ、ほんと危機感ないよね…?だからこんな風に、男に簡単に近付かれちゃうわけ」


エルくんの瞳が間近でランランと輝いた。
気付けば、私の身体はすっぽりと彼の腕の中に包まれていた。


「ま、俺はそんなマネージャーが好きだけど…。……ねぇ、マネージャー…」


ソッと耳元で囁かれる言葉に、ザワっと肌が粟立った。先程までの苦しそうなエルくんはどこにいってしまったのだろう。
分からなくて恥ずかしくて目を逸らすと、たちまち頬を両手で挟まれ、視線がかち合った。


「アンタの血、ちょうだい…?喉が渇いて渇いて仕方がないんだ……。だから…っ。……お願い…」


エルくんの吐息が首筋にかかる。


「エル、くん…っ?どうし……」


――たの。と聞こうとして、彼の口から不自然に伸びた2本の牙が目に留まった。


「……ねぇ、ダメ…?」


(…ヴァンパイア……?いや、でもそんな非科学的な……)


けれどそう考えれば辻褄が合う。

首筋に近付く牙に、理由はどうあれとりあえず逃げなきゃ――と思ったものの、がっちり捕まえられていて、意に反して身体は動かなかった。

すると、エルくんの表情が泣きそうに歪む。


「…アンタも、俺から逃げるの…?」


「――っ!!」


――そんな言い方、ズルい。そんな言い方されたら、出来ない。


「…………」


「………ねぇ、マネージャー…」


掠れた声で、彼は行き場をなくした子供のように目を伏せた。その姿は、以前にも見たことのある儚いものだった。
そうして離れていく手を、私はいつの間にか掴んでいた。


「…ごめん。エルくんを一人になんか絶対にしない、って決めてたのに。……もう逃げようとなんてしない。エルくんが血を欲しい、って言うならあげるから。だから、泣かないで――?」


身体から力を抜き、代わりに彼の頬に触れると、エルくんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに泣きそうに柔らかく笑った。


