彼女が亡くなる1週間くらい前だっただろうか、直前の頃に私が夜洗い物をしていると、彼女がふと起き上がり私の所に寄ってきて、後ろからハグしてきてくれた。「どうしたの〜?」って聞くと、「くっつきたくなったの」って。「最強のくっつき虫さんだから離れて〜って言っても離れないんだよ〜」って。「離れて〜って言ってみて」と言うのでわざとらしく彼女を引き離そうとしてみるけど離れない。「ほらね〜?」って言う彼女。

「何があっても離れないんだよ〜」って話してくれました。

あの頃はいつものやり取りで可愛いなぁと思いながら彼女の頭を撫でてましたが、今にして思えば心不全が重症化している頃で何となく自分の死期が近いことを悟っていたりしていたのだろうか、とも考えてしまう。死ぬとは思っていなくても良くないことを頭の中でぐるぐる考えていたのかもしれません。

自分を落ち着かせるためにくっつきに来たのかな。

私に何があっても一緒だよって伝えておきたくてくっつきに来たのかな。

私は未だにあの日のあの出来事をはっきり覚えていて忘れることはありません。ぎゅっと力強く私に抱きついて話そうとしなかった彼女の手。どことなく表情も少し暗かったかもしれない。そんなほんの一瞬の些細な変化を見逃さなければ良かった。



彼女が亡くなる前日と前々日、いつも一緒に2人でお風呂に入るのに、その2日間は珍しく一緒には入らなかった。私も彼女も疲れてて夕飯食べたあと居眠りして夜遅くなってしまったから。翌日は仕事だし。

急いでお風呂入らなきゃと思いお風呂場に行くけど、彼女はなかなか起きない。まだ眠いのかなと思いつつお風呂入ろ〜と声をかけた。でも彼女はまだ眠いって感じの反応だったので仕方ない、先に入ってしまおうと、そういう日が2日続いた。

今にして思えば、彼女はあの当時深夜は咳がひどくてなかなか寝れていなかったので寝不足なのは確か、なので眠いのも仕方ないかと思っていたけど。

心不全によって体を動かすこともキツかったんだろうかと思ってしまう。まさかその頃は心臓が悪いだなんて思っていないので少し体調悪くて寝不足なんだなくらいにしか思っていなかった。

お風呂からあがって、まだ彼女が寝てるので早くお風呂入らないとまずいよ〜って彼女に声をかけた。そして彼女が目を覚まし、「お風呂はー?」と聞くので「もう入っちゃった」と応えると「なんで1人で入っちゃうの」ってとても寂しそうな表情をしていた、その時の顔が今も鮮明に脳裏に焼き付いている。とても後悔している。あの時一緒にお風呂入ってあげれば良かった。

あれが2人で過ごす最後の時間だったのに。

もう二度と一緒にお風呂入れないのに。

そんなことになるなんて思ってないから、そんなふうに深刻には考えられなかった。また土日ゆっくり一緒に入ろうと。

彼女は土日を待たずに金曜日のお昼に生涯を終えてしまった。

仕事も忙しくて朝も早いから自分に気持ちの余裕がなくて彼女の変化や気持ちにもっと気づいてあげるべきなのにできなかった。それをずっと後悔しています。



彼女が亡くなる直前の出来事。

何となく彼女が自分の身に何かあるかもしれない、

そんな不安から私と一緒にいたがったこと、

私との時間を一瞬たりとも無駄にせず大切にしたがったこと、

そんな節があったように思うのです。

彼女は最強のくっつき虫さんだから、

何があっても絶対私の傍から離れないって言ってたから。きっと魂はずっと私の傍にいるんだろうなと思っています。

本当は姿形が見えなきゃ、声が聞こえなきゃ、触れられなきゃ何も伝わらないし、実感できないし、救われないし、それがとても辛いんだけど。

でも私の最愛の婚約者はずっと私にくっついているんです。この先も何があっても。

死んでもずっと一緒なのです。

そう約束したから。


2024.07.07