「無駄? 私のどこが無駄だって言うの? ……ああ、確かに、一部これ以上大きくなっちゃったら困るトコはあるかなぁ。もー、肩が凝って大変だからねぇ。羨ましいなぁ、シュウみたいな、洗・濯・板」

「ぐっ! ……な、何よ! アタシだってこれからドンドン大きくなる予定なのよ!」

「うーん、シュウが見た目通り小学生だったら、その可能性もあったかもしれないけど。もう年上のオバンだから、死ぬまでそのエグレ胸のままなんじゃなぁい?」

「お、オバン!? アタシはまだ十七よ! それに、万が一大きくならないとしても、今は小さい方がいいって言う人も増えてるんだからね! 大きさが全てじゃないわ!」

「何を言ってるんだか。男なんて大きいほうがいいに決まってるじゃん。というワケで、大きさが全てなの!」

「そんなの、決まってないわよ!」

「いーや、決まってる!」

 いつの間にやら二人の争点は身体の一部分に移ったらしい。どちらも一歩も譲らないまま、激しいにらみ合いが続いている。

司が、あと二歩は下がった方がいいかな、と考えだした頃、

「じゃあ、こうしようか」

 直立の姿勢に戻った貴久子が手を叩いた。何かを提案しようとしているようだ。ただ、それが友好的なものではないことは、貴久子の修に向けた挑戦的な目が物語っていた。

「司にどっちがいいか、決めてもらおうよ」

「……いいわ。望むところよ!」

「……は?」

 何の前触れもなく自分の名前が出てきて、司は下げ損ねた足でたたらを踏んだ。動揺する暇もない司が見ることが出来た、こちらの方を振り向いた二人の目は、どちらもかなり本気だった。

 やはり、もっと後方に退いていた方がよかったのかもしれない。一割程度しか作動していない脳で、司はそんなことを考える。が、どちらにしても同じだっただろう。流れ弾ならともかく、精密射撃された銃弾の場合、司がこの場から消えることでしか避けることが出来なかったのだ。

「さ、司」

「どっちを選ぶの?」

 司が自分の判断ミスを悔いている間に、貴久子と修が司の両脇をがっちり固めていた。至近距離に二人の女の子の顔があって司の鼓動は早くなるが、これはトキメキなどという可愛らしいものではない。ただ純粋に身の危険を感じているだけだ。冷や汗が頬を伝う司に、貴久子が笑顔で尋ねてくる。

「司は私の方が、大きい方がいいよね?」

 その笑顔の裏に我が身に降りかかる悪夢が見えて、司は首肯する。

「そ、そうだね。大は小を兼ねる、って言うし」

「えー!」

 今度は逆方向から悲鳴が上がる。司がそちらの方を向くと修がすねたように口を尖らせていた。

「じゃあ、ツカサはアタシには魅力を感じないの? 小さい胸じゃダメなの?」

 その悲しげな表情の裏に我が身を襲う災厄が見えて、司は首を横に振る。

「そ、そんなことないよ。過ぎたるは及ばざるが如し、って言うし」

「ちょっと、司! それじゃ、結局どっちがいいのか分かんないじゃん!」

「そうよ、ツカサ! はっきりさせてよね! そんなんだから男らしくないって言われるのよ!」

 ついには両サイドから怒声がダイレクトに司の耳を襲撃する。頭がぐらぐら揺れた気がしたが、貴久子と修は容赦をすることを知らないようだった。