彼が旅立ってから数時間…私は残った者達の旅立ちの準備を手伝っていた。
放心状態でも…身体だけは動く。

最後の荷物を載せたトラックが出る…。

仕方のない事だ…彼を信じて待つしかない…
私はしっかり生きていられるよう頑張ろう…
そうだ…車の免許、取ろうかな…

いっぱいいっぱい自分に言い聞かせて、前向きに考える努力をした。
けれども頬を伝う雫は…止まる事は無かった…。

ぼやけた視界に小さくなるトラックの後を静かに見送った…


ビッビーッ!!

突然後ろでクラクションが鳴った。
驚いて振り向くと、同じ厩舎の騎手が車から顔を出して居る。

私『あ…岩井さん…出発ですか?気をつけて^^』

岩井(騎手)『早く乗れっ!』

私『はぁ??』

岩井『ついて行きたいんだろう?河瀬(彼)に。だったら早く乗れ』

私『ぇ…でも…彼は………』

岩井『だぁ~!ウジウジしてたら置いてくぞ!行くのか?行かないのか??』

私『えええっと・・・行きますっ!!』



信じられないけど…私は何も持たず、岩井さんの車に乗り込んでしまった…
こんな展開…あり?私…とんでもない事しちゃってない??

元々騎手とは、厩務員にとって上司のようなもので…
というか、彼の厩舎の一番偉い人=調教師の娘婿に当たる人で…
ぶっちゃけとっつきにくく(見た目も恐い)、何を話していいのかわからない。
そんな人が私みたいな小娘を運んでくれるなんて…また…涙が溢れ出した…

嬉しい涙が^^

岩井『鼻水拭け…』




車に揺られて2時間以上…ほとんど無言のまま、私は彼の居る競馬場に来てしまった…。

彼は何て言うだろう…怒られるんじゃないか…追い返されたらどうしよう…
不安を抱えたまま、車は厩舎の前に滑り込む。

私が車から降りるのと同時に彼が厩舎から出てきた…
私を見つけた彼はかなり驚いた顔をして… …笑ってくれたんだ^^

彼『な~にやってるんだ?お前w』

そう言いながら髪をクシャクシャに撫でられた。きっと私もクシャクシャの顔をしてたと思うw
そして…『よくついて来てくれたな』そう言って強く抱きしめてくれた…
周りから歓声が沸き、私は今ここに来れた運命に心から感謝した。




それから数日、彼との時間を大切に大切に過ごした。
でも…やっぱり私は帰らないとならない…こんなに好きなのに…一緒には居られないんだ…。


ある夜、ふと『子供ができたらどんな名前がいい?』なんて思い…彼に聞いてみた。

彼は少し考えると『キアラ』と言った。

その名前は…私が大大大好きなキャラクターの名前!
当然そんな事は知らずに口にした彼。私は彼にギュウっとしがみ付いて
『その名前いい!!私もその名前が頭にあった!!絶対それに決まりだ!!』
なんかこういうところでもほんと…運命感じちゃうんだよね~…こんなの初めてだよ☆



私は子供が好きじゃない。
Traumaのお話に少し書きましたが…たぶん継母のせいだと思う…

私はいつの間にか子供が大嫌いになっていた。

だけど不思議と…彼の子供は欲しい!!と、自然に思うようになっていて…
今までどんなに好きな人が現れても絶対子供なんて産まない!って思ってたのに…

私『子供…欲しいね…』
彼『うん!結婚式までまだ遠いけど…子供…作っちゃう?』
私『うん^^』


彼の子供を授かる事ができたら…私はもう独りじゃないから寂しくない!
彼と離れても子供と一緒にずっと帰りを待っていられる^^

…今考えると…なんて浅はかな考えだったか…
あの頃自分は、後先しっかり考えれない子供と同じだった。そして彼も。
だけど、一つだけ言える事は、あの時は冗談でもノリや流れでも何でもなく、ただ単純に…
心の底から本当に…

 彼を愛していたんだ。



それから数ヶ月…私はヒトツキに1~2回自宅に帰り、それ以外は愛猫の叶夢も連れてきて

彼と一緒に競馬場で過ごす幸せな日々を送っていた。
表向きは【厩務員の見習い(?!)】として…w
岩崎さんの義父にあたる、調教師が口添えをしてくれたおかげで長期滞在が可能となった。

