『ANIMAL LOGIC』 山田詠美 著 新潮社
主人公は、ヤスミン。黒い肌の美しき野獣。人間の動物園、マンハッタンに棲息中。
あらゆる本能を手下にして幸福をむさぼる彼女は、言葉よりも、愛の理論よりも、
とりこになった五感のせつなさを信じている。物語るのは、私。かねてヤスミンとは、
一喜一憂を共にしてきた。なにせ彼女の中を巡り流れる「無垢」に、棲みついている
私だから...。
Google Booksより
1996年に発行されたこの作品、ハードカバーで573頁に及ぶ長編。
最初に読んだのはかれこれ20年近くまえだろうか。
主人公はヤスミンとなっているが、実際には語り部としてるヤスミンの体内に
いる「ブラッド」だと私は思うのだ。
この「ブラッド」という存在は、目には見えない謎生物である。
ウィルスみたいな感じ?
そういうとSF的なような気もするが、これは純然たる純文学だろう。
そして、ヤスミンという自由奔放に生きる黒人女性の日常を通じて、アメリカの
抱える人種差別や性差別などを浮き彫りにしている本でもある。
だが話はそれだけではなく、「ブラッド」を通して突然死やエイズなどの事にも
触れてくる。
山田詠美氏のどこかエロティックな文章は、一見すると恋愛小説のようでいて、
でもそれだけではない、なかなか考えさせられる本でした。
また、それだけでなく、今読んでも全然古く感じられず、逆に25年前に書かれて
いるのにもかかわらず、というより当時より進歩していないような今の社会に
憂いを感じました。
by鬼灯