海・・・。

 ちょっぴり塩気を含んだ、ひんやりとした潮風、ゆったりと押し寄せる波の音。

 そして、波にあわせてゆうらり、ゆうらりと揺り動く暖かなソファ。

 あぁ、・・・海だ。

 海の上にいるみたい・・・。

 ・・・え?・・・うみぃ!?

 え、えと、ちっ、ちょっとまって!なんで?だって、だってあたし、ソファに寝てるのに?

 これって、うちのソファよね。・・・うん、いつもあたしがお昼寝する応接間の古いソファ。肘置きには小さいころに悪戯してつけた木刀の傷もあるし、裏布を蹴破って繕った跡もある。

・・・間違いなくおばあさまお気に入りのソファ。

 それに、古い大理石のライターと灰皿が乗っている小さなサイドテーブルがひとつ。そして、そのソファとテーブルの脚が乗ってるのは、見馴れた板張りの床・・・ただし、畳二枚ほどの広さにスッパリと切り取られている。

 そして、さらにその下は・・・海!

 ・・・島影どころか、海鳥の姿さえ見えない海、海、海!

 雲ひとつ無く晴れ渡った、三百六十度見渡す限りの大・海・原。

 ・・・・・・・・。

 ・・・ロビンソンクルーソーには、無人島でもちゃんと島があった。

 ・・・十五少年漂流記だって、食料を積んだ船があったはず。

 しかし!今のあたしには、大海原に波に揺られて頼りなく浮かぶ切り取られた床、重いだけが取り柄のような見慣れた古いソファ、それに寄り添うような小さなサイドテーブルと、その上の大理石のライターに灰皿だけ・・・。

 ちょっと!このままじゃ、一人飢え死にするしかないじゃない!

 あはははは・・・・・あー、夢よ、夢なんだわきっと。うん、そうよ、いつものようにおばあさまの応接間でうたた寝してるだけなのよ。

 目が覚めたらちゃんと応接間にいて、居間の大時計が鳴って・・・。

 うん、よくある夢落ちなんだわきっと。もう一回ちゃんと寝て起きれば・・・。

 クッションの良いソファのに突っ伏すように、あたしは眼を閉じた・・・。