「敦賀さん、ちょっと止まっていいですか?」
「君の思うままに。」
そんな答えに少し狼狽えながらも私はたこ焼き屋さんの前で止まる。ラッキーな事にお客さんは居ない。お店の出入りに邪魔にならない所に自転車を止めると敦賀さんが隣に並べて自転車を止めた。それぞれロックをかけるとさっき店員さんに貰ったワイヤーキーで敦賀さんが二台を繋ぐ。

「これでよし。ここは何屋さん?」
「たこ焼き屋さんです。自分で焼かせてくれるんです。敦賀さんは経験ありますか?」
「いや、たこ焼き自体初めてだな。」
「なら、是非とも!」

お店に入るとおばちゃんが出迎えてくれた。

「キョーコちゃんいらっしゃい。あら、男連れとは珍しい!」

おばちゃんはまじまじと私と敦賀さんを見比べていたが、はっと驚いた顔になり「ま、まさかねぇ?」と独り言を呟く。

「おばちゃん、たこ焼き二人前。それとみかん水二つ。」
「あ、はいはい。それで足りるのかい?」
「おやつ程度だから。」
「そうかい。自分で焼くのかい?」
「うん。この人、たこ焼き自体が初めてだから…。」
「そうかい。じゃあ、がんばるんだよ、お兄ちゃん!」
「はい、ありがとうございます。」

テーブルの真ん中にたこ焼き機が置いてあって、まずおばちゃんが鉄板を暖めてくれる。その間にタコを切り、ネギを刻んでてんかす、紅生涯を用意するおばちゃん。たこ焼き生地は作らずに私を呼ぶ。
「キョーコちゃん、生地はあんたが合わせておくれ。ちょうどよかった。お店の分も作っとくれよ?」
「もぉ、おばちゃんすぐに楽しようとするんだから…。」
「だってさ、あんたのおかげてこの店も評判になったんだからね!」
「おだてても何も出ませんよ。」
「お世辞じゃ売上には繋がらないからね。」
「ありがとう。すぐ作るから。あ、…」思わず敦賀さんの方をみた。おばちゃんとの話が楽しくてつい敦賀さんを置き去りにしてしまっていた。敦賀さんはテーブルに頬杖をついて楽しそうにこちらを眺めている。
「あの…」と名前も呼べずに戸惑う私に、「キョーコちゃん、せっかくだからお願いきいてあげなよ?」と神々スマイルを炸裂させる。私はともかく、おばちゃんは一気に顔を真っ赤にして頭から湯気を出しそうな勢いでアタフタする。私はそんなおばちゃんの姿が可愛くてクスクスと笑いを抑える事が出来なかった。