昨日の読売新聞の朝刊に「典子は今」の主人公である典子さんの近況が掲載されていた。
「典子は今」(松山善三監督)は1981年に公開された作品だ。
この映画の主人公でもある典子さんは、サリドマイド薬害で生まれつき両腕がない。熊本県に実在する人物である。
サリドマイド薬害とは、1950年代から60年代にかけて世界で販売された鎮痛睡眠薬「サリドマイド」で妊婦が服用すると
生まれてくる子供の手や足に重い障害が出ると各地で報告されていたことから、サリドマイド薬害と当時は言われていた。
当時19歳である白井典子さんが熊本市に採用試験の合格して1年が過ぎた頃、プロデューサーと名乗る男性から電話
があり「あなたの映画を作りたい」と言われたそうだ。現在、「典子」を改め「のり子」と改名した白井のり子さんが当時を
振り返っている。
電話がかかったのちに松山善三監督自ら説得される形で、両親は反対していたものの、足で冷蔵庫を開けたり、お茶
を飲んだりありのままの姿で映画の出演をオッケイしたという。
映画公開後、映画は大ヒットし、現在の上皇ご夫妻も鑑賞されたという。あまりにも大きな反響により、のり子さんは、
「ああ、自分も障害者なんだ」と愕然したという。そして自分の出生の秘密を、大ヒットした映画の事を掲載していた
週刊誌で知ることになる。
典子さんは当時ありのままの姿、両腕がない一人の女性の生活をという事で映画のオファーを受けたはずだといっ
ている。もしかしたら当時の松山監督をはじめ、ほかのスタッフたちも、その思い似た感情があったかもしれない。
しかし本人たちの思いとは別のところで作品は美徳化され、観客たちの同情心や哀れみを受けたというのが真実で
あろう。この作品を見たであろう障害児(私も含めて…)は、周りの親や学校の先生たち「大人」にリハビリを
強要されたり、「典子は今」の暗いイメージの主人公を自分に重ね愕然とした障害児もいたのではと推測する。
そうであるのなら、のり子さんもまた「典子は今」という作品の一番の被害者ではないか?