ハッスル史上最大のビッグマッチは、PRIDE風の選手紹介映像で作られたシリアスなものだった。これまでの小川とハッスルの歴史を振り返るセンチメンタルな映像と、何度も繰り返される
「すべてはハッスルのため」
という小川の言葉。この試合に関してはヒール色の強かった小川だが、こういったVTRを見ると目頭を熱くさせるものがある。そんな小川に対し川田は
「俺がプロレスを教えてやる」
とコメント。これを受けた小川も
「じゃあ俺がハッスルを教えてやる」
と一歩も引かない。形こそ違えど共にハッスルを背負った人間の宿命の一戦が今幕を開ける!
 先に入場した川田はいつものハッスルスタイル。黄色のトラックスーツに身を包んでいる。対する小川はいつもの孫悟空ガウンこそ着ているものの、フードの奥に見える横顔にもみ上げはない。そしてリングに上がりガウンを脱ぐと、足にはキックレガース、その両手にはオープンフィンガー・グローブが付けられていた。完全に暴走王スタイルの小川は中央で川田を睨みつけると、いきなりの頭突き。そのまま川田をコーナーまで押し込むとミドルと踏み付けを連発し、両手を叩いて川田を挑発する。その姿はまさしくあの頃の小川だ。何とか立ち上がった川田は不用意に近づいてきた小川に頭突きのお返し。そして小川の頭を掴み、強烈なヘッドロックで締め上げ始める。頭を捉えられた小川は足を伸ばしてロープブレイクを狙ったり、川田の体をロープに振ろうとするものの、川田はそれを許さない。むしろジリジリと絞める角度をきつくしていく。この古典的で地味な技に愚直にこだわるあたり、川田のプロレス観を感じさせる。これを何とかロープブレイクで逃れた小川。しかしダメージが大きく立ち上がれない。そこに川田は容赦なく張り手とヒザ蹴りの連打。そして上半身のトラックスーツを脱ぐと、強引に小川の足を掴んでハーフボストンクラブで締め上げていく。何とか這いつくばってロープブレイクを得た小川だったが、川田はすぐに逆水平とミドルを連発。そしてフラフラの小川にフロントキックを叩き込もうとする。しかしここで小川は起死回生・カウンターの左ストレート!そしてマウントからパンチを叩き込み、横四方から袈裟固めで川田の首をグイグイと締め上げる。たまらずロープに逃げた川田を無理矢理立たせた小川は得意の払い腰。そして助走を付けての強烈なSTOを決めた。さらに先程のお返しとばかりに川田に対してハーフボストンクラブ。しかもそのまま顔面を踏みつけるというえげつなさも見せる。これを外された小川は何と足四の字固め!川田も体を返して逆に小川の攻めようとするが、小川もそれを許さない。必死の形相で互いの足を極めようとするその姿は、これまでにハッスルになかった独特の激しさがある。しかしこれを外した川田が一気に攻勢に出る。エルボー、ジャンプキック、フットスタンプと大技を繰り出すと、何とスピニングチョークを披露する。これは小川が何とか足を伸ばしてロープブレイク。しかし完全に試合の流れは川田に傾き始めた。パワーボムを耐える小川に顔面蹴りを叩き込んで川田は、ロープに飛んで強烈なラリアット!さらに高角度のバックドロップを2連続で決める。もうグロッキー状態の小川だが、それでもまだ川田はフォールには行かず、トドメと差さんとばかりの垂直落下式ブレーンバスター!誰もが川田の勝利を確信した瞬間だったが、これがハッスルを背負っている人間の意地なのか、小川が3カウントギリギリのところで両肩をマットから上げたのだ。そして川田のサッカーボールキックを上手く交わした小川は、カウンターのSTO!川田もすぐにジャンピングハイキックを繰り出すが小川もSTO。カウント1で返した川田にフライングネックブリーカーを決めると、そこからSTO2連発!小川がハッスルキャプテンとしての意地を見せ、川田から3カウントを奪った。あまりの激しい試合に両者はノックダウン状態。なかなか立ち上がることが出来なかった。
 通常の試合ではここで小川の勝利となりキャプテンの座を防衛となるのだが、この試合は観客ジャッジメントシステム。PPV観戦者からのハッスルオフィシャルサイトに寄せられた投票が開示されると、ここでより多くの得票があったのが敗れた方の川田!これで試合の勝敗は会場にいる客席の人たちのジャッジにゆだねられる事となった。観客席に上げられたボードは若干、川田のイメージカラーであるイエローが多く上がっている。そしてハッスル野鳥の会の集計の結果は…

川田!

これによりすべてのポイントを主計した結果、2-1で川田がこの試合を制した。試合前の公約ではこれでハッスル軍の新キャプテンは川田ということになるのだが、川田はレフェリーからの勝ち名乗りを拒否。そしてマイクを握ると
「小川、お前全然しょっぱくねえよ。俺は最初からキャプテンなんてどうでも良かったんだ。お前にプロレスラーとして目覚めて欲しかったんだよ。これからもキャプテン頼んだぞ。気を抜いたらいつでもキャプテンの座から引き摺り下ろすからな。今日来てくれたファンの皆さん、その気持ちは受け取らせていただきます。でもリングでフォール負けした以上、自分がキャプテンをやることは出来ません。小川、お前がハッスルを引っ張っていくしかないんだよ。俺はこの自由なポジションが好きなんだ。お前がハッスルを引っ張っていてくれ」
と、自らが得たキャプテンの座を譲り渡す事を宣言したのだ。試合前川田は事あるごとに
「プロレスラーとしての小川を引き出す。それが俺が指名」
と公言していた。それを実現できた川田にはキャプテンの称号など必要なかったのだ。これぞまさに”俺だけのハッスル”である。そしてまた小川も素晴らしかった。川田という本物プロレスラーと戦ったことで、これまでのハッスルでは見せたことのなき鬼気迫る姿を見せてくれたからだ。そんな感動的なシーンが展開する中、今回の全面プロデューサー高田総統が現れた!