「……ありがと。やっぱりアンタって、優しいよね…こんな俺に。…大好きだよ、マネージャー ――」


そう言ったエルくんの細い指が、私の唇をなぞった。そうして次いで私の唇に自身のそれを重ね――――…。



「スト――――――――ップ!!!!!!」



ペシッという音と共に、稽古場に複数人の叫び声が響いた。

見ると、エルくんは後頭部を手で押さえ、不服そうに膨れて背後を見上げていた。
その瞳に、少し前までの狂気の色はない。

「バッカ、エル…!誰がそこまでしろ、って言ったんだよ……!!」


「エルくん、少々…いえ、かなりやり過ぎですよ。自重してください」


「もー、エルったら…!!ちょっと脅かすくらいで良いからね、って言ってたのに……」


「も~、せっかく良いとこだったのに~」


膨れっ面から一転、ね?とニッコリ笑うエルくんと、今来た3人の姿を見比べる。


「もしかして――ハロ、ウィン?」


「おうっ!ドッキリ大成功だな!!実は社長が、やっていいって許可出してくれてさ」


私の言葉に、元気良く頷いたのは、頭に獣耳を生やした狼男――もといアトムくん。


「服や小物まで用意してくださって――社長には、本当に感謝しなくてはいけませんね」


黒いフードを脱ぎ、手に持った杖を壁に立て掛けながらルイくんが微笑みを浮かべた。


「そうだね…。後でもう一度お礼しに行かなきゃ。――って。あぁ!!ちょっとエル!ダメだってば…!」


ルイくんの言葉にしみじみと同意したアールくんの腕が、下から引っ張られる。
その身体が斜めに傾ぐと、エルくんにもたれかかる形で、アールくんは隣に腰を落ち着けた。


「ねぇねぇ、アール!俺の演技、どうだった?上手かった?」


「もー、エル…。もうちょっとで倒れるところだったよ……?」


身を乗り出してはしゃぐエルくんに、体勢を直しながら少し困った笑顔でボヤくアールくん。


「ごめんって、アールっ。それで?どうだった??」


「うん。演技は、すごく良かったと思う」


「わ~い、やった~!アールのお墨付き頂いちゃった♪」


無邪気にはしゃぐエルくん。
アールくんは、苦笑しながらそれを見ていたが、ふいに視線は私の腰に巻きつくエルくんの腕に注がれた。


「あっ――!エ、エル…!!マネージャー、困ってるでしょ…!離してあげないと…!」


「え?…あぁ、そうだった。ま、俺としては別にこのままでも良いんだけど~――」


「エ~ル~…?」


「あははっ。冗談だってば!驚かせてごめんね、マネージャー?」


そう言ってパッと腕を解くと、エルくんはおもむろに立ち上がってその場でクルリと回って敬礼をしてみせた。


「あらためて!ヴァンパイア担当のエルです!」


――とはいっても、その格好はアトムくん達3人とは違い、レッスン時の服であるから、血まみれな事と牙を除けば普段と変わらぬエルくんである。


「あ~、マネージャー今、“普段とあまり変わらない”とか思ったでしょ?」


図星を突かれ言葉に詰まると、エルくんは得意げに笑んだ。


「ちょっと待っててよ、マネージャー」


それだけ言うと、エルくんは足取り軽くレッスン場を出て行った。


「………………」


「…あ、マネージャー、ごめんね?驚いたよね、その…いろいろと」


止める間もなく行ってしまった彼に呆けていると、アールくんが謝ってきたので慌てて首を振る。


「ううん。気にしないで。…それより、アールくんのその格好――」


「あ……。やっぱり変…かな…?」


「ううん、すごく似合ってると思うよ」


「ほ、ほんと?…良かったぁ……」


頭に小さな角をつけ、可愛らしい小悪魔に扮したアールくんは、天使のような安堵の微笑みを浮かべた。


「実はね、最初はカボチャにしようと思ってたんだけど、エルがすごくノリノリで。悪魔にして、って聞かなくて…」


その仲の良い様子が容易に想像でき、口元が自然と綻ぶ。


「へぇ…。そうだったんだ…」


「マネージャー、ボクがこれを選んだと思った?」


「え…?……うーん、そうだなぁ…」


そう言われると、どうなのだろう。
アールくんの真っ直ぐな瞳は、やはり双子だけあってエルくんとそっくりだなぁ…などと感じながら、最初に見た時の気持ちを思い出してみる。


「どちらかと言うと…」


「うん」


「意外だな~、って思ったかな?」


「……意外?」


アールくんは、キョトンとして目をしばたたかせた。


「そう。ほら、アールくんたまに描いた絵を見せてくれることがあるでしょ?だから、何となくアールくんの好みが絵とか、あとは普段の様子とかから伝わってくるんだ。けど、悪魔、ってアールくんの好みとは違う気がして。だから、誰かが選んだのかな~、とは思ったよ」


「――そっか。そうなんだ…。……マネージャー、よく見ててくれるんだね」


最後の方は小さくてあまり聞き取れなかったけれど、アールくんはフワリと嬉しそうに笑った。


「ね、マネージャー。ボク、まだまだ未熟で頼りないけど、マジフォーのリーダーとして、一人の男として、これからもっともっと頑張るから。…だから、一人前になるまで、側で見ててくれる…?」


決意の籠った眼差し。
けれど、その瞳にはどこか少し不安の色が見え隠れしていた。


「―もちろん」


気付けば、そんな言葉が口をついて出ていた。
その言葉に、アールくんはホッと肩の力を抜いた。


「本当にありがとう、マネージャー」


これからもよろしくね。そうアールくんが告げると同時に、稽古場のドアが勢いよく開け放たれた。


「よ!大先輩であるこのキラ様が遊びに来てやったぞー」


「おー!キラ、おっせーぞ」


「お?何だ、アトムは狼男か…」


「…何だよ?」


「……いや。フランケンである俺の方が強いと思ってな?」


ドアを開け放ったのは、先輩ユニットであるLAGRANGE POINTの緋室くんだった。
緋室くんは、ドアを開け放った体勢のまま、アトムくんと「何だとー!」「勝負するか?」「受けてたつぜ!漢字対決な!負けたら焼き肉おごれよー!」「なっ…!アトム卑怯だぞ?!」「勝てば良いじゃん!」などとワイワイ始めてしまった。

――その後ろに人が居るというのに。


「もー!キラくん、邪魔なんだけど!」


緋室くんを押しのけると、人影の一つはするりと入ってきて私とアールくんの前まで駆けてきた。


「……エル、くん…?」


真っ黒なマントで顔を隠している人影にそう問い掛けると、仮面をつけたエルくんの顔が露になった。


「どうどう?ヴァンパイアっぽいでしょ?」


腕を広げると、中にも侯爵風の服を着ていて、なるほど知らない人が見たら本物のヴァンパイアである。


「ほんとだね…」


「でしょ?ま、俺は魔法使いが良かったんだけど。ルイくんがヴァンパイアは嫌だって言うから~」


「ふふっ、そっか」


「あ、ちなみにさ。アールは元々狼男だったんだけど、迫力ないから無理だよ~、って言うから、天使にしようかとも思ったんだよ?…でも、やっぱそこはあえてギャップを狙って悪魔にしてみたんだ~。どう?可愛いでしょ?」


