私がまだ介護の仕事をしていた頃のお話。


私が勤めていた通所施設に来ていた男性利用者さんの奥様はいつもニコニコと明るい笑顔で

送迎したスタッフを迎えてくれる人でした。

その奥様が脳卒中で倒れ、後遺症で車椅子生活になってしまったのは

私の夫がVTで入院した頃でした。


2人で施設に入った方が良いとまわりは勧めたのですが、どうしても自宅で2人で暮らしたいという奥様…

とりあえずはご主人は施設に入所してもらって

奥様は自宅から私の勤め先の施設に通っていました。


ある日、私が帰りの送迎車担当になりました。

ご自宅前に着くと奥様がポツリポツリと話はじめたのです。


ご主人が退職後に夢だった飲食店を営んだ。

沢山のお客さんに囲まれて楽しかった。

ご主人は穏やかな人であまり喧嘩をした事も怒られた事もない。

子供がいないので、老後は2人でたくさん旅行したいと思っていたのに

主人が病気になって

今は自分までこんな身体になってしまった。

とても悔しい…でも泣いても何も変わらないから、笑って生きていくしかない


言語にも少し障害が残って、時々言葉にならず聞き取れない事もありましたが

この時は本当にはっきりとした言葉と口調で私に話してくれました。


何故、こんな話をしてくれたのか…

噂で私の夫が心臓病で倒れたと聞いたのでしょうか?

私自身、不安な日々を送っていた頃だったので、暗い顔をしていたのか?

いや何も知らなかったのかも…

今でもわかりません。


いつも高らかな声で明るく笑う人でした。高齢にも関わらず辛いリハビリにも耐えて強い人なんだなと思っていましたが

本当はこの人もその心の中は不安や悔しさでいっぱいなのだと知りました。

いつも笑っている人の方が本当は自分より何倍も辛いのかもしれないと思いました。


私は自分の事を話して泣きました。

ヘルパー失格と言われそうだけど

この時ばかりは立場など関係なく人生の先輩に甘えさせてもらいました。

彼女は「あなたも辛いね、でも一緒に笑って生きていこ」と宥めてくれました。


「本当なら今頃は…」と落ち込みたくなると彼女の笑顔が浮かんできます。


「笑って生きていくしかない」


時には落ち込んだり、妬んだり、疎ましくなったりするだろうけど

この言葉は、きっとこれからもずっと忘れないでいこうと思います。


出会いに感謝とか、気付きとか、ご縁とか…やたら多用するのは好きじゃないけど

この方に出会えたのは私にとって大切な出会いでした。

ありがとう