「ごめん。好きになっちゃった。アイドルとしてこんな気持ち持っちゃいけないことわかってるつもりでいた。頭ではわかってるけど、心がわかってなかった。おんちゃん。ごめんね。」

言い終えた瞬間涙が溢れそうで、そんな情けない姿見られたくなくて、私はその場から逃げ去ろうとした。

 

「ねえ!!待ってよ。待ってってば!もぎさん!!」

 

いやだ。いやだよ聞きたくなんかない。

「わかってる。君が言いたいことなんてわかってるから…  だから、君の口から聞きたくない」

 

 

 

私はおんちゃんのこと本気で好きだけど、君はきっとそうじゃない。好きでいてくれてるとは思う。でもそれは、友達として。今までずっとおんちゃんのことはマブだって公言してきた。それは本当で、だれにも負けないくらい仲が良い。些細なことで一緒にげらげら笑って、つらい時には支えあって、本当に大親友だと思ってる。でも、それ以上の気持ちに気が付いちゃったんだよ。

 

…キスしたいって思っちゃったんだよ。私の隣で安心しきってすやすや寝ているあなたを見て。抱きしめたい。もっと触れたい。離したくない。そう思った。どうしようって思ったよ。だけど、友達にわく感情とは明らかに違う気持ちを見過ごせなかった。この気持ちを知られたら、きっと今みたいな関係は終わってしまう。だから胸にしまっておこうと思ってた。これは私だけの秘密、こんな気持ち消してしまおうって言い聞かせた。

 

でも、おんちゃんとずっと一緒にいる私にとってそんなことは無理な話だった。急に抱き着いてきて疲れた~って甘えてきたり、ぼーっとしてたら顔を覗き込んできたり、気持ちをしまい込んでおくにはハードルが高すぎた。好きだって気が付いてから、今までと同じことに急にドキドキしてしまう。一度気が付いてしまったこの気持ちは簡単には消せなかった。むしろ日に日に増幅していく。溢れてしまって止まらなくなった。

 

 

だから、気持ちを伝えて終わろうと思った。君から拒否されればきっとこの気持ちはなくなってくれる。大好きなあなたに教えてもらえば。

 

 

…やっぱり、それもできないみたいだ。あなたから拒否されることが怖いみたいだ。もう、逃げ出したい。頭の中がぐちゃぐちゃ。いろんな感情でよくわからなくなってる。

 

 

 

 

 

 

どんなに逃げても君は一生懸命追いかけてくる。小さな手で私の腕をつかんで逃げさせてくれない。現実を突きつけられるのが嫌で、私は君から離れようとした。それでも、その手が震えていることに気が付いて胸がきゅっと締め付けられる。君はどんなことを思っているんだろうか。すごく、怖い。 

 

おんちゃんは震えた手で両腕をつかむとくるっと私の向きを変えた。向き合う形になったけど、君の顔を見たら愛おしさと悲しさでどうにかなってしまいそうで、下を向いたままでいることしかできない。

 

「もぎさんお願い。言わせて。私の口からちゃんと言わせて」

 

「いやだ。わかってる」

「わかってない!!!」

私の腕を握っている手に力を込めながらはっきりと言い切った。食い気味に否定されたもんだから、思わず顔を上げておんちゃんのことを見つめてしまう。

 

…泣いてる 

 

おんちゃんは静かに泣いていた。

 

 

ずるいよ。そんなかわいい顔。もっと好きになっちゃうじゃん。そんな顔私の他の誰にも見せたことないじゃん。ちゃんと私に向き合ってくれてることを実感してハッとする。逃げてるのは私だけだ。

目を見て聞くよって返事をする。声にはならないけど、あなたには伝わっているみたいだ。

 

 

「もぎさんのことはすごく大切で、これからもずっと隣でいたい、って思ってる。どんなにくだらないことでも一緒に笑いあえるあなたが、どんなにつらくても苦しくても笑顔にしてくれるあなたが大好き。でも、今はその気持ちには答えられない。これからも同じ距離感でいて欲しい。」

