先日、のどっちというサイトを知った。天鳳の今までの履歴や成績がID検索すれば全て見れるというなんとも恥ずかしく恐ろしいサイトだ。私は男冥利さんのサイト(こちらも天鳳の成績を検索できる)しか知らなかったので、調べられる情報量の多さに驚いた。
私の天鳳ID「水口美香」で検索してみる。

はじめの対局2011-10-14

私が天鳳を始めたのは2011年だったのか。曖昧な記憶ではあるが、これは多分麻雀プロになった初年度だ。
脱サラして麻雀プロになり、まだ右も左も分からない状態であったが、気づかされたことがいくつかあった。

まず、自分があまりにも弱いこと。
そして、女流プロが軽視されている現状だ。

知識や技術がまるで追いついていなかった。どうしたら強くなれるか。そして強くなった先にこの世界で認められることはあるのだろうか。きっとそこに至るまでは途方もない年月がかかることは薄々気づいていた。だから、何か形として残るものが欲しかった。それが一番手っ取り早いと思ったのだ。

その当時から天鳳は一番と言っても過言ではないほど流行っていたネット麻雀だった。
「天鳳で修行しよう。そして段位が上がれば数字として残り、人に認めてもらえるかもしれない。」
そんな安直な考えから私は天鳳を始めることにした。


まず「水口美香」というID。これはプロネームであり本名だ。最初から身分を明かして天鳳をする勇気は私にはなかったのだが、やるなら本名でやるべきという周りの勧めがあって嫌々ながら本名で始めることにした。言われてみればたしかに、麻雀プロとして結果を出したくて始めるのだから、名乗らなければ意味がない。退路を断ち切り、私の天鳳生活はスタートした。

初めのうちはサクサクと段位が上がっていって楽しいが、昇段するにつれて少しずつのしかかってくるラスの重み。
天鳳を知らない方のために少し説明するが、一般的な麻雀と天鳳ではポイントのやり取りの仕組みがまるで違う。

例えば七段だと
1着 +90pt
2着 +45pt
3着 0pt
4着 -135p

といった具合に、トップと2着のプラスポイントをラスが全て請け負うことになる。これが段位によってさらにラスを引いた者にマイナスが加算されていく。
普通の麻雀はトップを目指して打つゲームだが、天鳳でまず目指すべきはラスを引かないことなのだ。トップはついていた時のおまけぐらいと言ってもいい。

私はラスを引くことでとにかく精神が削られた。早く結果を残したいと焦りすぎていたのだと思う。ラスを引いた後は落ち着くまで次の予約ボタンが押せなかったし、3、4連続ラスを引いた時は泣きじゃくったこともあった。つらい、もう辞めたいと思いながらも細々と続ける日々だった。

七段に昇段したのは、のどっちを見て分かったことだが、2014年だった。七段から鳳凰卓という一番上のエリアで打つことができる。そのため私の目標は七段になることであった。
当時はまだ天鳳をする女流プロは少なく、私の存在は目立ったのだろうか、私が鳳凰卓で打つと観戦され、ネット上で批判を受けることがしばしばあった。そのぐらい私はまだまだ弱かった。

ラスを引くつらさと、観戦される重圧で、私は次第に天鳳を打たなくなっていった。天鳳から解放された私は、なぜ今までこんなつらいことをしていたんだろうと思うことさえあった。そうこうしているうちに、多くの女流プロたちが高段者に登りつめていった。それを尊敬の眼差しで眺めつつも、焦りを感じていた。

IDが消えるほど打たなかった空白の数年間を経て、昨年の自粛期間頃からなんとなく天鳳を打ってみた。家にこもってやることがなかったというただただ単純な理由だ。久しぶりで天鳳の盤面把握が追いつかない。もともとリアル麻雀出身の私は、ネット麻雀が苦手だった。リアル麻雀で感じる空気感みたいなものがないし、手出しツモ切りを見ることも容易ではない。
数戦やったのちに当然やってくるラス。またメンタルやられる、そう思ったが何かが違った。昔ほどつらくなかったのだ。一度引退して、天鳳へのこだわりがなくなったのだろうか。ラスを引いた後も自然と予約ボタンが押せる私がいた。

そこからまた少し期間が空くが、年が開けて2021年となり、よく今年の目標はーという言葉を耳にするようになる。私はいつも今年の目標を決めるタイプではないのだが、なんとなく何か目標が欲しいと思った。すごく明確に分かりやすいもの、でもタイトルを取るなどは努力だけではどうにもならないものだ。私の頭を天鳳がよぎった。

「天鳳八段になる」
今年の目標が決まった。

それから鬼打ち勢の方には敵わないが、私の中ではなかなかのハイペースで打った。いちいちラスを引いて落ち込む時間などなかった。

2021年になってから150戦ほど、私は天鳳八段に昇段することができた。昇段戦はタイトル戦決勝並みに息を切らしていた。これを和了れば八段というテンパイをした瞬間から涙が溢れてきた。まだ和了ってもいないのに。その手は無事に和了れて、涙は無駄にならなくて済んだのだが。

メンタル面の成長が天鳳に復帰して一番感じたことだった。ラスは必ず引くものだから、焦らず地道にやっていくしかない。

今後もコツコツとやっていこうと思います。