私が小学校高学年の頃の話です。
ある日、母が勤めていた会社の社長が
自宅で自殺したと母の元に連絡が来ました。
母を含め従業員に会社の今後についての話し合いがあるからと
母は夜になって出かけて行きました。
話し合いが長引いたのか、母が帰宅したのは深夜になってからで
私はもう布団に入り眠っていたのですが、母が帰宅した気配で目が覚めました。
当時は
母と祖父母と私…4人で古臭い4室しかないアパートの1階に住んでいました。
間取りは、台所と和室が二間、それにトイレと風呂。
私と母と祖母は玄関側の8畳くらいの和室…日中は居間として食事をしたりテレビを見たりしている部屋に
夜は布団を敷いて3人で寝ていました。
深夜に帰宅した母は私を起こさないようにと
和室と障子で仕切られた玄関から続く狭い廊下で祖母と話しをし始めました。
私はすっかり目が覚めてしまったのですが、声をひそめて話す母と祖母に悟られないなうにと
ひたすら寝たふりをしていました。
母がだいたいの話を祖母に話し終えた頃でした。
突然、ドンドンドンドンと私が寝ている部屋の雨戸と玄関のドアを誰かが走りながら叩いていくよな音がしたのです。
ハッと息を呑む母と祖母…そして私。
少しの沈黙の後、祖母がボソッと呟きました
「社長だ…」
住んでたアパートは各部屋の玄関が道路に面しては建てられてはおらず
住人は道路から玄関前の細い砂利道を通って各家に入るようになっていました。
誰かが走りながら来たのなら、当然砂利を踏む音がしますし、
砂利道はどこにも繋がっておらず行き止まりなのでUターンして戻る時にも気配がするはず…
素早く音もなく生きてる人間が砂利道に面した雨戸とドアを叩きながら通り過ぎるなんて事は出来ないと
小学校生の私にも理解できました。
うちは私が生まれてすぐに両親は離婚。
祖父母と同居はしていましたが母子家庭。
生活水準はかなり低かったです。
そのせいか
社長や社長の奥さん、その他の従業員の皆さんにも母も私も色々と親切にしてもらい
「お嬢ちゃんにあげて…」とお菓子やお土産をよくいただいたりしていました。
母は
「社長がこれからも頑張れよって言ってるのかな…」
そう言って泣いていました。
当時はオカルトブームで当たり前のように心霊番組の放送があり
私も当時の小学生が皆そうだったように、好んで番組を見たり、友達と怖い話をしていましたが、
正直なところ半信半疑でした。
でも、この事をきっかけに世の中には目に見えない何かがいたり、
説明のつかない事が起こる事もあるんだなと思うようになったのでした。