ブレザーへ衣替えの季節。半袖の夏服よりまし。相変わらず、ネクタイが結べない。

 二学期の次なる行事は、文化祭。好きであり嫌いでもある微妙な行事。体育祭と違い、二日間ある。体育祭が、二日あるよりマシ。クラスの出し物は、ステンドグラス制作。と、一年生限定の合唱発表会。

 ステンドグラス。材料は、模造紙とカラーセロハン。模造紙に色々な形を描き、これをカッターで切る。切った箇所に、カラーセロハンを貼る。普通校舎棟の階段の窓と階段の蹴込みに、これらを貼り付ける地味で大変な作業。放課後の作業時。「放送部の仕事」と偽り、部室に逃げ込んだ。授業中の作業時。切り落とした三日月状の紙二つを、同じ班の倉田くんの頭に付けて、「エレキング」とふざけて遊んだ。ウケもせず、冷たく呆れられた。この通り、作業には全く非協力的だった。

×××

 この頃、名刺を持ち歩いていた。名刺は、店の。騙されて作らされた名刺。俺は、これをさばくのにブレザーの懐に入れて、仲良くなった人に配った。唯一、女子にあげた人が居る。同じクラスの夏目さん。キャッキャして可愛らしく、かつボーイッシュな女の子。初めて彼女と話したのは、掃除の放送を終えて放送室を出たら、隣の職員室で掃除をしていた彼女と鉢合わせした時。

 「星くんって、放送部だったの?」

 「そうだよ」

 「へぇ~、知らなかった」

 松澤さんと違って、受け答えが明るい。松澤さんの場合、少々S入りの冷めた返事。以来、夏目さんと軽く挨拶をするようになった。彼女にメールアドレス入りの名刺をあげて、見事メールアドレスをゲットした。

×××

 ある放課後。理科の中間テストの追試を受けた。元素記号の点数が悪かった人が対象。これが終わって、ステンドグラスを作っている教室に嫌々向かっている時、ケータイを開くと一件のメールが着ていた。誰だ?

 《何処に居るの? ウチ、寂しい》

 何だ、このメールは!? 差出人は、夏目さん! どう返したら良いんだ。一先ず、近くのトイレに隠れて返事を書く。

 《理科の再テストを受けていました》

 真面目な返事。続きのメールは、あったかなかった記憶にない。女子に、そんなこと言われたのが初めてだったので、頭がテンパった。送る人を間違えたのか? 例え間違いでも、ときめいた。誰かさんは、こういうメールをくれない。カレシ持ちだし当然か。

×××

 ―文化祭前日。体育館で座席設営、座る順番の確認。俺は、放送部の仕事があるので、集会と同じで座る必要ない。それを担任に伝えるも、「一応、座って」と言われた。出席番号順なので、隣は松澤さん。

 「この中に、放送部の生徒は居るか?」

 C組担任の徳永先生が手をメガホンにして、放送部部員である俺を呼ぶ。 

 「すまないが、マイクの準備をしてくれないか?」

 「はい」

すると、松澤さんが

 ヤッタ

いつぞやみたいに、小さくガッツポーズをしながら喜んだ

 「その言葉、そっくり返してやるよ!心のつぶやき

 マイクを取りに行き、徳永先生に渡し、そのまま放送室に立て籠もった。話し合いが終わると、何食わぬ顔でマイクを回収した。

×××

 ―11月1日(水)・文化祭一日目。

 放送部の仕事は、音響設備と撮影。音響は、姫島先生が担当。

 「こちらでセットしていますので、ヘタに触らないで下さい。もしもの時は、私に相談して下さい」

 そう言い残して、文化祭を観らずに、部室である理科準備室に帰った。つくづく変わった先生だ。撮影は、記録用。俺と先輩二人とビデオカメラ片手に体育館内を動き回った。

 ステンドグラスは、日中だと分かりづらい。カラーセロハンを、ただ貼っている感丸出し。夜20時まで作業をやった時、電気の点いた階段を外から見ると、凄くカッコ良かった。記念にケータイのカメラで写真を撮ったが、残念ながら、現在は無い。

 一年生クラス対抗合唱発表会。合唱は、音楽の授業を受けている人がやれば良いと思った。何を合唱したか覚えていない。指揮者は、松澤さん。まったく彼女を見らず、上の空で周りに合わせて歌った。口パクだっけ?

 商業科のCM上映会というのがあった。これは、学校近くの農家やミスタードーナツと実際に取引、販売。または、商品開発も行う。言わば、出店のCM。二年生より本格的に商業科に進む俺にとって、とても興味深い出し物。幾度なく作れなかった夢の自主映画が作れるチャンス! しかし、作るには、三年生になるまで待たないといけなかった。

×××

 ―11月2日(木)・二日目。

 対して記憶に残っていない。商業科のCM上映がインパクト強すぎた。

 閉会式で、各展示物や各ステージの順位が発表された。何かと順位を付けたがる。文化祭くらい、順位とか関係なく楽しめば良いのに。展示物部門で、ステンドグラスが全校一位を獲得。合唱は、学年二位の成績を残した。