リガチャーネジに触れる前にサックスやクラリネット等の良いマウスピースとはどういった物かということについてお話したいと思います。

ずばり左右対称です。
オープニングの開き具合やテーブルのレベルもありますが左右対称であることは必須の条件です。
図1

図1のようにマウスピースをちょうど真ん中で割った時、テーブル、レールの開き等、諸々が左右対称である状態です。
 
図2

次に図2にように
①マウスピースにリードを取り付けます。
②リガチャーを取り付けます。
③リガチャーネジを取り付けます。
ここで気づいた方がいると思います。
このリガチャーネジをセッティングした状態が左右対称ではありません。
マウスピースとリードを固定するリガチャーのネジなので一見関係なさそうですが、どうでしょうか。
こういった2本締めタイプでは上下2本ネジの締め付け具合で音色を変えられるということが一般的に知られています。
という事は関係がありそうです。
 
図3
図3はリードの振動分布のイメージ図です。
実際にリガチャー無しの状態で吹くことはありませんのであくまでイメージとして捉えてください。
左から3番目のリガチャー取付までは左右対称で重心が中心にあるのでリードが正しい振幅を得られています。
ですが、持ち手が大きいネジを取り付けると重心がずれ、振動の分布が斜めになっています。

現在、持ち手部分の大きい物が主流ですが、持ち手が大きいと重心がリードの中心ではなく、中心からずれます。
 
図4

リガチャーとネジでは図4のようなイメージです。
鋳物のネジは特に持ち手の大きい物が多いです。持ち手が大きいとこの重心のズレが大きくなります。音質や音抜けの悪さの原因はこの重心のズレによるものではないかと思います。
(鋳物 vs 削り出しによる金属の密度の関係もありますが、正しい振幅という意味ではこちらが支配的ではないかと思います。)
これらの事からマウスピース、リード、リガチャー、リガチャーネジのすべてをセットした状態でリードに対し、重心を中心に持ってくる事が重要な課題です。
 
図5

そこでできるだけ左右対称でリードに対して重心を中心に近づけたネジを製作しました。図5(写真は真鍮削り出し)
 
図6

セット後の振動のイメージは図6です。
重心を中心にもってきましたのでリードの振動分布が斜めになっておりません。
吹奏感は息がそのまま入ってくれる感覚で妙な抵抗感や音の詰まりが解消され、音量アップと同時に吹きやすくなりました。
マウスピースをリフェイスした感覚に非常に似ております。
サックスではオクターブキイを押した状態でシからドの移り変わりが一番分かりやすいです。
ドの時でも音質が変化せずそのまま抜けてくれます。

ここからは私の推測ですが。。。
リガチャーは当たり前ですがネジもリードと同じ振動体で考える必要があると言えます。
冒頭にマウスピースは左右対称が良いと言いましたが、マウスピースやリガチャーが左右対称であればこのリガチャーネジも左右対称で重心を中心にする必要があるという結論です。
細かく言うとリードに対し、リガチャーとリガチャーネジを取り付けた状態の重心を中心にくるようにするということです。
正締めで説明しておりますが、逆締めでも改善されました。
ただし、正締めのようにリード側にネジがない為、正締めと比べると効果が薄いです。
(効果が薄いと言いましてもネックジョイントネジ等の効果と比較するとはるかに違います。)逆締めリガチャーが普及したのも結果としてこのような事による裏返しなのかもしれません。
 
また、持ち手の大きい通常ネジは1本締めより2本締めの方がバランスが悪いと言えます。
本数が多くなる事で重心のずれが大きくなるためです。
(市販のネジ式リガチャーで重心が考慮されているメーカーは一部あります。)

現在、ありがたい事に身近な方々を中心にネジを製作しておりましてなかなか好評です。
リガチャーは逆締めでも良いんですが、正締めをおすすめしております。
正締めはネジがリード側に接しているため、このネジの振動をプラス方向に持っていけるため音に深みが出ます。
ですので、できれば正締めがおすすめです。
真鍮に銀メッキ、金メッキ、ピンクゴールド、プラチナメッキや総銀等が製作可能です。
ネジの規格はほとんどのメーカーに対応できるかと思いますのでお気軽にお問い合わせください。近日中、ホームページに掲載いたします。

ホームページ作成しました 20170312
 
リガチャーネジ既製品販売

最後に。。。
今回のネジ製作は林未来彦様のメッキ加工依頼がきっかけでした。
ネジのメッキ加工による音の変化からネジ製作と派生して参りました。
製作にあたっても色々なアドバイスをいただき、この場をお借りして御礼申し上げます。
ネジについては林未来彦様のブログでもご紹介いただいておりますので是非とも一読されてください。
音源付きで詳しく記事にされております。(実際にこちらの方が分かりやすいです)

MIKIネジ制作の記録

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