〝二度と帰ってはこない〟ということ | 吾郷水木生オフィシャルブログ『アゴーのCafe俺』

〝二度と帰ってはこない〟ということ


 

最後のお茶

 

日付け変わると、明日は最愛だった祖母の命日。

亡くなったのが1998年だから、今年であれから26年にもなる。

 

僕が3歳の時に1歳の弟を連れて、母が(離婚して)出て行ってからは

祖母が母の代わりをしてくれた。

 

僕が3歳の時に、耳から採血する検査で血が止まらなかったのをきっかけに

僕が血友病A(重症)と分かり、弟も調べたら血友病だと判明して。

離婚理由を詳しくは知らないけど、きっと母も仕方なく

うちを出たんだと、思っている。

 

小さい頃の記憶はほとんどないけれど、

その母が出ていく日の夕方の光景だけは、くっきりと覚えていて。

居間には祖父母も父ももちろん僕もいて、母と弟を囲んで

なんとも言えない空気の中、最後のお茶をして

そのまま母は弟を抱き玄関を出て、車に乗り込み、

振り返りもせず、出て行った。

母はそれっきり二度と、うちには戻らなかったし、

戻れなかったのかもしれないし、

あんな家にはもしかしたら戻りたくもなかったのかもしれない。

 

ただ僕は、

実の息子を置いて母親が出ていくという現実を3歳の時点で知ってしまって、

それが常に、50歳を過ぎた現在も人生の教訓になっている。

家族が、なんらかの悪しき事情で

家から出て行ってしまうほど悲しいものはなく、

泣いてしがみ付いて縋り付いたところで

引き止められる術もないことを、知っている。

だから今まで〝ずっとそばにいる〟〝決して離れない〟を核に

そんな心情を、いろんな楽曲に散りばめてきたつもり。

 

 

おばあちゃんがきっと、

母の急な不在によるその僕の寂しさややり切れなさを、

腰を曲げながら、僕が難病持ちでもなるべく不自由ないように

年月をかけて無償の愛で育て上げてくれたんだろう。

 

だから、僕にとっておばあちゃんは、

今も昔も〝絶対〟で〝最愛〟の人だ。

僕は時に生意気で迷惑も心配も沢山かけたけど、

お互いにそういう存在だったと、亡き後も自信を持てている。

人生に於いて、今度は自分が無償で愛せる存在を広い世界からひとり見つけ、

その人にとっても〝絶対〟で〝最愛〟の存在にならないと、この世に生かされている意味がないという頑なで偏った人生観だし、

そのためには自分も負けないくらいに〝絶対〟と〝最愛〟を大袈裟だけど命懸けで証明してみせられるほど一途で潔白で懸命な向き合い方をしなければ、

そんな世界には到底辿り着けないと、判っている。


 

明日は、おばあちゃんの命日だ。

まだ、この春、この町で木蓮を見かけていない。

 



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