発売される前から読むのが楽しみだった、「佐藤春夫 台湾小説集 女誡扇奇譚」読了。

この本は佐藤春夫がちょうど100年前(のまさに今頃!)、夏の間訪れた台湾旅行について書かれています。
本のタイトルに「台湾小説集」とあるように、この本は9篇の小説(少しホラーな表題作「女誡扇奇譚」や大人向けの童話的なお話、台湾での滞在記など)から成っており、どれも面白く、大変興味深いです。
はじめは久々に触れる古めかしい言い回しや読み方がわからない漢字(情けない…)に手間取りましたが、段々と引き込まれて行き、私も100年前の台湾のいろいろな街や山の中を歩いている気持ちになりました。

↑台湾の古都と言われる台南も、始まりはこの安平の街から。古都 of 古都!?
表題作「女誡扇奇譚」の舞台も安平です。

100年前も今も、やっぱり夏の台湾旅行の印象は「暑い!」なのでしょうが、それでも今は外がいくら暑くても、建物や乗り物の中ではエアコンがガンガンに効いてるのでまだ避暑に駆け込む事もできます。
しかし、100年前は自然の風か時折訪れるスコールなどがない限り、涼む事は出来ないよう。
*「電扇」という、扇風機のようなものはあったらしいです。
おまけに「夏の台湾」と言えば、な台風にも見舞われ、予定していた阿里山への旅を取り止めざるを得なかったようです。
*阿里山鉄道が台風により壊滅的な被害を受けた。

↑当時はマンゴーかき氷で涼む、なんて事も出来ないだろうしなぁ…。

原住民の集落を訪れたり(この台湾旅行はあの霧社事件が起こる10年前の事ですが、佐藤春夫が原住民の集落がある山岳地帯へ行く直前に原住民の蜂起による日本人大量殺害事件が起きた。当時は台湾内の移動も危険を伴うものであったらしい)、書家や画家、または民族活動家に会ったりと、見聞を広める旅でもあったようです。


しかし、何よりも考えさせられたのは100年前の当時は台湾は日本が統治していた事、です。
今は飛行機でひとっ飛びの台湾、空港では特別念入りに調べられる事もなく入国でき(このコロナ禍が収束し、また台湾へ行けるようになったら、どうなるのかは今はまだわかりませんが)、まるで国内旅行のような気分で行ける台湾ですが、当時は台湾は日本でした。
新天地を求めて海を渡った日本人もさぞやたくさんいたのだろうな、と思います。
当時の台湾には漢民族の他、各原住民族の人々、そして日本人が暮らしていました。

漢民族・原住民族・日本人が力を合わせ、偉業を成し遂げた感動的な物語。

それぞれ違う民族の人々が、様々な思いや主張を持って暮らしていた事は想像に難くありません。
特に、原住民たちは本来自分たちが暮らしていた所に漢民族が移住して来て、その後日本が台湾を「統治」するためにやって来て、日本式に教育(言葉も含む)され、自分たちの文化を否定されて抑圧された事に対しての不満もあった事でしょう。
それは「蜂起」という形で度々爆発していたようです。


人が人を支配する事で生まれる悲劇は、もうあって欲しくない事です。
人間はいつになったら侵略し、支配する事をやめるのでしょう。
そんな事も考えさせられた一冊でした。

↑現在では、原住民族の優れた芸術的センスを台湾のいろいろな場所で楽しむ事が出来ます。

それにしても、私も佐藤春夫のように一つの季節の間中台湾で過ごせたらなぁ…。