暑かった日の思い出、山道に座り込み、私だけが味わっているこの瞬間は日々の喧騒から抜け出た特別な瞬間だと思いながら、セミたちの合唱に耳を傾ける。

世の中の大きな流れに抗いたくて、それが自分を保つための唯一の手段で、たいして強くない酒を飲みながら、自分は傷ついていないと、誰も来ない山道で引きつった笑顔を作る。

 

少年から青年になる時のとても美しかった思い出は、自分の知らないところで、美しくない面と同時に進み、それがわかった時には、周りには誰も居なくなり、自分で書いた自分史の1ページからそれを自ら削除して、なかった事の様に振る舞った。

 

雷の音が聞こえる、時同じくして大雨が降り出す。大木を背にし、座り込む。何もしていないし、誰も居ないからその状況に自分だけの価値を感じて、心に留める。将来思い出す事もあるだろうと。

 

五感で感じたその感覚は、記憶の彼方から引き出され、その時と同じ感情を思い出させる。美しい思い出を作り続ける筈だったのにと考え、自分の考えた未来とは全く異なる現在を送っている。

 

自分はどうなったか、自分を自分で解放し強くなり、上書きされた誤った自分史を正しく書き直す。