おばちゃんに見送られてお店を後にしてまた二人でサイクリング。お日様はもう夕方の顔になっている。お店の前でおばちゃんに冷やかされたのを思い出してまた顔に熱が集まってくる。

「あら、可愛い自転車だねえ。お揃いかい?」
にこやかに二人を眺めるおばちゃんに『ちがう』と言いかけた時に隣から敦賀さんの声。「そうなんですよ。よく気づいてくれましたね?」と、とても神々しい笑顔を添えていらっしゃる。
「いいねぇ、若いってのは。気をつけて行きなよ。」
「はい、ありがとうございます。また寄らせてもらいます。」
二人の会話に入って行けずにぼんやりしていると敦賀さんに頭をクシャッと撫でられた。
「行こうか、最上さん?」
「はっ、あ、はいっ!」
「キョーコちゃんも気をつけてね。」
「うん、おばちゃんご馳走さまでした。また来ますね!」

少し前を走る敦賀さんは上機嫌で、私だけがあたふたしているのが何だか悔しい。
赤信号で止まって、敦賀さんもよく知っている道に出た。

「敦賀さん」
「えっ、なに?」
「マンションまで競争ですよ!」

そのタイミングで信号が青に変わった。私はいろんなモヤモヤを吹き飛ばすために夢中でペダルを漕ぐ。いつもの自転車よりぐんぐん加速する。凄く気持ちがいい。敦賀さんには何をしてもあまり勝てる気がしないけれど、自転車なら勝てると思う。だからいきなり競争なんて持ちかけて、返事を待たずにスタートダッシュした。

角を曲がると敦賀さんのマンションが見えた。後700m。段々近づいてくる目的地に気恥ずかしさを覚える。(私さっきまるで自分の家のように『マンションまで競争』なんて言っちゃったけど、敦賀さん怒ってないかしら?)

もうすぐエントランスに着くとあうところまで来た時に、すっと白い影が横に並んだ。そしてタイヤ一個分前にでて…、敦賀さんが先に着いた。あれ?私が負けちゃうなんてっ!

「俺の勝ちだ。ご褒美が楽しみだな!」
そんな事を仰る敦賀さんはどこか夜の帝王めいていてちょっと怖い。

エレベーターに自転車を押して並んで乗れるのに驚いた。このマンション、こんなところまで豪華なのよね。エレベーターを降りて玄関前のスペースに自転車を並べて置いた。そこにちゃんと私のものが収まる場所があるって事がなんとなくくすぐったくて…嬉しい。この昼下がり、素敵な時間を過ごせた。敦賀さんのおかげ。私はもう少し素直になってもいいのかな?

End