わたしが小学校にあがった頃、

県外にいた伯父夫婦がこちらへ帰ってきた

伯父とはめったに会うことがなかったので、あまり面識はなかった

伯父は俗にいう『子連れ再婚』だ

伯父の奥さんである伯母さんには、前の旦那さんとの子どもが2人いた

2人の子どものうち、長男一人はすでに結婚し、県外に住んでおり、

わたしは1回くらいしか会ったことがないから、顔も思い出せない

もう一人は長女で高校生だった

当時は、我が家にも来ていたけれど、祖母の他界後はすっかり疎遠になって

今はどこに住んでいるのかもわからない

再婚した伯父と伯母の間には、女の子が生まれていた

わたしと血の繋がった従兄弟だ

わたしが小学生の時にはじめて会った従兄弟

名前もわたしと一文字しか違わない

祖母は小学生のわたしにこう言った

「お父さん、お母さんが死んだら、おまえと血が繋がっているのは

●●(従兄弟)だけだから、●●(従兄弟)を大事にしなさい

おまえはひとりっ子なんだから、●●(従兄弟)がいないとひとりぼっちになってしまうから」

これを聞いた時、わたしは怖くて仕方がなくなった

 

「●●(従兄弟)を大事にしなければ、わたしはひとりぼっちになってしまう」

 

 

 

新天地での新生活のため、伯父夫婦は

実家である我が家に従兄弟を預けて共働きをしていた

夜遅くまで働いて、従兄弟を迎えに来る

ひとりっ子で育ったわたしの生活は一変した

 

体調のおもわしくない祖父母にかわって

6つ下の従兄弟の保育所のお迎えにいくのは、わたしだった

幼い頃から、わたしは一つのモノに対してのこだわりが強かった

他はよくてもこれだけは譲れないというものがあった

それは『宝物』というキラキラしたモノではなくて

常に他人に気を配り、行動することを求められていたわたしが

「わたし」としての自分を保つための

「わたし」として在れるためのツールのようなものだった

 

しかし、6才年下の従兄弟が生活に加われば

必然的にわたしは「お姉ちゃん」となり、譲らざるを得ないことがどんどん増えた

 

従兄弟はわたしと違って、自分をちゃんと主張できる子だった

常に他人に気を配り、行動することを求められていたわたしが

音と楽譜だけに集中できる大事なピアノを

文字で自分の世界に入り込める大好きな物語の本を

ベタベタの手で従兄弟が触る

わたしの大切にしているところを汚されたような気がして

自分の心の中から見たこともない剣のようなものがあらわれて

体中に火が走ったみたいになり、怒りがおさまらない

思わず、大きな声でわたしが叫ぶと

祖母に「それくらいで怒るな」と逆に怒られる

全然、納得いかない

祖母は「おまえの方がお姉ちゃんなんだから、譲ってやれ」という

頭ではわかっているけど、嫌でたまらない

従兄弟の母親である伯母は従兄弟に対して厳しかったが

従兄弟を叱れば叱るほど、祖母は従兄弟に甘くなる

それをみた伯母は、事あるごとにわたしを褒めてくれた

しかし、本心からではない口の上手さを何となく感じていたから

わたしは伯母のことがずっと気持ちが悪くて仕方なかった