不思議な魔法のライトを拾ってから一年後…。
私はフランスのニースにいました。
「なあ、ライト。」
「どうしたのご主人様?」
「ライトを拾ってからもう一年が経つんだな…。」
「そうだね、ちょうど一年になるね。」
「ライトに願いを叶えてもらうようになって人生が一変したよ。」
「そう?」
「そう?って…。この別荘を見てみろよ。
12,000坪ある敷地に、南フランス特有の建築様式である石造りの建物。
地中海に沿った海岸遊歩道プロムナード・デ・ザングレには、
俺が所有する高級ホテル、レストラン、カジノ。
いまや世界中に別荘があって、どこにでも自由に行き来できる。
執事やメイドだって何人いるのかもわからない。
こんな生活、一年前には考えられなかったよ。」
「ご主人様が幸せなら、僕はそれだけで満足だよ。」
「ああ、幸せだよ。ただ…。」
「ただ?」
「何でも買えて手に入らないものは無い…。
それもちょっと退屈な気がしてくるな。」
「でもご主人様は、働かなくて済む余裕のある生活を望んでいたんでしょ?」
「そうだな…。自分で望んだことだ…。
なあ、ライト。一つ質問してもいいかい?」
「なあに?」
「今まで沢山のお金や物を出してもらってきたけど…。
それって、どこからどうやって作られるものなのかな?」
「物は物質を変換するだけだよ。
全てのものは同じエネルギーで出来てるから。
僕はそのエネルギー構成を少し変化させるだけ。」
「よくわからないけど…。魔法は万能なのかい?」
「ううん、魔法にも出来ることと出来ないことがあるよ。」
「出来ないことって?」
「無から有を生み出すこと。」
「一体どういうこと?」
「魔法はエネルギー構成を変えることは出来るけど、
エネルギーを一から生み出すことは出来ないんだ。
宇宙にある物質の総量は同じなんだけど、
総量を増やすことは出来ないってこと。」
「ふ~ん。なんだか難しいね。出来ないことはそれだけ?」
「僕に出来ることはエネルギーの形を変えたり移動させたりするだけ。
世の中の仕組みや概念、人の気持ちとかを変えることは出来ないんだ。
厳密に言えば全てエネルギーなんだけど、それらは僕では変えられない。」
「う~ん、よくわからないな…。
具体的に言うと、どういうことが出来ないの?」
「例えば…。お金を生み出すことは出来ないよ。」
「お金を生み出すことが出来ないって…。
実際にこうやって出してくれてるじゃないか。」
「うん、それは別の所からお金を持って来ているだけなんだ。
世の中に流通しているお金は、人間が作った概念であり価値だから、
僕が勝手にお金の総量を増やすことは出来ないんだ。
お札の形を作ることは出来るけど…。
それだと同じお札が2枚になっちゃうでしょう?
だから、お金を出す時は別の場所から持ってこないといけないんだ。」
「ちょっと待って!別の所からお金を持ってきただって!?」
「うん、そうだよ。」
「そうだよって…。取られた人はどうなるんだよ!」
「お金が無くなる。」
「そんな簡単に…!じゃあ、今までの俺のリッチな生活は、
誰かの犠牲の上に成り立っているっていうこと!?」
「大丈夫。同じ人から沢山取るわけじゃないから。
いろんな所からちょっとずつ貰ってきてるんだ。」
「ちょっとずつって…。」
「うん、でもご主人様。世の中ってそういうものだよ。
どこかが富めば、どこかが貧しくなる。
ご主人様はお金持ちになりたかったんじゃないの?」
「そりゃ、そうだけど…。」
「じゃあ、何も問題無いじゃない。」
ライトの発言で、自分が大きな過ちを犯したような気がしていました。
でも、今更、元の生活に戻ることは出来ません。
せめて、お金を新たに出してもらうことは出来るだけ減らそう…。
そう思いました。
「ライト。」
「なあに?」
「俺は働くことにするよ。」
「何をして働くの?」
「自分でビジネスを始める。
今までのように、気軽にお金を出してもらわないようにするためにね。」
「僕はご主人様がやりたいことをお手伝いするよ。」
「ありがとうライト。大富豪の仲間入りをして一つわかったことがある。」
「どんなこと?」
「お金持ちは働かないものだと思っていたけど…。
お金持ちでも働く人は働く。貧乏人でも働かない人は働かないんだってこと。」
「そうかもしれないね。」
「働いていた時の方が充実感を得られていたのかもしれないな。
よし、これからは今ある資金を元手に自分の力で稼ぐようにするよ!」
魔法のライトに出してもらっていたお金の仕組みを知り、
罪悪感から自分自身でビジネスを始める決意をしましたが…。