次の日。ナコはセイイチが出かけるのを見送ると、すぐに自分も部屋から抜け出した。くるりと建物を半周回ると、どこかへ歩いていくセイイチの背中が見えた。ナコは物陰に隠れながら彼の後を追う。
彼がナコを置いて外に出かける日、いつも同じ時間に部屋を出て、同じ時間に部屋に帰ってくる。どこに出かけているのかは知らないが、目的地までは同じルートを行き来しているものと推測出来る。同じ交通手段を使っている、とも。
昨日もいつも通りの時間に帰ってきたセイイチは、デンシャで帰ってきたように言っていた。それでも、毎日デンシャを使っているとは確信が持てない、というか持ちなくないので、今日それを確認するために後を付けているのだが。
徐々に先住民たちが多くなってきた。気付かれずに後を付けるには都合がよいが、それと同時にイヤな予感が増してきた。
そして、その予感はすぐに現実へと変わった。
大きな建物――いや、施設か。たくさんの先住民たちが一つの施設の中へと入っていく。入っていく数に比べると少ないが、そこから出てくる先住民もいる。
そして、出入りをしているのは先住民だけではない。
大きな四角い鉄の箱。それがいくつも連なった物が、その施設を出たり入ったりしている。そう言えば、初めてセイイチに連れてこられた時、これに乗せられて来た記憶がある。これがデンシャだろう。
セイイチがその施設に吸い込まれていくのを見送り、念のためにしばし待つこと数分。一つの箱の窓から見つけたくなかった顔を見つけて、ナコはくるりと反転し、来た道を戻る。
まだ四日ある。考えよう。自分に出来ることを見つけて、実行しよう。この世界で生きていく意味はそこにある。
セイイチの部屋へ帰るナコの足は、自然と速くなっていた。
一番大きな可能性として、兄たちがターゲットとしているデンシャにセイイチが乗らないケースが浮かんだ。が、すぐにこの考えは頭を振って捨てた。この場合、何もしなくてもセイイチは無事なので、考える必要は全くない。
問題なのは、セイイチがいつも乗っているデンシャがターゲットとなった場合だ。
対処方法は二つ。一つ、セイイチを四日後のデンシャに乗せないようにする。そしてもう一つ、兄たちの『仕掛け』を未然に防ぐ。
前者は当日にならなければどうしようもないだろうから、それまでは保留しておくとして、後者。
必要な情報は、どこに、いつ、どんな仕掛けをするのか。そして、その情報を得るためには、
「また、お兄ちゃんを探さなきゃ」
方針が決まった。外に出よう。
と考えていたのが、三日前。
「どうしよう……」
全く成果のないまま、兄たちの計画が明日には実行されようとしている。あの日に兄に再会したのが嘘だったかのように、兄たちの影すらも見つけることは出来なかった。
その代わりに一度だけチンピラ連中に絡まれそうになったことがあったが、アイツらが来た! とナコが叫ぶと、すぐにバラバラと逃げていった。先住民=アイツらで通じるらしく、さらに先住民たちは危害を加えてくる者、という共通認識が彼らの中ではあるようだった。
「何か、最近元気ないよな? どうした? 怪我の具合が悪くなったのか?」
本気で心配そうにしているセイイチを見ていると、そんな先住民がいることは想像さえ出来ないが。
なんでもない、と答えて、ナコは夕食を再開する。食事をしながら、頭の中は現在ではなく明日へと飛んでいる。
勝負は明日。まずは朝、セイイチを引き止める。今日の夜から眠らずに兄たちを探すという選択肢もあったが、可能性を考えるとセイイチを引き止めるために残った方が良い気がした。どちらにせよ、か細い可能性だとは思うが。
そして、朝の引き止めが上手くいかなかったら、兄たちを探す。もしもセイイチが乗るデンシャをターゲットとして兄たちが仕掛けをするのならば、明日が一番見つけやすいだろう。
明日のことばかりを考えていたら食事が喉を通らなくなってきた。セイイチには悪いが、今日の夕食は残させてもらおう。
「ごめんね、セイイチ。今日はもう食べられそうにないよ」
「え? もしかして、もういいのか? ……ホントに大丈夫か?」
心配のしすぎで情けない表情になっているセイイチを見て、ナコは申し訳なく思うと同時に安堵した。これで、明日の引き止めが上手くいく確率が上がったかも。
今日は目一杯心配したまま明日を迎えてもらおう。セイイチに背を向けてナコは早々と寝床へと向かう。まだまだ眠れそうにないが、目を閉じて明日を思う。
大丈夫。やってみせる。
決意を抱いて、ナコは丸くなる。どうか、この想いが、孵りますように。