朝、トニヤーリエに起こされる。朝食をとって、ワローゼイテとお勉強。昼食、昼の休みを挟んでフーハンセとトルーゼ、クォスファーの練習。少し自由時間があって家族で夕食。部屋に戻って寝る支度をして明日の予定を聞いたり本を読んだりして寝る。
それが、わたくしの日常です。が、何故でしょう? トニヤーリエをはじめ側近たちはもちろん、ワローゼイテもフーハンセも不思議そうな顔をします。何か変なことを無意識のうちにしているのでしょうか。

寝台に入る前、思い切ってトニヤーリエに聞いてみることにしました。

「トニヤーリエ、わたくし何か今日おかしかったですか?」
「え、っと。なぜでしょう」
「何だかみんなの様子がおかしいように思えたので」
「いえ。何もございませんよ。いつも通りの姫様でした」
「そう。なら、いいわ。おやすみ」
「おやすみなさいませ、姫様」

―――トニヤーリエは嘘を吐

いていますね。

 前で手を組むのはトニヤーリエが嘘を吐いている証拠です。6年の月日を共にしてきたのです。舐めないでいただきたい。

 布団に包まってからも、今日の事を考えましたが、みんなの反応の意味は分りませんでした。誕生祭を迎えたばかりの子供が考えて分かることなどたかが知れています。こういうことはお父様に聞きましょう。



 その次の日、お父様に面会予約書を出し、5日後に許可が下りました。今日はその面会の日です。

「お時間をいただき、ありがたく存じます。あの、人払いしていただいてもよろしいでしょうか」
「ああ、構わぬ」
「ありがたく存じます。……トニヤーリエ、貴女も出てちょうだい」
「かしこまりました、ミシェラーゼ姫様」

 全員が出て扉が閉まるのを確認してから、わたくしは口を開きます。

「お父様、最近、側近たちの様子がおかしいのです。わたくしはいつも通りのはずなのですが、頻繁に驚かれるというか、何というか……。とにかく、落ち着かないのです。なのに、みんな理由を聞いても教えてくれませんし。お父様、何か心当たりはありますか?」
「ある」
「では……」
「だが、理由を教えることはできぬ」
「えぇ。そんな、なぜですか」
「まあ、それも今日までの辛抱だ」
「どういうことですか」

 わたくしの質問には答える気は無いようでパタパタ手を振りながら「明日もこの時間に来なさい」と言いました。

―――モヤモヤが逆に増えてしまいました。

 お父様はベルをならしてそれぞれの側近を入室させます。
 明日の楽しみも消えてしまったことで憂鬱になりながら、わたくしはお父様の執務室を出ました。



「さあ、お父様。どうしてか、理由を教えてくださいませ!」

 次の日。再び人払いをしたお父様の執務室で、わたくしは開口一番そう叫びました。叫ばれたお父様はチラリとわたくしを見、「アンホルバー」と唱えました。と、同時に何も聞こえなくなります。
 一度席を離れ瓶を手に戻ってきたお父様は、わたくしの視覚まで魔術で奪いました。

―――どうしてわたくしがこのような事になっているのでしょう?

 聴覚ばかりか視覚まで奪うようなことの対象になるのは、だいたい罪人です。そうでなければ、何か大事に巻き込まれる者、渦中である者。わたくしは罪を犯した記憶はございませんから、後者でしょう。というより、後者がいいです。いや、後者も嫌ですけど、マシといいますか……。
 そのようなことを考えていると、魔術が解かれ、視覚と聴覚が戻ってきました。おかえりなさい。
……と、何かが頭の中になだれ込んできました。
処理できなかったのか、わたくしの意識は次第に落ちていきました。

―――次は何ですか……。



「ミシェラーゼ。ミシェラーゼ〜。ミ〜シェラーゼ〜〜」

 お父様の歌声(?)が聴こえる。だからわたしは応えた。「はぁ〜い〜」

「ふざけないでキチンと応えなさい。のばすな。はい、と言え」

―――先に言葉をのばしたのはどなたでしょうね!?

「あれ? わたくし、今まで何をしてましたっけ?」
「やはり記憶は無いか」
「はい。今までというか、ここ数日の記憶がありませんね。どうしてでしょう?」
「では、其方の最近の記憶は何だ?」
「ええっと、お父様に何かされたことですね」
「その後の記憶は?」
「……無いですね」

 そう言うと、何度か頷いて「詳しい事は明日話す。また来なさい」と言われた。




「さあ、わたくしのここ数日の記憶が無い理由を教えてくださいませ!」

 次の日、再び人払いされたお父様の執務室で、わたしは両手を広げて催促した。

「ミシェラーゼが以前言っていた、前世の記憶があるというものが本当かどうかを確かめるため、ぞれらしき部分の記憶を抜き取って見てみたのだ。前世の記憶がすっぽりと抜けたため、ここ数日は記憶が蘇る前の良い子のミシェラーゼになっていたようだな」
「ちょっと待ってください。わたくしは今も良い子ですよ!」
「そんなわけあるか」
「ひどいっ! 泣きますよ!」
「ご自由に」

―――なんて父親だ。

「ん? でも、お父様。前にこのお話をしたとき、お父様は信じてくださいましたよね?」
「ああ、表向きはな」
「え、ということは信じてなかったのですか!?」
「当然ではないか。娘とはいえ、其方の言ったことが正しいと確信できことは無かっただろう? だから今回記憶を見たのだ」
「見たのですか!?」
「当たり前だ」
「うわあああぁぁぁ!! ひどい! 最低! 変態!」
「うるさい。黙りなさい!」

―――恥ずかしすぎるよ! あんな生活を見られるなんて! え、じゃあ、8点の算数のテストとか、13点の国語のテストとか見られた!? うわああああ!!

 1人でパニックになっていると「頭が悪いということは知っていたから安心しなさい」と言う言葉が聞こえた。なんとも反応しがたい。

「しかし、まあ、凄い所に住んでいたのだな」
「そうですか?」
「ああ。とても発達している地だということは、すごく良く分かった」

 確かに発達はしていた。
 ここは電子機器はもちろん、電気もない。公共交通機関など何それ状態だ。移動は基本馬車で、魔力を所持する級貴族は、魔術によって乗り物を作り出す。
 そんなこの世界しか知らない人から見たら、日本はすごいを通り越して恐ろしいだろう。便利すぎるくらい便利だった。1日もかからずに遠い国へ行くことができ、国内なら数時間で行くことができる。対してここは、領地を出るのに何日もかかる。

「一度行ってみたいな」
「無理に決まっています。この世界じゃないのですから」
「分かっておる」

 しばらく沈黙がその場を支配した。聞きたいが、聞きにくかった。どの位黙っていただろうか。わたしはようやく口を開いた。

「お父様。……お父様は、今度こそわたくしの事を、わたくしの話を、信じてくださいましたか……?」

 じっとお互いに見つめ合う。
 ふっとお父様が笑った。

「ああ」

 肩の力が抜けたのが分かった。

「改めて、これからもよろしくな、ミシェラーゼ」
「はい」

 お父様がずいっと近づいてきて一言。「しっかり勉強しろよ。予想以上におバカだったようだ」

 「はいぃ……!」

 これからを想像して震えあがったのは、少し日差しが柔らかくなった秋の始まりだった。

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実は信じていなかったお父様。異世界を見て結構ビックリ。テストの点にはもっとビックリ。

次は、初めてのお招きです。