あとは~、とエルくんが後ろを振り返る。


「キラくんは、ミイラだと動けないって文句言うからフランケンにして~。シャイくんは……」


エルくんがそう続けようとすると、緋室くんの後ろの暗がりから白い手が伸びて、緋室くんの肩にそれを乗せた。


「キラ。ドアを開けたままだと部屋が冷える。早く中に入れ」


「―あ、わり」


人影に促され、緋室くんはそそくさと部屋の中に入り、ドアを閉めた。

ルイくんは、人影を見るとその側に寄っていって挨拶をした。


「おはようございます、牧島さん」


「あぁ。おはよう。すまないな、レッスンもあるというのに」


「いえ。そもそもの発端は僕らですし。むしろ、お忙しい合間を縫って来ていただき、ありがとうございます」


「いや、問題ない。キラが少しでも参加したいと話していたからな。スケジュールを何とか組み換えてもらった。しかしまぁ…スケジュールを無理やり変更した埋め合わせに、キラは後々俺だけでなく全員に焼き肉を奢るそうだから、楽しみにしておいたら良い」


「……?!?!おいおい、シャイさん、そんなの初耳…」


「――何か言ったか、キラ?」


「あー、いや、何でもないです。スイマセン」


アトムくんと言い合っていた緋室くんが驚いて口を挟むが、間髪入れず返された鋭い声音に何も言えず、すごすごと引き下がった。


「――そういえば。牧島さんは次のレッスンまであとどのくらい時間があるんですか?良かったら、新しい振り付けを見ていただきたいのですが…」


「そうだな…。30分くらいなら居られる。俺で良ければ見てやろう」


「すみません、少し複雑なリズムのところなのでどうしようかと決めあぐねていて――」


ルイが俺とアトムから離れて、シャイの前で新しい振り付けを踊り出す。ルイの鼻歌を聴く限り、なるほどテンポが速いから、振りをどこまで詰め込むか悩んでいるらしい。





「――なぁ、キラ」


シャイがルイにアドバイスをし始めたのを見計らってか、アトムが俺の袖を引っ張って小声で話し掛けてきた。


「――ん?何だよ、どした?」


小声で返すと、アトムは神妙な面持ちでシャイを見つめた。


「……シャイの魔王とか、洒落にならねーんだけど…」


「…あぁ。いや、まさかシャイが本当に着るとは俺だって思ってなかったさ……。俺も最初見た時は、魂取られるんじゃないかとひやひやしたぜ…」


最初――それこそ更衣室から出て来たシャイを見た時、その銀黒紫を基調とした服に身を包んだ、見慣れたはずの無表情に、思わず
俺も逃げ出したい衝動に駆られたものだ。


「さっきキラとシャイが話してた時、オレ様シャイの背後に地獄への道が見えたぜ…」


「奇遇だな、アトム。俺もだ…」


「――ほう、そうか。ならば、お望み通り二人まとめて地獄へ送ってやろう」


「げっ…。シャイ……」


「ははは…。…シャイさん、目が怖いですって」


コソコソ話していると、背後から声が聞こえ、振り返るとそこには魔王――否、魔王の格好をしたシャイが無表情で立っていた。




☆★☆★☆★☆



「あ~ぁ、またシャイくん怒らせてるよ、アトムくんとキラくん」


「ほんとだね……」


「――あ、ルイくん。最後まで振り付け見てもらえたの?」


正座させられている二人を呆れて見ていると、少し離れたところからルイくんが戻ってきた。


「えぇ。もう完璧です」


「はやっ。さっすがルイくんとシャイくんだなぁ~…」


エルくんが可笑しそうに口元を歪めた。


「はい。もともと大した量ではありませんでしたから、すぐに終わりました」


「へ~…。さすが完璧主義の二人…」


「……ねぇ、エル。でもこれじゃあ、仮装大会どころじゃないね?」


「――あっ。……も~、アトムくんとキラくんのせいだね、これは」


膨れっ面をしたエルくんに、仮装大会?と聞き返すと、そう!せっかく仮装したんだから、誰が一番よく仮装出来ているかマネージャーに決めて貰おうと思ってたんだけど。と残念そうに返された。


「まぁまぁ。また来年にでも、出来たらやりましょうよ」


「ん~…。まぁ、そうだよね…。……じゃあ~…、アトムくんにキラくん!お詫びに焼き肉おごってよね~!!」


ルイくんの言葉にしぶしぶ頷くと、エルくんは正座させられている二人に向かってそう言い放った。


「はぁ?!」


「おいおい、そりゃないぜ……」


途方に暮れた二人の様子が可笑しくて。皆で顔を見合わせて吹き出した。


(――そっか。張さんが言ってた言葉は、こういう意味だったんだ)


確かに、こんなに賑やかなのは他のスタジオの迷惑になる。


(けど――。…こんなに楽しいのなら、大歓迎…!)


最初にケンカかと心配していたのが嘘のようだ。今はこんなに楽しい。心の底から笑って、今日のこの時間を大切に胸に刻み込もう。




☆★☆★☆★☆



「おい、アトムにキラ。マネージャーに見惚れている場合ではない」


「なっ…!オレ様別に見惚れてなんて…!」


「照れんな照れんな、少年よ」


ニヤニヤ笑いで、ぽんぽんとキラに肩を叩かれる。


「…――っ!キラの、馬鹿やろーー――!!!!」