「つかちゃん、気分はどないや?」

 司が入院したのをどこかから聞いて、見舞いに来てくれたのだろう。そのことに関しては司も素直に嬉しいと感じているが、

「うん……。どうかな……」

 それを態度に表そうとする意欲が全く湧いてこない。ただ、そのことを申し訳なく思う気持ちは溜まっていく。今はネガティブな方向にしか思考が働かないようだった。

「そか。まあ自分の体のことなんか自分では分からんかったりするもんな」

 博信の方はそんな司の反応を見ても、さして気にしたようなそぶりは見せなかった。姿を現したときとは対照的に、ゆったりとその大きな体をベッド脇の小さな椅子の上に収めようとする。イマイチ収まりきらないうちに博信は満面の笑みを消し、無表情から口元と目じりだけを少し移動させた程度の穏やかな顔になって、司の顔を正面から眺めた。

「なんにせよ、や。よう分からん内は自分で元気になった、て思えるようになるまでゆっくり休んだほうがエエ」

 うんうん、と腕組みをしながら一人うなずいていた博信は、ふと何かを思い出したかのように膝を盛大に手のひらで打って、

「せや、もしかしたら暇しとるかな、て思ってゲーム持ってきてんけど……」

 ちら、とこちらの様子を伺う。先ほどから博信と目を合わせることもできずに曖昧に頷くことしかしていない司を見て、博信はこちらに差し出そうとしていた紙袋を側に設えてある台のほうへ遣った。空の花瓶を少し脇に寄せ、そのすぐ隣に袋を置く。

「ゲームも意外と疲れるからな。元気になってからやな。ここに置いとくわ」

 声は聞こえている。それが自分に向けられていることも、分かる。それでも司は答えない。というか答えることが出来ない。頭の中で一番冷静で一番臆病な部分が司に命令してくる。何も考えるな何も考えるな何も考えるな……。

「……ちゃん。おーい、つかちゃん! 聞こえとるか?」

「……うん」

 肩を軽く揺すられて、司は我に返った。本当は途中から内容が頭の中には入っていなかったが、とりあえず司は頷く。

「せやからな、退院はすぐに出来るんか、て聞いててんけど。分からへんか?」

 そう言われればそんなことを聞かれていたような気もする。おそらく、何を言われてもそう言われていたような気がしただろうが。

「うん。分かんない」

 誰かが司の退院について何か教えてくれたようにも思うが、思い出せない。思い出せないなら、司には分からないのと同じだ。

「そか。困ったな……」

 短髪に覆われた頭をがしがしと掻き、博信は少しうつむいて考え込んでいた。が、司が怪訝に思う間もなく、博信は顔を上げて口を開いていた。