ある時、いつものように馬坊の掃除や馬の手入れを終え、部屋に戻って着替えると、

下着に血がついてる事に気付いた。
『生理…かな?そういえばしばらく来てないな…』
手帳を見るともう2ヶ月来てない。
生理は始まった時からずっと不順だったから気にして無かったけど、ここまで空いたのは初めてだ。
とりあえず生理用品を着用して数日様子を見たが、血液がついたのはそれっきりだった。
私は彼にその事を告げると、一緒に薬局へ妊娠検査薬を買いに行ってくれた。

帰りにご飯を食べるため寄ったレストランのトイレでさっそく検査をしてみる。

 ドキドキドキドキ・・・ぁ。。。。

戻ってきた私に彼は瞳を輝かせ、せかすように結果を聞いてきた。
私は下を向いて黙る…

彼は不安そうに…『だ・・・だめ・・・だった?』と聞いてきた。

私は顔を上げ…ニッと笑いブイサインを見せる。

彼『やったーーーーーーーーっ!!!!』

店中の人達が驚き、こっちを見ていた。



その夜、子供の話をした時のように暗い部屋の中、二人で布団の中。

彼『…結婚して?』

ぽつりと言われた言葉は、突然のプロポーズだった。

私『ぇ…?今なんて?それって…プロポーズの言葉??』

ちょっと照れくさくて茶化すように聞きなおしてみる。
彼の顔が真っ赤になってる事が暗闇でもわかった。
私が覗き込むように見ると、プイッと背中を向けて…

『YesかNoかしか聞かない!』と言った。

照れてる彼が可愛くて、私は少し笑いながら…

『はい^^』とだけ返事をした。

じゃあ…と、お互いに起き上がり三つ指ついて
『不束者ですが宜しくお願いします』
なんて改まり、顔を見合わせて笑い転げる。

キアラ…あなたのママとパパでしゅよ~☆安心して早く産まれてきてね☆




当初、予定していた結婚式より半年早まってしまったけど…
私たちは1998年6月24日に入籍をした。




医師『ご懐妊おめでとうございます!妊娠11週目です。』

私と彼は顔を見合わせ、喜んだ。

医師『しかし…ちょっと無理されましたか?切迫流産の傾向があります。』

一瞬目の前が真っ暗になった。
そう言えば…あれから大急ぎで引越しをして重い荷物とかいっぱい持ったなぁ…
ぃゃ、それより『早く産まれてきてね☆』なんて言ったから悪かったのかな?言わなきゃ良かった…
本気で思った。

医師『まずはすぐに入院し、絶対安静を守って下さい。』
医師『ご主人は入院の支度をしてきて下さいね。』

彼『先生…赤ちゃんは大丈夫なんですか?』

医師『まだ何とも言えませんが、安静を保てばこれ以上危険な状態になる事は

   避けられます。あとは24時間点滴を続け、様子を見ましょう。』

私『点滴…嫌…』

倒れそうになる…。



実は私、15歳の頃からヘビースモーカーだったのですが、妊娠したら自然とタバコの匂いが嫌になり

、辞められると言われていたのに…妊娠してもまったく辞める事が出来ませんでした…。

入院したのは当然産婦人科で、煙草は絶対禁止!!
パパ(彼)にも取り上げられてしまいました(当然)

それから3日ぐらい経って…吸いたい気持ちは全然治まらず…

禁断症状が現れ、ノイローゼのようになった。
ただでさえ病院はストレスが溜まる。パパには逢えないし、毎日の点滴で両腕と手や足の甲まで

ブス紫色になてしまってる(血管出にくい体質なんだよねぇ…)
医師の診断で、その時の私は精神的に危険な状態に陥ってると言われ、煙草を吸う許可が下りた。
赤ちゃんにとって煙草は害になるものだけど、それ以上に母体の状態を安定させないと

より危険だと判断されたのだ。

それから私は点滴を引きずって喫煙所に通うようになった。

喫煙所で時々顔を合わすふくよかな女性。

彼女もまた点滴を引きずっており、私と同じ状況なのかと尋ねると…彼女は赤ちゃんを

800gで産み、今は赤ちゃんだけが遠い病院に運ばれ入院しているという事を知った…。

私は… … …母親失格… ?




