ドクター三上診察所 -2ページ目

「ゑひもせず…」第4章前半・予告編

「貴明じゃ全然頼りにならないですよ、先輩」
「柳瀬さん、悠子に信用されてないんですね」

「垣宮の柳瀬って人、かっこよかったね!」
「惚れちゃだめだぞ~」

……麻衣は複雑な表情だった。そこからはもどかしさが読み取れた。

「……ぬるいなぁ」

……このとき、和喜と京子の間には、特別な感情が通い始めていた。

「素敵な彼女さんですね」
「いや、あの、うん、どうも」

「彼、やっぱり場慣れしてるよ」

「どうでしたか、姫宮は」


“悪いのにかかったとき、彼ほど純粋だと大変ですよ”


第4章「夜」その1~8、始まる。

新年です。

あけおめことよろでございます。ドクター三上です。


なかなか単発のネタも思い浮かばないので、「ゑひもせず…」第4章に入ろうかなーと思います。

今まで以上にだらだらとした更新になりそうですが、よろしくお願いします。


次回、第4章前半の予告を書いて、その次から第4章に入ります。


ドクター三上でした。

「ゑひもせず…」第3巻〔会〕その17

姫宮高校の、昇降口にて。

実際はただの一階建ての下駄箱であり、昇降口とは言えないが。

「え、それ、ほんとに?」

岡部は驚かなかったが、本来、こういう反応が普通である。

沙希は俊樹から話を聞いて、驚いて、そして何も言えなかった。

カラスが鳴いている。交流会も終わり、夕方になっていた。

「ああ、ほんとだ。俺は遠くに引っ越すことになった」

俊樹は、ここからずっと遠いところに引っ越すことになっていた。

「ねえ、どうして、それをもっと早く言ってくれなかったの?」

俊樹は、なかなかこのことを話せなかった。

タイミングが分からず、昨日ようやく岡部に言ったくらいである。

「それは、特に沙希については、悲しませちゃいけないと思って」

「そういうのって、優しさとは言わないよ、俊樹」

俊樹は言葉を失った。藤岡と京子には、今日ようやく話をした。

藤岡も京子も、沙希と同じように、驚きを隠せないようだった。

「もっと早めに言ってくれたら、色々考えられたのに……」

沙希は目をうるませている。俊樹はもう何も言えなかった。

岡部の言う通り、なにごとにも心の準備は必要だったのだ。

「……もう、俊樹のことなんか知らないんだから!」

「ちょっ……」

沙希は怒って帰ってしまった。俊樹はどうすることもできなかった。


藤岡が、俊樹の隣に来た。

「江川くん、ぼくも、できれば、もっと早く教えてほしかった。

 でも、江川くんなりに悩んでこの時期にしたんでしょ?」

その通りだった。俊樹は何も言えなかった。

「ぼくは、江川くんのそういう不器用なところが、ある意味好きだよ」


カラスは鳴き続ける。哀愁を漂わせて、遠くまで届く声で。



                      ――― 第4章「夜」に続く ―――