キョーコは作った料理を暖めればすぐに食べられるように小分けして冷蔵庫に納めた。台所を片付けて自分の荷物をとり、蓮の部屋をでた。社から預かったカードキーは郵便受けに入れて、蓮のマンションをあとにした。

この日の仕事は夕方のきまぐれだけだったので、午前中は学校へ行くつもりにしていたが、どうしてもその気になれずに、駅近くのコーヒーショップで軽く朝食をとっていた。お店の一番奥にある少し死角になる小さなテーブルに座り、今にも泣き出しそうな低い雲を眺めて小さなため息をこぼす。近くのテーブルに座っているサラリーマンが広げたスポーツ新聞。はでな色使いに視線を投げるとさっきまでテレビで報じられていた蓮の記事が目に飛び込んでくる。

「最悪…」

小さく呟くと湯気を立てているコーヒーカップを両手でもち゛テーブルに肘をついて背中を丸めた。砂糖もミルクも入れていないコーヒーを一口含むと独特の苦味が口の中いっぱいに広がる。その苦さはキョーコの心の奥にまで染み透るように喉を伝って体に広がって行った。

「バカみたい、いえ、はっきり言ってバカだわ。」

自分を罵倒する言葉がすらっと口から溢れて落ちた。クスッと小さく笑いが込み上げてくる。ほんの一時だったが舞い上がって浮かれてしまった自分に失笑してしまう。同じくして目頭が熱くなる感触に戸惑う。視界が滲んでぼやけていく。視界を遮るものが涙だと気づいても、キョーコはそれを拭う事すら忘れていた。両手でコーヒーカップを持ったままキョーコは少し泣いた。