司も修に倣って、壁に並ぶ松明を観察する。確かによく見ると火種が減っている様子もないし、火の揺れ方も不規則なように見えて一定の法則に従って動いている。
「ただ単にリアリティを追求するだけだったら、こんなことにはならないと思うの。つまり、犯人の目的はリアリティとは別のところにあると考えられるわ」
修はいつの間にか、推理モノに出てくる探偵のような言い回しをしていた。自分の世界に入ってしまった修は、司が隣にいることさえも忘れている様子で、腕を組み、あごに手を当てて、考え込んでいた。
「リアリティがじゃないなら、一体何が目的なのか。プレイヤーの邪魔をすること? ううん、それならここの明かりもリアルに近づけて時間が経つと消えるようにした方がいいはずだし」
「シュウ? おーい、聞こえてる?」
気が付いたことがあって、司は足を止めて修に声をかけた。が、修は全く聞こえていないのか、自分の考えを口にしながら、そのまま先へと進む。
(なんか、最近あったな。こんな構図……)
そのまま待っていれば、いやでも修は足を止めることになるのは分かっていたので、司はそれ以上声をかけるのを諦め、遠ざかっていく修の推理を聞いていた。
「ひとつ気になるのは、気温とか湿度とかって、アタシが直した方がいいって独り言で言ったことがあるヤツなのよね。アタシの要望が聞き入れられたってこと? でも、あれを聞いてた人なんていないはずだし、いたとしても、一体何のためにイタッ!」
「やっぱり……」
考えがひとつにまとまる前に、巨大な扉に頭をぶつけて、修はその歩みと呟きを止めた。うっすらと赤くなったひたいを押さえて、修は後ろで控えていた司を涙目で睨みつける。
「ちょっと! 何一人で立ち止まってんの、ツカサ! 気付いてたんなら、止めなさいよね!」
「ボクは声をかけたよ。シュウが全然聞いてなかったんだよ」
まあまあ、となだめながら、司は修のもとへと歩み寄る。その間中突き刺さってくる修の怒りの眼差しに気が付かないフリをしながら、司は目の前に立ちはだかる扉に視線を向ける。その扉はざっと見ても、縦も横も司の身長の三倍近くはありそうで、周りの岩肌よりも濃い赤茶けた色をしていた。
「ところで、この先にはどうやって進むの? 見たところ、簡単には開きそうにないけど」
ぺしぺしと扉を叩きながら、司は扉に目を固定させたまま修に尋ねた。痛みのほうは大したことなかったのか、修はひたいから手を離すと、彼女も扉に手を触れながら、
「ああ、これは鍵が要るのよ。こことは違う部屋の壁に暗号の文章が書いてあって、その謎を解いて、このダンジョンにある部屋を順番どおりに回ると、その鍵が入った宝箱が現れることになってんのよ」
「ええっ? まだ、そんなにあんの? てっきり、もうすぐだと思ってたのに……」
長く続くであろうこれからの行程を思い、司はがっくりと肩を落とした。両腕をだらりと下げたまま修のほうへと目をやると、彼女は司とは対照的に、ふんぞり返って、得意げな顔をして髪をかきあげていた。
「ツカサ。アタシを何だと思ってるの?」
「何って……。直情小型暴力女? うえっ! ごほっ、ごほっ! ゴメンゴメン、ウソ、冗談だって!」
腹を殴られてうずくまりそうになりながらも、司は怒りに震える修を声で牽制する。司が膝と腰を曲げたまま修の方を見上げると、彼女は腕を組んで鼻息を荒くしていた。
「冗談にもほどがあるわよ。何よ、小型小型って! まあ、いいわ。そんなことより」
「直情と暴力は構わないの?」
「そんなことより、アタシは一度ここをクリアしてるのよ。つまり」
司が横から指摘したが、完全に無視して修は話を進める。
「アタシはもう鍵を持ってる、ってワケ」
そう言うと、修は左手のボタンを操作して鍵を出現させた。それを司に手渡す。
「はい、これ。ここを開けたらボスがいるから、ツカサ一人で倒してね」
「ええっ! ボク一人で? そんなの無茶だよぉ」
「無茶じゃないわよ。アタシがあげた経験値で、ツカサの今のレベルは三十四。ここのボスはレベルが十のグールが二匹と、レベル十一のダークプリーストの計三匹。どんなに下手に戦っても、まず負けることはないわね」
「でも、ボク、まだ実戦経験ないし……」