もばいるばーじょん

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藤田「おい、何を硬くなっている。お前を俺の家に呼び出したのはただ単に静かな場所で話をしたかったからだ。帝國ホテルではどこぞのやかましい外国人が常について回るからな。警視庁妖邏課としては魂依であるお前に聞きたいことが山ほどあるわけだが。……だからそんなに構えるな。警視庁の取調べ室に呼び出してもよかったんだが、余計にお前が緊張するだろうと見越しての配慮だ。大したもてなしは出来んが、一先ずは楽にしろ。足を崩しても構わん。…飲め。静岡産の玉露だ。……ほぅ、美味いのか。茶の味はそこそこわかるようだな。そら、香の物も食え。聞くところによると、お前は普段肉ばかり食っているそうだな。適度に野菜も食え。香の物はいいものだ。玉露にも酒にも合う。…ふん、そうか。それはそうだろう、美味いに決まっている。娘、ようやく笑ったな。別にお前を喜ばせたいわけではないが、あまりに緊張されるとこちらもやりにくい。たまにはそうやって笑っていろ、たまにはな。……ん?曲者!」
八雲「おやおやおやおやおや二人共!玉露と漬物でティータイムとはシャレているじゃありませんかっ!」
藤田「貴様…何度言わせればわかる。勝手に人の家に入ってくるな」
八雲「何をぬけぬけと。日本国民の模範となるべき警察官ともあろう御方が嫁入り前の若い娘を自宅に連れ込むとは…あーはぁ、嘆かわしいー!!一市民としても見過ごすことは出来ませんね!」
藤田「何を勘違いしている。これは通常業務の一環だ。貴様のように邪な気持ちで女をホテルに連れ込むのとはわけが違う」
八雲「人聞きの悪い言い方は止めていただけませんか!私はただ、現世で善行を積むべく哀れなお嬢さんに救いの手を差し伸べだけです。それを邪などと決めつけなど迷惑千万っ!今の貴方の発言は万死にあたいしますっ!」
藤田「ほぅ……面白い。貴様が俺を裁くと言うのか。ならば刀を抜け。四の五の言わずに勝負をつけてやる」
八雲「なるほど、決闘と言うわけですか。いいでしょう!ただし刀は持っていません」
藤田「知らん。どうにか用意しろ」
八雲「貴方、廃刀令を御存じない?刀なんて持ちたくても持てないんですよ一般人は!」
藤田「では勝負ありだな。貴様を斬……どうした、娘。……何?別の方法で勝負を決めよう、だと?」
八雲「娘サン、その方法とは?」


藤田&八雲「古今東西ゲーム?」


八雲「ではいきまぁーす!古今東西ゲーム、イェーイ!!って、藤田サン?イェーイがないですよイェーイが」
藤田「意味がわからん。何だその無意味な掛け声は」
八雲「掛け声に意味なんて求めてはいけません!おっぺけぺー節のおっぺけぺーにも特に意味はないでしょう?!それと同じです!ねぇ、娘サン?ふふん、では改めまして、古今東西ゲーム!イェーイ!!」
藤田「い……はぁ……いえーい…」
八雲「ではっ!私がお題を決めます!ずばりっ、明治の有名人!」
藤田「何?知らんぞ、有名人など」
八雲「政治家でも歌舞伎役者でも何でもいいんですよー、時間がないからとっとといきます。さんはい、パンパンっ、小泉八雲!」
藤田「ぱんぱん…ま、松平容保公」
八雲「んっ?あ、パンパンっ!森鴎外!」
藤田「ぱんぱん…近藤勇」
八雲「お、え?パンパンっ!川上音二郎!」
藤田「ぱんぱん…土方歳三」
八雲「んんっ?!パンパンっ!泉鏡花!」
藤田「ぱんぱん…沖田総司」
八雲「んん…っ、パンパンっ!菱田春草!」
藤田「ぱんぱん…沼尻小文吾」
八雲「あ、誰…?あ、う、パンパンっ!って、おぉ、ちょっと待ったっ!!藤田サン、あんたふざけてるんですかっ?!」
藤田「ん?何がだ?」
八雲「いや、もう、つっこみどころが多すぎます!題目は、明治の有名人だって言ったでしょう?!何勝手に新選組縛りにしちゃってるんですか!しかも、微妙に明治時代じゃないし、最後に言った人もう超マイナーだし」
藤田「松平容保公は新選組隊士じゃない。恐れ多いことを口にするな」
八雲「そういう問題じゃありませんっ!あー、もう…うぅ…もうっ、うんざりですっ。娘サンには悪いですが、藤田サンとゲームなんてやってられませんっ」


