公園を通りかかると、幼い男女が大声で楽しそうにしている、そこに割り込む様に入って来る快速電車の音。交差点の信号が赤だから止まって景色を見回す。大きな宗教団体の施設が目に入る。私は信者ではないから、信仰を持つ人々に申し訳ない気分になり、目を逸らす。そらした先は、植木の新緑。丁寧に刈り込まれては新緑の役割を終えて来年また刈り取られていく。

 

繰り返される季節の移り変わり。自分はこうして隠遁者の様に日常に埋れていくのではないかと考えるが、別にそれでもいいやと考えている。酒をやめて60日ほど経つので、別にそれでもいいやとの考えは自分の冷静な判断だ。そして酒自体を2週間以上飲まないのは20年ぶりで初めての経験だ。

 

向こう側から友人とその息子が歩いてくるのを見かけ、声を掛ける。彼らは二人暮らしで、友達のように仲が良い。久しぶりの再会をお互いに喜び合う。友人の息子が今春、新入社員となり、プロボクサーのライセンスを取得したことを知っているので、その話題を振る。ジム通いにのめり込み過ぎて学業を疎かにし、特に数学がわからず留年しそうだった彼は、数学だけを学ぶために塾に通い、高校を無事卒業した。勉強した数学とプロボクサーのライセンスが就職活動の強みとなったのだという。友人はかつての飲み友達で、私の酒乱ぶりを知っている。

 

彼が生まれてから今まで同じ時間を過ごしてきた。私は人生の先輩として助言を何か言おうとしたが、今の彼の方が私より明らかに立派に見えたので、何も言えなかった。何も成し遂げずに歩んできた自分の人生だから。ようやく出てきた言葉は『酒には気をつけてね』だけだった。友人とその息子は、それを言った私を見て笑っている。私も思わず笑ってしまい、『じゃあまたね』と言う。友人は、『近いうちに飲みにいきましょう』と言い、それに対し『そうっすね』と言いながら手を振った。彼らは西口に向かい私は東口に向かう。