いい意味で古臭く、時間の流れが緩やかで、人がせかせかしていない。
昔からこの町の、10月の夕暮れがたまらなく好きだった。
その時期はとかく短い。キンモクセイがそこかしこに咲き始め、町じゅうがひんやりした空気と冬の気配に包まれる。
それはまるで、自分の中の眠っている魂に優しく語りかけるような気配。そして、耳元でひっそりとその気配は囁く。
これから少し厳しい冬が来ますけど、大丈夫。
ゆっくり目を閉じて、大きく息を吸い込んで。きっと良いことが起きますからね。
この町を包む静謐で穏やかな空気が、僕をそう励ましてくれているような気がするのだ。
地に足をつけて生きているという実感、あるいはアイデンティティ。それが僕にはある。