防犯登録も終わり、解錠用の鍵をそれぞれ受け取る。店頭で「「お世話になりました。」」と挨拶をすると、店員さんがワイヤーの鍵を一つ敦賀さんに差し出した。敦賀さんはきょんととして店員さんとワイヤーキーを交互に見る。
「この自転車は二台とも小さくて軽い。だから、そのまま持っていかれてしまう恐れがあるんです。だから、一緒にお出かけの際はこのワイヤーキーで二台を繋いでおいて下さい。流石に二台を一度に持って行く事も難しいでしょうから。」
「なるほど、ありがとうございます。」
「それから、一週間くらい乗ったらご都合のいい時にお立ち寄り下さい。メンテナンスと微調整をさせていただきます。」
「「はい、よろしくお願いします。」」

それぞれに自転車を押してお店から立ち去る私達を店員さんは頭を下げたあと手を振って見送ってくれた。そのまま私達は近くの公園まで他愛もない話をしながら歩いて行った。そろそろ西に傾きかけたお日様があたたかい。

「ここから俺のマンションまでどのくらいかかるかなぁ?」
「そうですね、30分くらいで帰れると思いますよ?」
「へぇ、そのくらいで帰れれちゃうんだ。なら、自転車で帰ろうか?」
「えっ?私はともかく、敦賀さんが街中を自転車で走ったりしたら…、イメージとか大丈夫なんですか?」
「別に問題ないと思うよ。」
「街中でパニックに…」
「ならないよ。意外と解らないもんだよ?」
「…はぁ。」
「最上さんは道に詳しいから、俺ん家までナビゲーターよろしくね?」

そう仰る敦賀さんの言葉は凄く柔らかいのに嫌と言えない雰囲気で…。「…はい」と小さく返事をしてしまった。

私は、あえて人や車が少ない道を選んでペダルを漕いだ。快適に進んでくれる自転車に気をよくしてスイスイ走ると、いつもの自転車よりもぐんぐんスピードが出てしまう。凄く快適!
でもふと我に帰る。確か、敦賀さんは自転車初心者って店員さんに言われてたわよね?こんなパーツにサクサク走って大丈夫かしら?
そんな心配は無用で、敦賀さんは涼しい顔で少し後ろを走ってらっしゃる。
流石に敦賀さんと思う反面、なんとなく悔しい。

「最上さん、こんな道よく知ってるね?」
「だって大通りは上手く走れないんです。」
「それに、退屈しないね。あれなに?」
敦賀さんが指差す方を見ると、お豆腐屋さんが見えてきた。その隣にお菓子屋さん。あ、たこ焼き屋さんも近くにあったはず。私は庶民の街を満喫している。