祭りも終わり、残暑厳しい中にも夏の陽射しに陰りを感じる今日この頃

少しは自分の時間を持てるようになって買ったものの読めずにいた本を読了

 

上橋菜穂子著 守人外伝

  「風と行く者」

 

 

つれあいの薬草師タンダと草市を訪れた女用心棒バルサは、二十年前、共に旅した

旅芸人サダン・タラムの一行と偶然再会する。魂の風をはらむシャタ(流水琴)を奏で、

異界〈森の王の谷間〉への道を開くサダン・タラムの若い女頭エオナは、何者かに狙わ

れていた。再び護衛を頼まれたバルサは、養父ジグロの娘かもしれないと気づいた

エオナを守るため、父への回顧を胸にロタ王国へと旅立つ。ジグロの娘かもしれない

若頭を守るためバルサが再び命を懸ける!

(文庫裏より)

 

精霊の守り人シリーズ本編では故人となっているバルサの養父であるジグロ。

今作品では回顧という形ではあるが生きたジグロの様子が描かれているのが

嬉しい。私は何と言ってもジグロファン。

ドラマでは吉川晃司さんが演じられててそれはそれは格好よかった。

 

二十年前の旅をなぞるような行程の中でのバルサの違いが面白く

考えるよりも先に体が動くというような若いバルサに対し、月日を経て

中年にさしかかっている今のバルサは培った経験で困難に対処する。

 

また「ジグロの娘かもしれない」とあるように、バルサとの過酷な旅

ながらもジグロにも女性と一時を過ごす時間があった事に、どこか

ほっとするような気持ちにもなった。

 

~せめて、短いこの夏に、枕をかさね、手をかさね、夜の静寂にただよわん~

 

サダン・タラムの恋歌の一節である。

もの哀しくもあり、でも哀しいだけではなく・・・ちょっとじ~んと胸に沁みた。

 

旅の終わりには二十年前の秘密が明らかになり、何故女頭が狙われたのか、

また、それまで続いていた民族の争いに終止符が打たれるのだが、回顧から

現在へとの話の繋ぎ方は流石であり、読み応えがあった。

 

バルサが言う。

「人ってのは案外、いくつになっても半端なもの。ある日、どこか中途半端なまま

 命を終える。その先をどうこうすることが出来ない日はが必ず来る。先のことは、

 そのとき生きている者に任せるしかない。」

 

 

生きてきた時間よりも、この先の時間のほうが既に短いであろう年齢となってきた。

その終の時間というものを考えるに、バルサのように潔くはなれないであろうなぁ。

 

 

 

by鬼灯