冒険日記

冒険日記

いろんな場所に行ったりチャレンジした事を日記にして公開しています!

【前回からの続き】

あまりの扱いの酷さに業を煮やした俺はとうとう転職活動を本格化した。希望の職種からの書類選考通過の知らせに上機嫌な俺だったが、後日副主任から誰にも知らせていないはずの転職活動を突っ込まれる事態に意表を突かれるのであった…



副主任はマシンルーム(※)の柱の陰に俺を引っ張り込み、小声で尋ねた。


(※)マシンルーム

システムを監視、運営する為の部屋。

所狭しとPCや記録媒体、サーバーなどの機器が並ぶ。さながら昔のSFマンガのような印象がある。記録媒体がオープンリールだった頃に比べスペースをとらなくなった分空間が増えた。


「管理職から聞いたのだが、お前転職活動してるのか」

「いや、まさか。けどどうしてそんな話が?」

心臓をつかまれているかのような感覚に陥りながらも、表面上は普通に答えた。

リーダー曰く、

「本社にリクルー◯から電話があり、運用部門に50代の社員はいるか、というザックリな問い合わせだったらしい。本社側は答える義務はないので応じなかったらしい」との事。

リクルー◯め、なんてことを…転職活動がバレてしまうではないか。しかし、何故ザックリなのかが分からない。履歴書における経歴詐称とかを確認したいなら、実名を出してよいかとか、事前に俺に今の会社にリファレンスしたいから電話してよいかの了承を得るべきだろう。

結局、リーダー自身の「まあ、50前後なんてたくさんいるもんな」の一言で話(追及)は終わった。

更に、面接も結局は「お見送り」となった。

かなり凹んだが、仕方ない。ということは、俺は別ユーザで不本意な仕事であるヘルプデスクとやらをやらなければならない、ということだ。


異動先は、とある都心の上場企業だった。

前職場で使っていたシステムを開発していた会社だと聞いており、そのイメージにふさわしくオフィスは今風なトレンディドラマ(もしくは韓流)を思わせた。

フロアは広く、席はフリーアドレス、窓は大きく東京湾が見渡せ、お台場が一望出来る。

「ここで働けるのか」

俺は心が躍った。

が、同じ会社のメンバーやプロパー(常駐先の社員)はどこかそっけない感じがした。

しかも、同じ会社のメンバーの年齢にこれまたビックリさせられた。というのも、俺が当時51歳。後の三人は若い順から57、58、59歳だそうな。

「何とも冴えない連中だ」

これが俺の第一印象だった。

まず年齢だ。

もう役職定年過ぎであり、これまで俺が一緒に働いてきた20代30代の同僚のような覇気が感じられない。もう守りに入っているのに加え、これ以上やっても給料上がるわけじゃなし、等々の理由がそうさせているのか雰囲気がどんよりしていた。初対面の向こうからは「頑張れよ」とか「一緒にチームで盛り上げていこう」みたいな前向きな挨拶は全くなく、自己紹介が終わるとサッサと自席に向かい出した。

「なんだ、こいつら…こんな年寄りたちと一緒に定年まで働くのか…」

俺は自分の年齢を棚に上げて1人愚痴た。

俺がリーダーだった頃は、新人の不安な気持ちを分かっているから必ず激励の言葉をかけたものだ。

だが、この連中から教えを請わねば俺は膨大な知識と経験を必要とするシステム回りのヘルプデスクなんて務まらない。

「まあ、俺も50過ぎ。逆に若手のようにチヤホヤされることを期待する方が甘えというものだ」

俺はそう思い直し、1日も早く慣れるよう努力した。

自身のPC、貸与携帯のセットアップや各種ツールとの紐付けは俺のIT知識を刺激させ、名刺を貰った時は、まだ見ぬ客先にドキドキした。また時折開かれるオンライン会議にITやってる感を感じた。

そんなこんなで一ヶ月が経ったある日、俺のみをとある客先に派遣する話が出た。要は、そこに行き、担当者たちの立ち会いの元、システム更新を実施するらしい。

これはさすがにビビった。

ただ客先に行って挨拶をするだけなら問題はない。だが、まだシステムの右も左も分からない状態で1人客先に行き、お客さんのシステムを更新して来いなんて無茶にも程があるだろう。分からない俺がシステムを下手にいじって失敗したらどうなるのか。せめて先輩社員を同行させ、その先輩監視の元作業を行うのが普通だろう。

大人しい俺は流石にそう抗弁した。

が、先輩やプロパー社員は、

「何かあればS先輩(59)に聞くように」

そうすれば、後は我々が作った手順書に従ってコマンド入力やメッセージ確認などをするだけだから、との事。

「なんて乱暴な…」

俺はそう思ったが、何かあれば電話すればよいのと、もし失敗しても俺じゃなく指示した先輩や社員、会社の責任だろうと腹をくくりユーザ先に向かった。

そこは埼玉の郊外にあり、静かな住宅地を抜けた先にあるデータセンターだった。

実はそこには以前同じビルで働いていた先輩がおり再会を楽しみにしていたのだ。

案の定、廊下でその先輩が俺に体当たりをかまし「久しぶりだな」と挨拶(?)を受けた。緊張が少しとけた。先輩がそれを見越しての気遣い、と言ったら考え過ぎだろうか。

さて、システム更新だが、何が何だか分からぬまま手順書通りに進めたが、当然予想と異なる事が起きその度に本社にいる先輩に問合せた。

「あ、そのメッセージはうちのシステムとは関係ないから無視で」

「それは客先のだから、うちは関係ない、で通る」

「その場合はこうする」

等々の指示をそのまま伝えた。

運のよいことに、その客先にいる先輩だけでなく、担当者も元々うちの会社の社員だったので雰囲気は悪くはなかった。が、それでも客先に常駐しているので表向きは柔らかい態度は取れない。

冷や汗をかきながらどうにかこうにか作業をやり遂げ、客先を出たのはお昼過ぎだった。

そのまま在宅にしてよい、と言われたので当日は帰宅した。


数日後、いつもの朝礼があり、その後のチームミーティングで先日のシステム更新の話が出た。

チームの中には客先にいた元社員のようなKS先輩という方がもう1人おり、俺は日頃からその知識に敬意を払っていた。

そのKSから言われた言葉は今でも辞めた会社の語り草になっている。

「お前、よくあそこに1人で行ってきたな」

初めは「何も知らない状態でよく頑張ってきたな」という意味かと思った。読者諸兄もそう思うだろう。
だが、そうではなかった。
「よく何も知らないで何の勉強もしないで行ったな」という嘲りと呆れからの発言だったのだ。
さすがに俺は頭に血が上るのを感じた…【続く】