八雲『さぁ、娘サン。こんな野蛮なオサムライサンはほっといて私と一緒に素敵なカフェでコーヒーでも飲みに行きませんか?もしコーヒーが苦くてお嫌いなら、私のキッスで甘くして差し上げます。逆に甘すぎると言われてしまうかもしれませんが、どうです?試してみませんか?もちろん、二人っきりで…』
藤田『貴様一人っきりで行け。おい、あんなインチキ西洋人の話など無視しろ。お前が甘い顔をするからつけ上げるんだ。いいから、お前は俺に甘えろ。して欲しいこと全部言え。一つ残らず叶えてやるから』


八雲「誰がインチキ西洋人ですか!その発言は万死にあたいします」
藤田「ほぅ……面白い。貴様が俺を裁くと言うのか。ならば刀を抜け。四の五の言わずに勝負をつけてやる」
八雲「なるほど、決闘と言うわけですか、いいでしょう!ただし刀は持っていません」
藤田「知らん。どうにか用意しろ」
八雲「貴方、廃刀令を御存じない?刀なんて持ちたくても持てないんですよ一般人は!」
藤田「では勝負ありだな。貴様を斬……どうした、娘。……何?別の方法で勝負を決めよう、だと?」
八雲「娘サン、その方法とは?」












もばいるばーじょん

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音二郎「どうだぁ?お前もそろそろ化粧のやり方を覚えただろ?…たーっく、頼りねぇ返事だなぁ。お前はもうただの雑用係じゃねぇ、正式に半玉になったんだからよ、そろそろ自分で何でもできるようにならないと駄目だろう?俺だって、いつまでも芸者やってる訳じゃねぇんだからさぁ。…は?あぁ、すぐに辞めるって訳じゃねぇ。ただ、先立つものが用意できりゃぁ、俺がずっとここにいる理由はねぇからな。そう遠くない内に芝居の方に本腰を入れるつもりだ。お?なーに寂しそうな顏してんだよ。言っとくが、そんな顏したって俺の決意は揺らがねぇよ。…いや、ちったぁ揺らぐかな?は、あははは!あぁん、馬鹿!動くんじゃねぇって!せっかく綺麗に白粉を塗ってやってるのに台無しになっちまうだろ。…しかし、ははっ、この化粧も段々板についてきたじゃねぇか。この分だとお前が神楽坂一の芸者になる日もそう遠くはないかもしれねぇよな。もしそうなったら、今度は俺が客としてお前を指名してやるよ。どっかの酒臭ぇ客なんかに、お前を独占させる訳にはいかねぇからさ。…な?」


音二郎『俺以外の誰かに独り占めなんかされるんじゃねぇぞ……わかってるな』


鏡花「いいや!わからないね!!」
音二郎「うわぁあ?!なっ、なんだお前?!何で急に入ってきた!!」
鏡花「さぁ、どうしてだろう、虫の知らせって言うのかなー。なんだかこっちの方角にあからさまに犯罪臭のする邪な気配を感じたんだ」
音二郎「おー、そりゃすげぇ、さすが魂依様だ今すぐ帰れー!!」
鏡花「そういう訳にはいかないよ!こんな…っ、こんな不埒な現場を目の当たりにして僕がすごすごと退散すると思う?!…はっ?!あぁああ!!あんた何やってるんだよ!こんな男の前でそんな風に襦袢をはだけさせてっ」
音二郎「そりゃあ、しょうがねぇだろー。今は化粧中だ。芸者が座敷に上がる時は背中まで白粉塗らなきゃいけねぇんだからよ」
鏡花「あぁ、そう。じゃあ、何で川上がそれを塗ってるんだ?!」
音二郎「んあ?…だから、この子はまだ半玉で、俺が化粧の仕方をだな…」
鏡花「芸者なんてこの置屋にいくらでもいるじゃないか!なのによりによって、どうして男のあんたがこの子の襦袢をはだけさせるような真似するんだよ!」
音二郎「だーかーらー…」


