「Morphine」(モルヒネ)の解釈に挑戦してみました。
これからマイケル・ジャクソンの詞の翻訳を続けていきたい私にとっては
この曲は乗り越えなければいけない一つの壁のように思っていました。
 
でも、聞けば聞くほど楽曲としても素晴らしく、決して腫れ物のように避けたり
怖がったりする必要は全然ないんじゃないのかと思えるようになってきました。
そして、センセーショナルに捉える必要はないと。
 
もちろん伝えようとしてるメッセージは重たいものがあります。
医師によって処方される薬であっても、使い方を誤ればとても危険だ。」
ということ。決して違法な薬の話ではないです。でもそれだけに
誰の身にも起こりうることだからこそ、大事なメッセージだと思うのです。
 
かなりプライベートな部分をさらけ出しているだけに聞いていて辛いものがあるのですが、そこは聞き手としても真摯に受け取りたい。そういう思いで解釈に取り組んでみました。
 
ただ大きな障害になるのは、やはり言語の問題。
そこでネイティブスピーカーで、かつマイケルの音楽に詳しいプロのライターのレビューで良いものを見つけたので、それを参考にして考えてみることにしました。
闇雲に辞書を引いて言葉を日本語に置き換えるだけでは、わけのわからないものになりますもの。
    バネサ・アパサミーという人の書いたレビューはこちら。
詞を見ると一見「わけわかんない。」となるのですが、このレビューを読むと、大変筋道の通った素晴らしい詞であることもわかります。ただ、心理的な葛藤を表すので確かに複雑ですが。93年に起こった訴訟問題をきっかけにマイケルが鎮痛剤依存になってリハビリを受けたことを題材にして作られたという理解に基づくレビューです。
 
でも決して薬の影響で、ふらふらになりながら創作された曲ではないです。それどころか、自分の葛藤、苦しみ、ネガティブな感情と正面からがっぷり組んでその問題を克服して作った名作ではないでしょうか。
 
マイケルは薬物による治療を受けていたかもしれません。でも薬物中毒ではありませんでした。そのことを彼自身が作詞作曲したこの曲が証明しています。
 
かなり長くなるので、楽曲の解釈と、詞の解釈を前後編に分けて書いていきたいと思います。
(とは言え、あまりこの曲を聴いたことのないファンの方には衝撃的かもしれません。
辛い気持ちになると思われる方は、ここで読むのを止めてくださいね。ここまで読んでいただいてありがとうございました。
念のためちょっとスペースを空けておきます。読んでも大丈夫と言う方だけ
お進みください。)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
押さえておきたい基本情報
作詞・作曲 マイケル・ジャクソン
1997年 アルバム「Blood On The Dance Floor」に収録
1993年~1996年ごろに製作されたと見られる。
 
1.この歌で扱われている薬は「モルヒネ」に代わる化学合成の鎮痛剤「デメロール」です。モルヒネと同じ用途に使われるため、作詞者は「モルヒネ」=「デメロール」という意味で詩を書いています。「デメロール」は医師によって処方投薬されるもので
いわゆる「麻薬」ではありません。(ここで言う「麻薬」とは違法に取引され、濫用されることで中毒症状を起こし、社会問題を引き起こす薬物。)
この薬品について簡潔明瞭に説明してくださっているサイトへのリンク
「マイケルジャクソンの軌跡を綴るブログ」様
 
2.マイケルが鎮痛剤を使用するきっかけになったのは、1984年のペプシコーラコマ  ーシャルの撮影の際に負った頭部の火傷が原因です。
 
3.93年に訴訟を起こされたときにこの鎮痛剤の依存になり、リハビリを受けたことをマイケル自身が口頭で発表しています。
 
4.93年の依存は急性のものでありリハビリで治療克服したのに、マスコミは「マイケルは慢性的な薬物依存症である」という誤った情報を流し続けました。
 
曲から読み取れるもの
・クリエイティビティーの進化を感じる完成度の高い曲。
インダストリアルロックの重たく凄みのあるサウンドが、ブリッジで哀愁を帯びたバラードにさっと転換する意外性も面白い。曲だけを聴くと本当に「クール」。
 
・イントロの機械をチューニングするような音・・・・運命の音
三連符と長く伸ばす音の組み合わせ。これはベートーヴェンの「運命」のあまりに有名な冒頭のフレーズと同じ。
同じ音で三つの音を続けるというのはクラシックでは「運命が扉をノックする音」という約束があるのです。ヴェルディの歌劇「運命の力」序曲も、金管楽器の三連符で幕が開きます。クラシック好きのマイケルのことだから、敢えてこの音を使ったのではないでしょうか。
 
 ・曲の構成(詞の解釈も参考にして考えました)
第一バース  メロディーA×4回          ロック調
         メロディーB×1回
 
第二バース  メロディーA×4回          ロック調
         メロディーB×1回
 
ブリッジ    メロディーC              バラード調
         メロディーD
          メロディーE
第三バース  メロディーA×2回          ロック調
         メロディーB×1回
 
コーダ     メロディーF              ロック調
        
詞を見ても物語の登場人物が多いことがわかります。それを書き分けるために
細かく綿密に曲の構成を組み立てていると思います。
 
メロディーA  ビートルズの「come together」のメロディーを逆展開したようなメロ          ディーが三小節繰り返され、最後の一小節は叩きつける様なメロディ         ーにののしり言葉の詞がはめられている 。主に主人公の葛藤を表す。
              「Come Together」ドラドラソラ
              「Morphine」    ラドラドラソ          かなり意識してそうです。(by 名曲探偵チー)
 
メロディーB  誘惑するような優しげなメロディーが三小節あり、薬の誘惑を表す。          最後の一小節が叩きつけるようなフレーズで、曲のテーマ(モルヒネ)         が現れる。
 
メロディーC  ABとは明らかに異なる。ABでは出てこなかった登場人物のせりふ          をあてはめている
 
メロディーD  嘆くようなメロディー。語り手の心情を表す。
 
メロディーE  同じバラードでも、Cと異なるメロディー。また違う人物が出てくる
 
メロディーF  ABと異なるメロディー。場面転換と異なった人物の登場。
 
登場人物によってメロディーを使い分けるのは、クラシックではよく使われる手法です。有名なのがシューベルトの「魔王」。語り手、子供、父、魔王のそれぞれに特徴的なメロディーが作られていて、一人の歌い手が歌っても劇的な効果が抜群に高い名作です。この記事を書いていたら思い出しました。子供をさらおうとする魔王の声が限りなく優しいメロディーに乗っています。この曲の「Trsut in me・・・」のところがまさに魔王の誘惑のようです。(またまた名曲探偵チー)
              
緻密に計算しつくされた曲、サウンド作りだなと思います。
これだけネガディブな内容の曲を創作し発表するのには勇気が必要だったことだろうと思います。でもそれだけに、この問題を乗り越え、強く生きようとするマイケルの意志と創作への情念を感じます。