私はビール好きだ
ビールが好き、というと「大勢でワイワイとにぎやかに飲むのが好き」と思われがちなのだが、私はちょっと違う。
1人で飲むのが好き。
あまり大人数は得意じゃない。
友人とも1人、2人とこじんまり会うのを好む。
そんな私の楽しみ。
それは「ひとり飲み」
仕事で出掛けた先で、早い時間に終わったりすると心の中がざわめいて仕方ない。
クールな表情をしながら頭の中はその地域、あるいは沿線のクラフトビールを扱う
店を早く検索したくてウズウズしてくる。
背中には8kg近い重さのリュックを背負っていようとそんな事はどうでも良い。
どうせ座る時は置くのだから。
店舗を検索しながら私の頭の中にはこんな絵が浮かび始める。
途中の駅を降りて7分歩く。
ようやく見つけた店舗に私は入る。
バーカウンターにはいくつものクラフトビールのタップがあり
イケメンなお兄さんが注いでくれる。
私はウィンクしてそれを受け取り
ひとくち飲みこうつぶやく。
『強化子』
そしてあっさり一杯を空け次の一杯。
これは連続強化だろう。疲れているというセッティング事象も整っている。
喉の渇きは確率操作として機能し、飲むペースを早める。
あゝ、生きる喜びここにあり。
しかしお気付きだろうか?
ここまでの話はまだ私の頭の中の妄想であり、私はそのイケメンお兄さんが注いでくれる店舗に入っているどころか、見つけてもいないのだ。
私は電車の中でまだお店を探している最中である。
イケメンお兄さんの店舗、じゃなくておいしいビールのあるお店を
ただ無心に探している最中だ。
どこで途中下車しようか。
心はイケメンお兄さんに向かってルンルンだ。
しかし、私は明日の朝が早い事をふと思い出してしまった。
ちょっとだけなら飲んで帰ってもいいよね。
私は誰ともなく確認する。
車両の全員がうなずいているように見えてきた。
頭の中にはイケメンお兄さんが今まさに並々とビールを注いでくれて、私に手渡そうとしている絵が浮かんでいる。
後はそれを受け取りウィンクをするだけだ!
もう少しで飲めるんだぞ!
さあ、手を伸ばすんだ!
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しかし私は途中下車をしなかった。
イケメンお兄さんからのビールも受け取らなかった。
当然ウィンクもしていない。
私の途中下車による
飲酒行動は「明日の早起きができないかもしれない」という
可能性により生起しなかった。
私はスマホをしまい、電車に揺られながらこうつぶやく。
『嫌子出現阻止の随伴、ってやつか』
行動分析家はいついかなる時も
感情ではなく随伴性を見るのだ。
私は最寄り駅に降り立ち、いつもの赤提灯に入った。
そこにはイケメンお兄さんも
バーカウンターもない。
いるのは激動の戦後を生き抜いたママと常連のおじさん達。
そこで私はハイボールを飲みながら小さくほくそ笑む。
そして本当ならイケメンお兄さんにするはずだったウィンクをママに送る。
ママがハイボールのショットをサービスしてくれた。
そして私はこう言った。
『ママ、強化子をありがとう』
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ミク先生
国際認定行動分析技術士/ABAT🄬
日常のエピソードをABAの視点で書いています(^^)