鏡花「だから何?」
音二郎「いやぁ、…あまりに正論すぎて上手い屁理屈が思いつかなかったぜ…」


鏡花「ほらっ!ほらやっぱり!下心だらけじゃないか!化粧の仕方を教えるなんてただの大義名分だよ。あんた、ただ単にこの子に触りたかっただけなんじゃないの?!」
音二郎「ざけんな、こっちは大真面目にやってんだよ!仮に俺がこの子の肌触り堪能していたとしてもだ、それだって立派に仕事の一環なんだから、お前にとやかく言われる筋合いはねぇ!」
鏡花「うわっ、開き直ったなっ。はぁ…っ、あんたもこいつに好き勝手されていいのかよ!…こんなっ、こんな刷毛なんかで体中を撫でまわされて…っ!」


鏡花「誤解だって?!誤解じゃなくて事実じゃないか!もういい!もうわかった!あんたがそういうつもりなら僕だって…っ、えぇい!よこせ!」
音二郎「うわっ、俺の刷毛っ!」
鏡花「っ、こいつの代わりに僕が化粧してあげるよ。別に僕だってほんとはこんなことしたくないけどさ、でも川上よりかは丁寧に塗れると思うけどね。いつも戯曲を書く時は筆を使ってるし、筆も刷毛も似たようなもんだろ?」
音二郎「馬ー鹿っ、全然違ぇよ。返せっ!こぉらっ!」
鏡花「あぁ!!」


音二郎『…たーっく、素人なんかにできる訳ねぇじゃねぇか、なぁ?安心しな、この肌は誰にも触れさせたりしねぇよ。お前に触れられるのは…俺だけだ』
鏡花「今のはただの寝言だよ!」


鏡花『あんたは、僕の言うことだけを聞いていればいいんだ。くだらない妄言なんかに耳を貸す暇があったら、ほらっ、こっちを見て。あんたの瞳に映していいのは、僕だけだよ』
音二郎「はーい、邪魔すんな、糞餓鬼!」
鏡花「あんたこそっ!」
音二郎「ん?!その口の中に生魚つっこむぞ」
鏡花「そんなことしたら知り合いの物の怪全員呼んでやるからな」
音二郎「おぉ、どんどんやれ。どうせ俺には見えやしねぇよ!」
鏡花「言ったな?!後悔するなよ、どうなっても知らないからね!」
音二郎「あぁ、楽しみだ!宴の準備して待ってるぜ!」












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鴎外「ふーんふふーんふーん♪…よーし、いい香りがしてきた。さすが最高級の佐渡牛は違うな。この焼き色といい、脂身の質といい、そんじょそこらの牛肉とは一線をかくす迫力がある。これならあの子も大喜びするだろう。…ふふっ」
春草「ただいま帰りました」
鴎外「おぉ、春草。おかえり。今日は珍しく遅かったではないか」
春草「えぇ、ちょっと買い物がありまして…って、何やってるんですか?鴎外さん」
鴎外「見ての通り牛鍋を作っているのだ。今日はフミさんが法事で留守にしているものでな、たまには僕が料理を作ろうじゃないかとさっき急に思い立ったのだよ。どうだ、この牛肉。美味そうだろう?最高級の佐渡牛だ。僕はそこまで牛肉にこだわりはないのだが…あぁ、別に美味い牛肉を食わせて彼女の気を引こうなどと下衆な下心を抱いてるわけではないので。念のため」
春草「佐渡牛?…はっ?!なんてことだ…」
鴎外「ん?」
春草「っ!」
鴎外「なんだ?その白い包みは?」
春草「最高級の能登牛です」
鴎外「なっ?!…能登牛、だと?!」
春草「えぇ、能登半島の豊かな自然の恵みで育った能登牛です。牛鍋の材料にぴったりだと思ってわざわざ肉屋に取り寄せてもらったのですが…」
鴎外「だめだ!今日はいかん!今日は僕が大人の経済力にまかせて購入した最高級の佐渡牛を食すと決めているのだ。肥沃な大地と海風に育まれた佐渡牛ほど牛鍋に適した肉はない。残念だが能登牛の出番はないものと考えてくれたまえ」
春草「そういうわけにはいきません。生ものですし、なんとしてでもこちらの肉を使っていただかないと困ります」
鴎外「…春草、こういう時こそ譲り合いの精神だろう。まだ若いとはいえ、我々日本人の美徳をないがしろにするのはいかがなものかと思うが?」
春草「鴎外さんこそ、紳士の心得をないがしろにしてもいいのですか?困っている年少者に助け舟をだすのがスマートな大人の在り方でしょう」
鴎外「僕はね、春草。確かに実年齢で言えば大人の領域だが、心は永遠の……十七歳、なのだよ」
春草「知ったことか、というのが正直な感想です。まぁ、こうなったら仕方ないですね…、俺は俺で牛鍋を作ることにします」
鴎外「何?!」
春草「彼女に食べ比べてもらって、どちらの牛鍋が優れているか決めてもらえばいいじゃありませんか。そして、どちらが…彼女にとって相応しい男なのか、この機会にはっきりさせるべきだと思います」
鴎外「…ほぅ、春草。おまえはこの僕に決闘を申し込む、と?」
春草「どうとっていただいても結構です」
鴎外「よかろう、受けて立とうではないか。では春草、僕に白い手袋を投げたまえ。それが正式な決闘の申し込みというものだ」
春草「とは言われても、そう都合よく白い手袋など持っていませんが」
鴎外「何…?まぁ、持っていないなら仕方ない。では、他の白いもので代用するのだ。何かあるだろう?白い手ぬぐいとか白い褌とか」
春草「白いもの……この木綿豆腐でもいいですか?」
鴎外「だめだ、ベチャってなるだろうベチャって!せめて白葱にしなさい!…はっ、いかん、そろそろあの子が帰ってきてしまう。もう細かい手続きは省略だ。いざ、尋常に勝負っ!」




