みなさん、大変ごぶさたしています。ほんの僅かながら、毎回の投稿をお読みいただいていた方々、大変失礼いたしました。前回の投稿から2年余りが経っていると思うのですが、この間、実は私、婚外恋愛をしておりました。最初こそ順調なお付き合いだったのですが、途中からすっかりこじれてしまって、最後は命からがら(大げさ!)逃げ出す羽目に。

 

これから何回(何十回?)かに渡って、そのあたりの経緯をお話したいと思います。どうぞお付き合いくださいませ。
 

では、「泥沼愛憎劇」の始まり始まり…

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あれはオミクロン株が猛威を振るった第6波がようやく下降線をたどりつつあった、一昨年のゴールデンウィーク明けのことでした。ですからちょうど2年前の話になります。

その日、閉店時刻20時の10分ほど前だった思います。私が勤めていたのはショピングモールや駅ビルの中に入っている店舗ではなく、単独店(業界では「路面店」といいます)で、駅ビルやショッピングモール内の店舗と違って19時を過ぎれば、ほとんどお客様は見えなくなります。

その日の売り上げなど業務報告をパソコンに入力していると「ぎぃー」と音を立てて入り口のドアが開きました。

「いらっしゃいませ」パソコンの画面から目を上げて背筋を伸ばし、口角を上げて明るく呼びかけます。(これはもう脊髄反射)

(おや)と思ったのは、勤めている店には珍しい男性お一人のお客様だったからです。

勤める会社はいわゆるセレクトショップといって、自ブランドのものを販売するのではなく、コンセプトやテーマ(お偉いさんの言葉を借りれば「世界観」)に合う様々なブランドのアイテムを扱っています。メンズの取り扱いもあるのですが、勤務する店はスペースの関係でメンズは小物(ハンカチ、革製品、ソックス、オーソドックスで売れ筋のタイ10数点など)しか置いていません。これは男性客に訴求するというよりは、女性のお客様のパートナーへのプレゼント用の意味合いが強いわけですが、かといって、男性の単独のお客様がゼロ、というわけでもありません。(たまにあるのが、プレゼントを無くしてしまったのでで同じものを手に入れたいという方)

でもその方は、メンズのコーナーに目もくれず、奥にある私がPCに入力しているカウンターの方にやってきます。

歳の頃は40代後半でしょうか、この頃には珍しく、ネイビーのスリーピース。織り柄の入ったブルーのシャツにワインレッドのタイ、そして手にはダレスバッグ、足元はウイングチップ、と言う、いわゆる「カチッとした」出で立ち。フラワーホールには、誰もが知っている大企業のバッジが輝いていました。

銀縁の眼鏡をかけ、顔立ちはちょっと俳優の菊池隆志さんに似ている感じ。ゆっくりと大股で歩いてくると

「桜井さん。桜井えみりさんですね」
そう言いました。

私達はネーププレートをつけていますが、プレートに記されているのは苗字だけで、下の名前はありません。

(なぜ私の下の名を知っているのだろう。そしてこの方はいったい、何者なのだろう…)
「はい…」と答えたのですが、そのような疑問があったので、きっと不安いっぱいの顔をしていたと思います。
(続く)