朝方、5時頃になると、母の様子が変わって来た。手を上に伸ばして、「お菓子を見つけた。」とか「よもぎがあった。」とか、つかむ真似をしていた。
しばらくすると、ベッドから降りて、畳の上にはいつくばり、何かを右手の親指と人差し指でつかみ、左手を受け皿にして集めている様子。
「何を取ってるの?」と私が聞くと、母は「宝石のかけら」と言った。宝石のかけらと言いながら時々つまんで食べる真似をしている。そのうち宝石はカステラに変わった。カステラがなかなか取れないと畳を爪でこすっている。
母には、私には見えない人や宝石や食べ物が見えてるらしい。幻視だ。
床にはいつくばって何かしている分には、転倒の危険が無いので安心だ。埃を舐めてお腹を壊さないといいがと思いながら、私は、少しだけソファーでうとうとした。
6時50分になったので、食事の支度。抵抗する母を無理矢理着替えさせ、入れ歯を入れて、食卓に連れてくる。
ごはんは、1口しか食べない。エンシュアや、プリン、柿のペーストなどを食べさせた。食べながらも母には、小さい女の子がたくさん見えるらしい。
「9人もおる。どこの子やろか?あの子たちにも、ごはんを食べさせて。」と言う。
「どこにおるか私には見えんけん、おにぎり作って置いとくよ。」と適当に答えた。
ごはんを食べ終わると、床に天ぷらがたくさん落ちてるから、と拾おうとする。危ないから、私が後で拾うからと言うが聞かないので、手を握ってたら、私の手が天ぷらに変わり、皿に天ぷらを載せろと言う。大真面目に、訳の分からないことばかり言う母が怖いと思った。
せん妄や幻視は、母の思い出の中で好きだったもの、楽しかった事、怖かった事などがあらわれるのかな?宝石、よもぎ、わかめ、お菓子、カステラ、まんじゅう、天ぷら、小さな女の子は、大好きだったんだろうな。
母の頭の中はどうなっているのだろうか?
脳みそが混乱して、過去と未来と現在が
ゴチャゴチャになっているのかな?
脳の機能は未知の世界だ。