鴎外「でーきたー!」
春草「でーきたー」
鴎外「ほぅ、さすがは能登牛。赤身がしっかりしているせいか、焼き縮みがまるで見受けられないとは…敵ながらなかなかやるではないか」
春草「はぁ、どうも」
鴎外「しかしこちらも負けてはいない。佐渡牛は肉本来の旨味が味わえる幻の品種だ。どちらに軍配があがるかは既に明白、あとはあの子の帰りを待つだけ」




鴎外「やぁ、子リスちゃん。待ちかねたではないか」
春草「おかえり」
鴎外「この二つの牛鍋はどうしたんですか?だって?もちろん、おまえのために用意したに決まっているだろう」





鴎外『さぁ、食べてみたまえ。まずは僕の牛鍋からだ。…ほぅら、その可愛らしい口を、あけて』
春草『鴎外さん、ずるいですよ。俺の牛鍋が先です。ほら、こっち向いて。俺が食べさせてあげるから。今日だけ、特別だよ』
鴎外『こらこら、どっちを向いているのだ?このとろける牛肉をおまえの舌で味わってみるといい。もしおまえが望むなら、僕が口移しで食べさせてやっても構わないが』
春草『あぁ、いいですね、その案。では、お先に俺が試させていただきます。…まったく、世話のやける子だな、君は。そんなに口移しで食べさせて欲しいの?君の欲望は底なしだよ。…俺まで、溺れそうになる』
鴎外「こら春草!人の作戦をさらりと盗むんじゃない!」
春草「は?盗んでなどいません。試すと言っただけです」
鴎外「世間ではそれを盗用、もしくは猿真似と言う。おまえはなんて卑怯な男なんだ。紳士協定という言葉を知らないのか!」
春草「卑怯なのはどちらですか、牛鍋だけではなく牛肉コロッケやビフテキまでこっそりと用意して」
鴎外「ふ、ははっ!僕は牛鍋で勝負するとは言っていない。あくまでも牛肉の質で勝負するのだ、料理法など些末な問題にすぎん」
春草「それでは話が違います!勝負の規定を勝手に改変しないで下さい」
鴎外「改変ではなく、解釈の違いだ。わかったかい?日本語とはかくも難しいものなのだよ、春草」
春草「チッ」
鴎外「あ、今舌打ちした!人生の先輩に向かって舌打ちとはどういう了見だ、春そ」
春草「鴎外さん」
鴎外「ん?」
春草「彼女の姿が見えませんが」
鴎外「…はっ?!……これは、なんということだ。子リスちゃんがいないではないか!よもや、神隠しにあったのではあるまいな!」
春草「そうかもしれません。彼女だけではなく、牛鍋も一緒にですが」
鴎外「んんっ?!…あぁ!本当だ!牛鍋が空っぽではないか!なんと大がかりな!これも物ノ怪の仕業か?!えぇい、どこだ?!どこにいる!」
春草「…確かにあの物ノ怪並の食欲。鴎外さん、どうやら俺達の負けです」
鴎外「何を言う、簡単に諦めるんじゃない。おまえのあの子への愛情はそんなに軽いものなのかい?!えぇい、出て来い妖狐め!それとも河童か!天狗の幻術か?!」