いしいしんじさんの新刊が出ました。
『まあたらしい一日』(文・いしいしんじ、絵・tupera tupera、BL出版)
日はまたのぼり、日はしずむ。
えんえんくりかえされる、そのことを、わたしの弟は、ひらすら不思議におもっている。
疑念さえうったえてはばからない。
「ねえ、きょうのぼってくるあの日が、きのうとおなじ日だなんて、どうしてわかる?」
「よくごらんよ」わたしはいう。「右のはしっこに、ゆうべ、シール、はっといたから」
弟がとなりでねむってる。わたしは、ふとんから目と鼻だけだして、天井をみつめてる。
ほんとうにそう?日はまた、まちがいなくのぼるの?
じつはしずみっぱなしだとしたら?
明日の夜明けごろになっても真っ暗で、あたりはガジガジこおりつき
もうだれの顔も光の下で見ることができなくなったとしたら? ……
夜明け前、庭に出る。じっと見つめている東の空が、
一瞬むらさきに、そうして、だんだん白銀にそまっていく。
ぶなの梢(こずえ)がしなった気がする。雲のあいだから曙(あけぼの)の、
桃色の指がのびてきて、あたしたちの鼻をさわる。
「はじめまして、きょうの日!」黄金色の光にむかい、
わたしはそっと声にだしてみる。
「きょうも、うちの弟をよろしくお願いね!」
作家のいしいしんじさんは、読売新聞の「人生案内」の回答者。読者のさまざまな悩みに、切り口鮮やかに、しかも熱をもって答えておられる。
いしいしんじさんと私の共通点。それは尊敬する人物が、天才バカボンのパパだということ。バカボンのパパの「これでいいのだ」は深い。「ま、いいから、いいから」をアウフヘーベンしたところの境地か。
「バカボンのパパ」論はまたこんど。