入院して1ヶ月ちょっとで無事、退院できた。
赤ちゃんも安定期に入り、遊び歩くには今しかない!と言われ、パパと色々な所へ行った。

まずはパパの両親にご挨拶に伺い、私の生い立ちなんかを色々話してきた。
行く前は胃がキリキリ…何度もパパに『行くのやめるか?』と言われたけど、頑張った☆
思ってたより優しいご両親で、こんな私の事も良く理解して頂けて本当に良かった☆


それから海や遊園地、友達や親戚の所とかにもたくさん出かけた☆
こんなに外出できたのは全て、同じ厩舎の人達のおかげだ。
パパが居なくなる分の仕事を負担してくれたのだ。
私は本当に良い人達に囲まれていた。



お腹が大きくなってくると見ず知らずの人にも優しくされる事が増えてきた。
温泉とか行くと突然無言で背中を洗ってくれるおばさん。
いっぱい食べなよ!とサービスしてくれるお店のおじさん。
人の温かい心を感じられる期間でした。


雪が降り出しそうな頃、私達は再び出逢った土地に戻ってきた。
本当はそれまでじっと耐えて待ってるはずだったのにw今はもう妻でありママになっている。

私の従姉、愛姉ちゃんが私たちと同じ月に入籍をした。
なんと!妊娠も同じ頃☆赤ちゃんの予定日は2週間しか違わなかった。
妊娠8ヶ月~臨月まではその愛姉ちゃんと過ごす事が多かった。
同じ病院で検診を受けて同じ病院で出産予定☆
帰りに大きなお腹を抱えた二人がスーパーにでも立ち寄ると、まるで私たちってダンプカーw?
道はサササーッと開けられ、ど真ん中を歩く姉妹w天下無敵でした(笑)



1998年12月24日

やっと1年だね~☆
キアラ~?も~い~よ♪早く産まれておいで~☆

愛姉ちゃんは一足早く出産を終えた。


私は臨月のお腹を抱え、これからの生活にワクワク瞳を輝かせていた頃…
突然パパの家族が勢ぞろいで(両親と2人のお姉さん)で競馬場を訪れた。
お腹に巻くさらしやら安産のお守りやらお札やら…
全てお寺で貰ってきたという如何わし気な品物をお土産に…

義母&義姉達
  『お部屋の準備は整ってるからね!いつでも安心して元気な赤ちゃん産んでね!』

  『産後は1ヶ月ぐらいしたら畑手伝ってね!働かざる者食うべからず(笑)』

  『孫は私が看るから安心して!雅也(パパ)と二人で頑張りなさい!』

  『うちは牛が主だから年中休みは無いよ~』


などなど・・・
信じられない言葉がポンポン飛び出す・・・


ぇ。。。?どういう事ですか・・・?

確か…妊娠が判明し、結婚する時にこういう話は色々話し合ったはず…
今年度いっぱいで調教師が引退するから、厩舎は解散となり、丁度良い時期でもあるので

実家に帰って本格的に馬主として頑張る!って…話は聞いていたんだけど…
確かパパは…

『子供が生まれたら町にアパート借りて、そこで3人で暮らそう!』

『俺はそこから毎日実家に通うから、深涙は安心して子育てに専念しろ!』

『貯金もあるし(俺、馬主だぜw?)キアラが小学校上がるぐらいまで遊んで暮らせるから』

『まぁ、子育て一段落したら実家の方も少し手伝ってよ』



【パパの両親とは別居】 【貯金は1000万ぐらい】 【キアラが大きくなるまで私は家に居て良い】

この3つは最も重要で…私は勿論そのつもりで居たんだけど…?
ぇ。。。ほんと。。。どういう。。。こと?なの?



その夜、パパにお義母さんの言ってた言葉の真相を確かめてみた。

『ごめん!親にまだ何も話してなかった…』

えーーーーーーーーっ?!

ゴメンじゃ済まないよぉ~~っ!!

ひょっとして。。。
まだ日が浅くてなかなか聞けなかった問題。恐る恐る聞いてみた…

私『貯金…いくらあるの?』

彼『う~ん…だいぶ使っちゃったからな~…前は500万ぐらいあったけど…』

私『通帳…見せてくれる?』

彼『う‥うん… ほいっ…』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

いちじゅひゃせんまん・・・じゅうまん・・・・・・百万円?丁度。。。


予定してた事が大きく狂った…
そして、この後の暮らしを想像する前に…陣痛が始まった…。





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