 

 

やっぱり。そうだよな。わかってたけど悲しい。でも、拒絶をされなかったことに安心感を覚える。気持ちを伝えても今まで通り、おんちゃんは友達として、私のことを思ってくれる。普通とは違う恋をしてしまった私を、希望していた形とは違うけれど、受け入れてくれた。それだけでよくなった。

 

 

「ありがとう。ちゃんと伝えてくれて、私の気持ちは今すぐには消せないかもしれないけど、おんちゃんとずっと友達でいられるだけで幸せです。」

やっとの思いで絞り出した言葉におんちゃんはぶんぶんと首を横に振る。???頭がはてなでいっぱいになった。

 

「違う。その気持ち消さないで。待ってて。」

 

「え?」

 

「…好きだから私も。もぎさんのこと。でも、今はアイドルとしてこの気持ちを抑えなきゃいけないでしょ?私も茂木さんのこと、ちゃんと好きだよ。恋愛として。だから、お互い卒業するまで、この気持ちはおあずけしよう。」

 

 

 

頭が真っ白だ。

「おんちゃんも私のことがすき!?本当に!!!???」

嬉しさと驚きで思わずそう口に出してしまう。

 

 

「だから、そう言ってるじゃん」

おんちゃんは恥ずかしそうに上目遣いで私を見つめる。

 

反則だ。かわいい。かわいすぎる。身長が私の方が高いから自然とそうなってしまうんだろうけど、可愛すぎて心臓がはちきれそうだ。

 

「かわいい」

 

必死に紡いだかわいいという素直な言葉に、おんちゃんはまだ目をうるうるさせながら、でも嬉しそうに微笑みながらありがとう。そう口にした。

 

 

かわいくて愛しくて、この気持ちを抑えなくていいんだってわかった瞬間溢れて止まらなくなる。おんちゃんに握られていた両腕はいつの間にかおんちゃんをぎゅっと抱きしめていた。君も私のことを好きでいてくれている。そう思っただけであと何百年も生きられる気がした。

 

おんちゃんをじっと見つめる。キスしたいなって気持ちを込めて。おんちゃんも私をじっと見つめ返す。おんちゃんもキスしたいんだな。はっきりわかった。

 

 

 

でも、君は首を横に振った。

「だめ。今はだめ。我慢しなくちゃ。気持ちは通じてても、行動したら大切なものがなくなっちゃうから。総監督として、AKBを復活させたいし、まだまだアイドルとして、みんなを笑顔にしたい。もぎさんもまだまだ、これからでしょ?茂木のターンちゃんと見せてよ。」

 

 

 

どうやら、おんちゃんは私より一枚も二枚も三枚も上手(うわて)だったようだ。ちゃんと全部わかってる。私がおんちゃんのこと大好きだってことも、アイドルとしてもっと頑張りたいってことも。だからこそ我慢しようって言ってくれてる。自分の気持ちに素直でいながらも、私のことも思って行動してくれてる。おんちゃんのことが、一段と深くわかった気がして嬉しくなる。そして、もっともっと大好きになった。でも、この気持ちを我慢しなくてもいいなんて独りよがりだ。おんちゃんが気づかせてくれた。私たちを待ってくれてるファンの方たちのために私も頑張らなくちゃ。

 

「うん。見ときな!わっちのターン」

私のことなら、全部お見通しなのが嬉しくて、気恥ずかしくて、わざとあっけらかんにそう答えた。それさえも、お見通しかもしれないけど。

 

「うん。ちゃんと見てるよ。」

 

 

嬉しそうにおんちゃんは笑った。好きな人の笑った顔を見たからか、私もなんだか嬉しくなる。顔を見合わせてガハハハっておっきい口を開けて二人で笑いあった。

 

 

ずっとこの時間が続けばいいのに。

 

「美音、ありがとう。大好き。」

聞こえるか、聞こえないか、そんな小さな声でつぶやいた。