おとうと
山田洋次監督最新作の『おとうと』は、市川崑監督の「おとうと」(60年)に捧げられている作品。この所、あまり出来の良く無い邦画ばかり観ていたせいか、この作品を観ていてどこか安心感を感じた。作りは王道中の王道と言っていいのではないか。特に突飛な事を起こらず、淡々と物語が進んでいく。どうも前半は笑福亭鶴瓶の演技が滑っているような感じがするが、これは好みの問題もあるだろう。自分はどちらかと言えば好きではない。『ディアドクター』はニセ医者という事で自分の中では許容範囲だったのだが、今回は違った。これは『母べえ』の時も感じた事だ。じゃあ他に誰が適役かと考えると、なかなか出て来ない。俳優陣の層の薄さを感じてしまう。さて話は戻って、蒼井優と加瀬亮を中心に?話が進んでいくあたりで、物語が落ち着き出し、後半はさすが熟練と思わせるたたみ込み方をしていく。肉親や兄弟の死に目に立ち会った人は、最後の場面は、鶴瓶と吉永小百合の演技を見ているというより、自分の思い出を振り返ってしまうのではないか。ある意味ではズルい気もするが、それほど丹念に描いている。今回の山田洋次監督が描く若者像は、それほどリアルさを感じない。出演者たちも「言葉遣いが違う」と言っているように、20~30代の人が見たら違和感がある。しかし50代以上の人が見た時には違和感はほとんど無いと言っていい。おそらくこの辺りも計算づくで演出しているのだろう。とにかく安心して観られる作品です。